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File01 異世界で、科学捜査官ならぬ魔法捜査官になった件
#02 南城乃 惣太その2
しおりを挟む「……残念でしたね」
「まあ、このくらいは想定内だからね。がっかりしてないよ」
サミちゃんの言葉に、強がりを言う。
死者の霊というのは、死の直前に思ったことや、強い心残りを一方的に語るだけだ。生きていた時と同じようにコミュニケーションをとれるわけではない。
「死因は後頭部への一撃だし、犯人の姿を見てないのかもね」
霊を死体へ戻したクロエさんが言う。
犯人を見ていれば、そしてそれが知り合いだったなら、霊は犯人が誰か語っただろう。
だけど彼は犯人を見ていなかった。
へたすると誰かに殴られたこと自体気付いてないのかもしれない。これでは証言できない。
「じゃあ、あとの作業はラボに戻ってからだね」
気分を変えるため、明るく言う。
世の中、そううまくことは運ばない。ここが魔法のファンタジーな世界でもだ。
「んじゃ、彼にはもうひとがんばりしてもらおうか」
そう言うと、クロエさんはちょいちょいと指で招くような仕草をした。
すると、被害者の死体がびくっと震えた。
ぎく、しゃく……そんな擬音が聞こえそうな、ぎこちない動作で死体が立ち上がろうとしている。
クロエさんが死霊術で死体を動かしているのだ。
「うわぁ……」
オレは思わず数歩後ずさった。
本物のゾンビだ。
クロエさんのこの術を見るのはじめてじゃないけど、まだ慣れない。
膝立ちになったところで、死体と視線が合った。
ぞぞ…っと怖気が走る。
次の瞬間、死体の膝がかくってなったかと思うと倒れた。顔面から床に倒れ、いやな音がした。
「硬直がハンパかな。もうちょっと硬いか、新しいと動かしやすいんだけど」
クロエさんが眉をひそめながら、指をくいくいっと動かす。まるでマリオネットを操るような動作だ。
見えない糸に操られるように死体が立ち上がる。
ゆら、ゆら…と揺れながらも死体はとにかく立っている。
「うん、安定した。じゃ、帰るわよ」
「あ、待って下さい。これを」
サミちゃんが、立ち上がった死体にフード付きのマントを着せた。これでぱっと見、死体には見えない。
オレたちの魔法捜査研究所──略して魔捜研は、そのたいそうな名前と裏腹に、馬車の一台もない小さな研究所だ。
だから現場から死体をラボに持ち帰る場合、死体に歩いていってもらうのだ。
「やっぱり、気味悪いですよね」
と、サミちゃん。
さすがの彼女も死体が歩くのは気味悪いのだ。
「ぎくしゃくしないで、しゃんとして歩いてくれればいいのですが……」
しゃんと背筋をのばしてしゃきしゃき歩く死体……。
それはそれでいやだぞ。
× × ×
「おう、おかえりなのじゃ」
ラボに戻ると、リビング兼会議室にその人がいた。
見た目は小学校高学年、一〇~一二歳くらいの女の子。
ソファに座って足をぶらぶらさせ、ちんまい両手でティーカップをもって、ふーふーしてお茶を飲んでいる。
しかし、この外見に騙されてはいけない。
──大賢者ノーマ・ナージャ・コンリーロ。
彼女こそ、このクレイエラ王国で最高の賢者にして魔法使いなのだ。
若返り魔法を失敗したとかで、ほんとうの年齢は五〇〇歳を超えているという。その実力と名声は、王国はもちろん、大陸中に轟いているとかいないとか。
ついでに、この魔法捜査研究所の所長でもある。
もっとも所長なのにあまりラボにはいない。
大賢者としての公務か、単に気まぐれなのか、ちょいちょい留守にするのだ。
「先生、いつ戻ってきたんですか?」
クロエさんでさえこの人には敬語を使う。
「ん、ついさっき来たところなのじゃ。ほれ、お土産じゃ」
「わぁ、ありがとうございます」
紙包みを渡され、喜ぶサミちゃん。
包みの隙間からなんか黒いもの──両生類の干物のようなものがたくさん入っているのが見えた。
「先生~、アタシには~?」
「ちょっと待つのじゃ。たしかこの辺に……ほれ」
「やった! 先生ダイスキ!」
金色の小さな竪琴がついたペンダントを渡され、クロエさんが子供みたいに喜ぶ。
なんか、おばあちゃんと孫たちの会話みたいだ。
そのおばあちゃんが見た目小学生だからヘンな感じだ。
「のじゃ子さん、オレには?」
のじゃ子さん──オレはその特徴的な口調もあって、彼女をそう呼んでいる。
「もちろんあるぞ」
と言って取り出したものは──
「なんですか? この猫の足跡みたいなものは?」
たぶんキーホルダーだろう。
三センチくらいの円盤が付いていて、そこにピンク色の猫の足跡が描かれている。
「かわいいです~」
「ケット・シーの足形ね」
サミちゃんに続いてクロエさんが言う。
「厄除けのお守りなのじゃ。何かと不運なおぬしにぴったりじゃろ」
と、のじゃ子さん。
確かに、この世界に来てすぐに、オレはとんでもない目に遭った。死ぬかと思ったこともある。
しかし、サミちゃんの言うとおり、かわいいアイテムである。
女の子ならともかく、オレが身につけていたら笑われないか、これ。
「ちなみに」
と、のじゃ子さんが小さな黒猫の置物を取り出した。
大きさは一〇センチくらい。見た目は黒猫のダルマといった感じ。
「ソータが死ぬほど危険な目に遭うと、これの目が光って知らせてくれる」
「喜んで身につけさせていただきます」
オレは腰を直角に折ってのじゃ子さんに礼をした。
この世界はマジでヤバいからだ。
ちょっとした不運、うっかり口を滑らせただけで、とんでもない目に遭うのだ。
そう言えば、のじゃ子さんと出会った時もそうだっけ──
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