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第10章 12月-二人(2)
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ぎし、とベッドが傾くのを感じて、ふと目を覚ます。いつの間にか転た寝していたようだった。既に電気は消されて暗闇に包まれた中で、茂が横に入ってくる。
「ごめん」
茂が、囁くように言う。
「俺、ここで寝ていいんだよな」
「うん」
体の向きを変えながら、少し端に寄ってスペースを空ける。シーツの上に落ちていた本に栞を挟み、ヘッドボードの上に置いた。茂は、枕代わりに置かれていたクッションの位置を調整してから、体が触れないくらいの位置に横たわった。茂の体温が感じられないような、でもやはり少し温かいような距離。茂は女じゃないから、これが自然な距離なのだろう。
お互いに言葉は発せず、そのまましばらく並んで横たわっていた。天井を見上げながら、高志は二人で旅行した日の夜のことを思い出した。あの日初めて自覚した気持ちと、同時に覚えた絶望。そして今すぐ横にいる茂の、その気持ちが実際にはずっと自分にあったことをあらためて噛み締めた。今こうしている時にも、お互いに対する気持ちは同じものなのだと考える。まだ現実味が伴わずにいたが、それでも深い安心感を覚えていた。
隣で茂が寝返りを打つ気配がする。高志も顔だけ横を向くと、こちらを見ていた茂と目が合う。暗がりの中でも、かすかに穏やかな表情が見えた。
「……さっきの」
「ん?」
「お前からキスしてくれたの、二回目だな」
茂の声には、今までにない甘さが滲み出ていた。
「二回目?」
「大学の時、最後に別れる時に初めてしてくれた」
「ああ、そうだっけ」
「またして。……嬉しいから」
「うん」
初めて、茂のむき出しの本音を聞いたような気がする。お互いにもう何も隠す必要はない。何度も体を繋げたことを知らないふりをする必要もない。今まで見たことのないような無防備な茂の表情に、高志は思わず手を伸ばして茂の頬に触れた。
「またするよ」
できる限りの気持ちを込めてそう言うと、触れた指の先から、茂が小さく頷くのが伝わってきた。
山々と田畑に囲まれた見知らぬ田舎道を、高志は一人で歩いていた。茂に読み方を教えてもらった住所を頼りに、茂の実家を訪ねるところだった。
この道を真っ直ぐ歩いていけば茂に会える。まだ見えない、この道の先にある昔ながらの日本家屋。農家らしい広々とした敷地と納屋、停められた軽トラック。そこに行けば茂がいると分かっていた。もうすぐ会える、やっと会える、そんな期待を持ちながらひたすら足早に歩き続ける。延々とその一本道を進んでいって、それでもどこまで行っても一向に目的の家は見えなかった。そこに行きさえすれば茂がいるのに。笑って高志を迎えてくれるのに。
そんな夢を見ながら、翌朝、高志は目を覚ました。
夢から醒める瞬間、その現実との狭間で、高志は茂に連絡を絶たれた時に感じたあの絶望を思い出していた。茂がこの世界中のどこにいるのか分からない、どうしようもないあの喪失感。忘れていたはずのそれは妙に生々しく、胸の痛みすら伴っていた。でももう茂が姿を消すことはない。覚醒しながら昨日の出来事をひとつずつ思い出す。
深く息をつきながら高志が目を開けると、隣には、いつもより幼く見える寝顔で眠る茂がいた。
茂が起きるのを待ってから、一緒に朝食を取りに出る。朝特有の気だるさの中で、二人は言葉少なに歩いて適当な喫茶店に入り、モーニングを食べた。茂は「なかなか寝付けなかった」と言い、少し眠そうにしていた。
「お前、今日何時くらいに帰るの」
「え? 別に決めてないけど」
高志が尋ねると、茂はそう答える。
「何か用事あった? 今日」
「じゃなくて。昼飯、何か買って帰っとくか。また出るのも面倒だし」
「あ、そうだな、そうしよう。どうせ昼は過ぎるだろうから」
