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7.呪われしアルストメリー

ルカと神の恐ろしい秘密

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アルフィーは、ルカの話を疑った。

知識というものは、思考するための道具である。
道具は多ければ多いほど良い、というものではない。
多いからこそ、それらはぶつかり合うことも十分にある。
アルフィーの頭の中は、引き出しのように綺麗に整頓されているが、取り出した知識同士がぶつかり合うということは日常茶飯事。
例えば、キノコという、たった一語についても、アルフィーの中には無数の情報がある。
名前、生息地、毒の有無というのは当たり前。
どういう物質で構成されているのか。
何と一緒に調理をすれば、美味しいのか。
などなど、知識の種類をあげればキリがない。

知識の吸収は、スポンジのように。
だけど知識の保管は、何物にも壊されない、鋼鉄の器の中に。
それがアルフィーの脳。
だからこそ、矛盾に対しては酷くアレルギー反応を起こす。
知っている知識のはずのものに、あり得ない知識が融合した時、アルフィーは酷く動揺し、疑惑という形になって、表に出る。

ルカの「神の声」の話は、まさにアルフィーの持つ知識と相反した。

「神がそんなことを、お前のような子供に言うものか」

アルフィーにとっての神は、国が信仰する存在。
それは偶像化されたものかもしれないし、自然そのものかもしれない。
それは、人によっても、国によっても違う。
神の声を伝える者も、あちこちに出てきているのも、アルフィーは知識として知ってはいる。
そういう人たちのことを、伝道師と、いうらしい。
だが、伝道師という存在は、神の声を伝えるだけの存在で、人間はそれを受け取るだけにすぎない。

それが、神と人間の違い、のはずだ。
アルフィーは、神と人間の関係はそういうものであると、脳の中にインプットをしていた。
だからこそ、ルカが

「西に行けば、お前を助けるやつと会わせてやろう」

などと神という存在が言ったことは、疑う他なかった。
アルフィーの問いかけに対して、ルカは

「うーん」

と頭上を見ながら考えていた。
それから、うん、うんと数回頷いていた。
まるで、空と対話をしているように、アルフィーには見えた。
そしてルカは

「うん、わかった」

と空に向かって言うと、アルフィーに向かって満面の笑みを浮かべた。

「な、なんだ……?」
「よかったね!おじさん!」
「な、なに?」

何がよかったと言うのか?
そもそも、自分はおじさんなどではない。

などと、アルフィーが、次の言葉を選んでいる間に

「神様がね、おじさんにだったら話しても良いよって言ってる」

と、ルカが突拍子もないことを言い出した。

「……は?」
「おじさんも、特別な人なんでしょう?」
「特別な人……だと?」
「うん、神様が教えてくれた。だから、私も神様と私しか知らない秘密を教えても良いって言ってる」
「秘密……だと?」

アルフィーがそう言うと、ルカは祈りをするかのように、手を大空に広げてから

「神様ー!キノコに合う美味しいものが欲しいですー!」

と叫んだ。
すると、風がさあっと吹いたかと思うと、またルカが

「うんうん」

と頷いている。

「わかったーありがとー!」

再び、ルカが空に向かってお礼を言うと

「あっちから、美味しいものがくるって」
「え?」

ルカが指差した方向を、アルフィーも見てみると、どすどすどすと、大きな獣の足音だと明らかにわかる音が、森の方から聞こえてきた。

「おい、まさか……」

アルフィーがルカに尋ねる前に、大きな獣がアルフィーとルカの前に現れた。

「神様がね、キノコと一緒に食べるととっても美味しいから、連れてくるよって言ってくれたのー」
「はあ!?」

それから、アルフィーはあの手この手の知識を総動員して、どうにか獣を倒した。
その結果として獣肉とキノコを美味しくいただくという、ルカの希望が叶う形になった。

まだ、これだけの出来事で結論づけるのは早いと、アルフィーの理性が警告するが、仮説はすでにできている。
ルカという少女は、神になんらかを願うとする。
ルカが神と呼ぶ存在は、ルカの望みが叶う方法を伝授する。
その結果、ルカの望みは叶う。

簡単に解釈すると、これだろうが……十分これでも恐ろしい力だと思った。
でも同時に、この仮説が正しいとするなら、ルカを味方につけておいた方が、疑うよりは自分の身が安全だろうと、アルフィーは考えたから。
なのでアルフィーは、ルカが言う西の方に、共に進む決意をした。

実際、その判断がその時は正しいことを知ったのは、それから数日分西に進んでから。
だけど一方で、ルカが持つ「魔」の恐ろしさにアルフィーが気づいたのも、同じタイミングだった。
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