僕はおよめさん!

四葉 翠花

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第二章 南へ

23.演劇

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 ミゼアスは浮かれながら歩いていた。まるで風に舞う花びらのように心が躍る。
 アデルジェスが演劇を観に行こうと言い出したのだ。
 近くの町に良い劇場があるらしいのでどうだろうと誘われ、ミゼアスはそれまでの不機嫌など吹き飛んでしまった。

 本当にアデルジェスはミゼアスのことを考えてくれているようだ。
 ちょっと酔っ払って、ミゼアスをその気にさせながら寝てしまったことくらい、どうだというのだろう。
 『およめさん』として狭量だったのではないかとミゼアスは反省する。

 島で五花として、見習いたちの上役として過ごしていた頃の気持ちを思い起こす。
 あの頃はいっときの感情に溺れすぎず、自らを律して振る舞っていたはずだ。
 長年の想いが叶い、あまりに嬉しくてつい浮かれすぎてしまっていた。幸せに浸るのはよいが、不愉快なことがあったからといってそっけない態度を取るのはよろしくない。そういったときこそ、しっかり躾けてやらねばならないのだ。

 昔、とんでもない問題児を預かったときのことが頭に浮かぶ。アレに比べれば、アデルジェスなど扱いやすい。あの子だってそれなりに躾け、一人前の白花に育てたのだ。大丈夫、自分ならやれる。ミゼアスは己にそう言い聞かせ、頷く。
 それに何らかの技能を身につけることだけが、花嫁修業ではない。心構えを養うことも立派な花嫁修業だろう。

「ミゼアス」

 アデルジェスが能天気な笑顔を浮かべてミゼアスを見つめる。ミゼアスは笑い返し、アデルジェスをしっかり躾けていくという志を常に掲げていようと心に刻んだ。



 昼過ぎに無事、目的の町にたどり着いた。早速劇場を見に行ってみる。
 劇場は立派な石造りの建物で、どうやら宿屋と一緒になっているようだった。宿屋の中に劇場があるらしい。アデルジェスが従業員に何かを見せると、二階の部屋に案内された。
 部屋には外が見える窓の他に、中庭が見える窓があった。どうやら中庭を中心として部屋が配置されているらしく、今は閉じられている窓がいくつも見えた。中庭には舞台が設置されている。

 従業員に聞いてみると、中庭で演劇が行われるそうだ。部屋で飲み物や食事などを楽しみながら、ゆっくりとご覧になれますとのことだった。
 部屋には浴室もしっかり付いている。寝台はふかふかで柔らかい。中庭の見える窓際には、二人でゆったりと腰掛けられる長椅子もある。文句のつけようのない部屋だった。

 昼の部がもうすぐ始まるというので、ミゼアスはアデルジェスと窓際の長椅子に座って見物することにした。
 先ほどまで閉じられてばかりだった窓がいくつも開き始める。
 演目は軽妙な喜劇だった。ミゼアスはアデルジェスと並んで楽しく見物する。つい噴き出してしまう場面がいくつもあり、アデルジェスも愉快そうに笑っていた。

「面白かったね」

 幕が下り、ミゼアスはアデルジェスに寄りかかる。

「うん、夜にもまたあるみたいだね。今度は演目が変わるんだってね」

「そういえば、言っていたね。今度は何かな」

 ミゼアスは先ほどの従業員の言葉を思い出しながら呟く。
 夜の部は寝台に入る準備をしてからご覧になることをおすすめしますと言われたのだ。眠たくなるような内容なのだろうか。
 よくわからないが、夜になればわかる。ミゼアスはアデルジェスに軽く触れるだけの口づけをして、にっこりと笑った。
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