まじらぼ  冤罪を魔法で科学捜査して晴らす研究所

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File01 異世界で、科学捜査官ならぬ魔法捜査官になった件

#08 サミちゃん その1

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 のじゃ子さんに連れて行かれたのは、街の大衆食堂だった。

 看板には太陽の絵と『日の出』の文字。

 ヨーロッパの古い街にありそうな建物に、日本語の看板がつけられているのはやっぱすごくヘンに感じる。

「いらっしゃいませ」

 中に入ると、明るく、かわいい女の子の声がした。そして──

「きゃあ!」
「わぁっ!?」

 女の子にぶつかった。

 彼女が運んでいたトレーの上にあったカップやら皿やらが襲いかかって来た。

 幸い、中身はほとんど入ってなくてダメージはなかったけど。

「大変!」

 女の子の声で気づいた。カップの中に飲み残しのワインがあって、それがオレの上衣にかかって赤いシミを作っていた。

「わぁああ! ごめんなさぁい!」

 大騒ぎで謝る女の子。彼女の姿にオレは目を奪われた。

 とんでもなくかわいい子だ。
 歳は高校生くらいか。しかしオレの目を引いたのは別のところだった。

 コバルトブルーというのだろうか、彼女の、さらさらのストレートロングの髪は、南の海みたいな鮮やかな青色をしていた。ぱっちりした目も同じく青色だけど、より深く濃い青だった。

「すぐ処置しますから!」

 そう言うと彼女は腰のポーチから小さな容器を取り出した。
 大きさといい形といい、卓上用の醤油差しそっくりだ。中に真っ黒い液体が入っているし。

「え? ちょっと…!」 

 彼女は醤油みたいな真っ黒な液体を、ワイン染みにふりかけた。

「えぇっ!?」

 ワイン染みがみるみる消えてゆく。
 醤油みたいな黒い液体かけたのに、シミだけが消えている。どうなってるの?

 驚いている間に、青い髪の彼女はシミが消えた服を布巾でぽんぽんとたたいて拭いて水気をとった。

「見事な出来じゃのサミ。自作の品か?」
「はい、いつものことなので用意しました」

 のじゃ子さんに答える女の子。サミという名らしい。

「大変失礼しました」

 そう言って女の子──サミちゃんはオレにぺこり、と頭を下げた。

「ハーブティを二つ頼む」

 四人掛けのテーブルに着いたのじゃ子さんがオーダーする。

「はい、かしこまりました」

 と、明るく言うと、サミちゃんは奥の厨房へと小走りに向かい──

「あうっ!」

 コケた。

「だいじょうぶ?」

 いま、顔からコケたように見えたぞ。

「ありがとうございます。でも平気です。わたし、丈夫ですから!」

 かわいく笑顔で応えると、サミちゃんはあらためて厨房へと向かった。

 見れば他の客たちも、ほっこりした顔で彼女を眺めていた。
 いつものことなのか、アレ。

「驚いたようじゃの」

 オレが座るのと同時にのじゃ子さんが言った。

「ドジっ子って、ほんとにいたんですね。さすがファンタジーな異世界だ」
「そっちじゃない。ワインの染みじゃ」
「あ、そっちか」

 サミちゃんのかわいさとドジっ子のインパクトが強すぎて、ワイン染みが一瞬で消えたことなんかどこに飛んでいた。

「あれも魔法なんですか?」
「錬金術じゃ。服のシミ抜き、洗剤、消臭剤。上下水道の浄化に金属の精錬。合成樹脂や合成繊維、その他諸々の薬品の製造と、家庭用の品から大規模施設、産業まで幅広く利用されている魔法じゃ」
「あっちの世界の化学みたいなものか……」

