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第一章 旅立ち
09.騙された
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「ええっ? 違うわよぉ。ここは愛の酒場よ。お客様を愛で癒すだけよぉ」
「その愛って、性交ですか?」
「あらっ……可愛い顔してはっきり言うのね……。でも、そこまではしないわよ。手やお口程度ね。……まあ、盛り上がっちゃったら後は本人たちの問題っていうことで、店の奥に部屋はあるけれどね」
つまり、表向きはともかく実際には性交もしているということだろう。ミゼアスは拳を握り締めた。
「……僕は花嫁修業というのを見て来たのですが、どこが花嫁修業なんですか?」
「そりゃあ、男を悦ばせる技術を身につけたら、旦那様だって嬉しいじゃない。花嫁には必要なことだわぁ」
ベティの答えにミゼアスは俯く。
──騙された。
その思いがミゼアスを支配する。そんな技術くらい、とっくに身についている。それ以外のことを身につけたいのだ。
「あらっ、モーランの旦那だわ」
ミゼアスが俯いている間に、ベティは表へと出て行ってしまった。
今すぐ辞めて帰るべきか、それとも給仕役程度なら時間まで我慢するべきか決めかね、ミゼアスはとりあえずベティの後を追うように表へと出て行った。
「おやおや、新人かね。可愛らしい子じゃないか。こっちへ来て、私の相手をしなさい」
すると良い身なりをした黒髪の男が、ミゼアスを見るなりそう言った。男の向かいではベティが愛想笑いを浮かべて立っている。
「この子はまだ今日入ったばかりなので……」
ベティがやわらかく男を諭そうとする。
「いいではないか。……ほら」
男がベティに何かを握らせる。するとベティはにんまりとした笑みを浮かべ、受け取ったものをそっと懐に隠した。
「……仕方ないですね。フェイちゃん、お相手して。旦那の言うとおりにしていればいいだけだから」
ベティは男にミゼアスをすっと差し出す。
受け取ったのは賄賂か。それで見習いを差し出すのか。ミゼアスの心には怒りがわきあがってきた。
男はなれなれしくミゼアスの腰を抱き、引き寄せる。
「さあ、奥に行こうか。大丈夫、私に全て任せていればいいだけだ。難しいことはない」
奥ということは、性交を要求されているのか。ミゼアスは勃然と憤怒がわきあがり、言葉が出てこないくらいだった。
「おや、怯えているのかね? 安心しなさい、きみの貞操を奪おうとはしないよ」
驚いてミゼアスは男を見る。怒りの炎もやや弱まった。貞操を奪おうとしないということは、何を要求されるのだろうか。
「私はきみのような可愛い子の顔が苦痛に歪むのが大好きでね。大丈夫、私は慣れているからひどい傷をつけたりはしないよ。貞操も奪わないし、きみはただ身を任せていればいいだけだ」
目を細めて語る男の言葉に、ミゼアスの怒りが再燃した。それも先ほどよりも大きく、激しく。
嗜虐趣味か。冗談ではない。ミゼアスは痛いのも苦しいのも、大嫌いだ。言葉で弄られる程度なら感じるかもしれないが、それだってアデルジェスにしてもらえればの話だ。どこの馬の骨とも知れぬ男など考えられない。
ベティを見るが、ベティはミゼアスから視線をそらした。見捨てられたようだ。
さらにミゼアスの怒りが燃え盛る。全身の血が逆流しそうなほどの憤りで、くらくらしそうだった。
ミゼアスは白花だった頃、見習いたちの上役として長い間過ごしてきた。
上役は見習いたちを守り、導いていくものだ。見捨てる、まして賄賂で売り払うなどありえない。
「その愛って、性交ですか?」
「あらっ……可愛い顔してはっきり言うのね……。でも、そこまではしないわよ。手やお口程度ね。……まあ、盛り上がっちゃったら後は本人たちの問題っていうことで、店の奥に部屋はあるけれどね」
つまり、表向きはともかく実際には性交もしているということだろう。ミゼアスは拳を握り締めた。
「……僕は花嫁修業というのを見て来たのですが、どこが花嫁修業なんですか?」
「そりゃあ、男を悦ばせる技術を身につけたら、旦那様だって嬉しいじゃない。花嫁には必要なことだわぁ」
ベティの答えにミゼアスは俯く。
──騙された。
その思いがミゼアスを支配する。そんな技術くらい、とっくに身についている。それ以外のことを身につけたいのだ。
「あらっ、モーランの旦那だわ」
ミゼアスが俯いている間に、ベティは表へと出て行ってしまった。
今すぐ辞めて帰るべきか、それとも給仕役程度なら時間まで我慢するべきか決めかね、ミゼアスはとりあえずベティの後を追うように表へと出て行った。
「おやおや、新人かね。可愛らしい子じゃないか。こっちへ来て、私の相手をしなさい」
すると良い身なりをした黒髪の男が、ミゼアスを見るなりそう言った。男の向かいではベティが愛想笑いを浮かべて立っている。
「この子はまだ今日入ったばかりなので……」
ベティがやわらかく男を諭そうとする。
「いいではないか。……ほら」
男がベティに何かを握らせる。するとベティはにんまりとした笑みを浮かべ、受け取ったものをそっと懐に隠した。
「……仕方ないですね。フェイちゃん、お相手して。旦那の言うとおりにしていればいいだけだから」
ベティは男にミゼアスをすっと差し出す。
受け取ったのは賄賂か。それで見習いを差し出すのか。ミゼアスの心には怒りがわきあがってきた。
男はなれなれしくミゼアスの腰を抱き、引き寄せる。
「さあ、奥に行こうか。大丈夫、私に全て任せていればいいだけだ。難しいことはない」
奥ということは、性交を要求されているのか。ミゼアスは勃然と憤怒がわきあがり、言葉が出てこないくらいだった。
「おや、怯えているのかね? 安心しなさい、きみの貞操を奪おうとはしないよ」
驚いてミゼアスは男を見る。怒りの炎もやや弱まった。貞操を奪おうとしないということは、何を要求されるのだろうか。
「私はきみのような可愛い子の顔が苦痛に歪むのが大好きでね。大丈夫、私は慣れているからひどい傷をつけたりはしないよ。貞操も奪わないし、きみはただ身を任せていればいいだけだ」
目を細めて語る男の言葉に、ミゼアスの怒りが再燃した。それも先ほどよりも大きく、激しく。
嗜虐趣味か。冗談ではない。ミゼアスは痛いのも苦しいのも、大嫌いだ。言葉で弄られる程度なら感じるかもしれないが、それだってアデルジェスにしてもらえればの話だ。どこの馬の骨とも知れぬ男など考えられない。
ベティを見るが、ベティはミゼアスから視線をそらした。見捨てられたようだ。
さらにミゼアスの怒りが燃え盛る。全身の血が逆流しそうなほどの憤りで、くらくらしそうだった。
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