店を出た後、駅ビルに入っているドラッグストアとスーパーに寄って必要なものを購入してから、二人は高志の部屋へ帰った。
「ごめん」
茂が、囁くように言う。
「俺、ここで寝ていいんだよな」
「うん」
体の向きを変えながら、少し端に寄ってスペースを空ける。シーツの上に落ちていた本に栞を挟み、ヘッドボードの上に置いた。茂は、枕代わりに置かれていたクッションの位置を調整してから、体が触れないくらいの位置に横たわった。茂の体温が感じられないような、でもやはり少し温かいような距離。茂は女じゃないから、これが自然な距離なのだろう。
お互いに言葉は発せず、そのまましばらく並んで横たわっていた。天井を見上げながら、高志は二人で旅行した日の夜のことを思い出した。あの日初めて自覚した気持ちと、同時に覚えた絶望。そして今すぐ横にいる茂の、その気持ちが実際にはずっと自分にあったことをあらためて噛み締めた。今こうしている時にも、お互いに対する気持ちは同じものなのだと考える。まだ現実味が伴わずにいたが、それでも深い安心感を覚えていた。
隣で茂が寝返りを打つ気配がする。高志も顔だけ横を向くと、こちらを見ていた茂と目が合う。暗がりの中でも、かすかに穏やかな表情が見えた。
「……さっきの」
「ん?」
「お前からキスしてくれたの、二回目だな」
茂の声には、今までにない甘さが滲み出ていた。
「二回目?」
「大学の時、最後に別れる時に初めてしてくれた」
「ああ、そうだっけ」
「またして。……嬉しいから」
「うん」
初めて、茂のむき出しの本音を聞いたような気がする。お互いにもう何も隠す必要はない。何度も体を繋げたことを知らないふりをする必要もない。今まで見たことのないような無防備な茂の表情に、高志は思わず手を伸ばして茂の頬に触れた。
「またするよ」
できる限りの気持ちを込めてそう言うと、触れた指の先から、茂が小さく頷くのが伝わってきた。
山々と田畑に囲まれた見知らぬ田舎道を、高志は一人で歩いていた。茂に読み方を教えてもらった住所を頼りに、茂の実家を訪ねるところだった。
この道を真っ直ぐ歩いていけば茂に会える。まだ見えない、この道の先にある昔ながらの日本家屋。農家らしい広々とした敷地と納屋、停められた軽トラック。そこに行けば茂がいると分かっていた。もうすぐ会える、やっと会える、そんな期待を持ちながらひたすら足早に歩き続ける。延々とその一本道を進んでいって、それでもどこまで行っても一向に目的の家は見えなかった。そこに行きさえすれば茂がいるのに。笑って高志を迎えてくれるのに。
そんな夢を見ながら、翌朝、高志は目を覚ました。
夢から醒める瞬間、その現実との狭間で、高志は茂に連絡を絶たれた時に感じたあの絶望を思い出していた。茂がこの世界中のどこにいるのか分からない、どうしようもないあの喪失感。忘れていたはずのそれは妙に生々しく、胸の痛みすら伴っていた。でももう茂が姿を消すことはない。覚醒しながら昨日の出来事をひとつずつ思い出す。
深く息をつきながら高志が目を開けると、隣には、いつもより幼く見える寝顔で眠る茂がいた。
茂が起きるのを待ってから、一緒に朝食を取りに出る。朝特有の気だるさの中で、二人は言葉少なに歩いて適当な喫茶店に入り、モーニングを食べた。茂は「なかなか寝付けなかった」と言い、少し眠そうにしていた。
「お前、今日何時くらいに帰るの」
「え? 別に決めてないけど」
高志が尋ねると、茂はそう答える。
「何か用事あった? 今日」
「じゃなくて。昼飯、何か買って帰っとくか。また出るのも面倒だし」
「あ、そうだな、そうしよう。どうせ昼は過ぎるだろうから」
店を出た後、駅ビルに入っているドラッグストアとスーパーに寄って必要なものを購入してから、二人は高志の部屋へ帰った。
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