 オレは呆然とつぶやいた。

 なんとなく感じていたけど、この国──いやこの世界は、魔法が科学の代わりをしているんだ。

 木のロボットの馬。魔法の火で調理。葬儀屋はドライアイスではなく死霊魔法で遺体を保存する。そして錬金術だ。科学文明ならぬ魔法文明ってことか。

「じゃあ、あの子は錬金術師なんですか」
「錬金術アカデミー、その生徒じゃ」

 錬金術の学校か。あっちの世界の工専みたいなものかな。

「お待たせしました。ハーブティ二つです」

 と、サミちゃんがハーブティを運んで来てくれた。

「丁度いい。サミ、そこに座れ」

 のじゃ子さんに言われ、サミちゃんはオレの向かい、のじゃ子さんの横に座った。

「こやつはソータ。今日、この世界に来たマロウドじゃ」
「わあ、マロウドさんですか! わたしはじめてです」

 驚きに目を見開くサミちゃん。仕草とか反応がいちいちかわいい。

「はじめまして、わたし、サミュジーナ・ドステンといいます」
「さ、さみゅじ…っ!」

 彼女の名を言おうとして、舌を噛んでしまった。

「他所の方には発音しにくいですよね。サミって呼んでください」

 そう言って微笑むサミちゃん。

「じゃあ、サミちゃんで。オレは南城乃 惣太。ソータでいいよ」
「はい、ソータさん」

 明るく返事するサミちゃん。

 なんだろう…彼女に名前を呼ばれると、ほんわかした気分になる。

 これは癒やし…サミちゃんは癒やしそのものだ。

「このソータが、お主の難儀を解決する知恵を貸してくれるそうじゃ」
「ええっ?」

 サミちゃんの癒やし効果にぽやんとしてたオレは、のじゃ子さんの声で我に返った。

 そんなこと聞いてないんですけど? のじゃ子さんに抗議しようと思ったが──

「ほんとですか?」

 サミちゃんがすがるような目で見ている。

「……とりあえず、どんな内容か聞かせてください」

 こんなかわいい子に、あんな目で見られたら、なんとかしなくては! って思っちゃうじゃないか。

「さっきも言ったが、サミは錬金術アカデミーの一年生じゃ。全寮制で、試験に合格すれば平民でも入ることが出来る」
「平民でも?」

 オレはサミちゃんに眼を向けた。

「うむ、先代王が、平民にも門戸を開くよう改革したのじゃ。──ちなみに、サミの家は郷士。準貴族ともいって、身分的には貴族と平民の間じゃな」
「え? するとサミちゃんはお嬢さま?」

 てっきり庶民だと。いや、天然ぽいところはお嬢さまらしいといえばらしいか。

「わたしのお家は田舎の旧家ってだけですよ。とてもお嬢さまだなんて」

 あわててぱたぱたと手を振るサミちゃん。

「謙遜するな。ドステン家は東方で十指に入る名家じゃろ。歴史と家格ではその辺の貴族たちなぞ及びもつかぬ」
「そうなんですか?」

 サミちゃんのほうが驚いているし。「これじゃ」とのじゃ子さんも苦笑する。

「とにかく、サミの家は由緒ある家で、老舗のワイナリーでもある。じゃから娘をアカデミーに入れたのじゃ」
「醸造とその過程で出る汚水の処理。絞りかすを使った蒸留酒作り。あらゆることに錬金術が関わりますから」

 のじゃ子さんの後を継いでサミちゃんが言う。

 なるほど。やっぱりこの世界の錬金術って化学なんだな。

「ところがこのサミ、錬金アカデミーはじまって以来の劣等生でな。成績は学年最下位じゃ」
「あううう……」

 真っ赤になって俯いてしまうサミちゃん。

「ひょっとして、回答欄を間違えて書いちゃったとか?」
「どうしてわかったんですか?」

 声を上げるサミちゃん。

「オレも前に似たようなことやったから」

 さっきのドジっ子ぶりをみて…とは言えない。しかし案の定だったか。

「そうじゃったのか。なるほど……」

 一方、のじゃ子さんは何か納得していた。

「さて、ここからが本題じゃ」

 ハーブティを一口飲んでからのじゃ子さんは続けた。

「先月のことじゃ。錬金術のコンクールで、サミの作品が入賞した」
「へぇ。サミちゃんって実技が得意なんだね」
「ええ」

 あれ? サミちゃん、なんか沈んでないか?
 てっきり「えへへへ」と照れると思ったのに。

「ところが、サミが出したエーテル水に不正の疑いがかけられた」
「ええっ!?」

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