僕はおよめさん!

四葉 翠花

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第二章 南へ

60.カリナヴァレン

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「何だって……?」

 訝しげに眉を寄せ、真剣な顔でロシュは続きを促す。

「ああ、腹も減ってうまく思い出せねえや」

「いくらでも好きなものを買え。金は払ってやる。何だったら、明日の朝食分だって買ってやるぞ」

 またとぼける男に、ロシュは苛立たしげに吐き捨てる。
 男は嬉しそうに笑うと売り子を呼び止めて、食べ物をいくつか選んだ。

「旦那、気前がいいね。口も滑らかになるってもんだ。カリナ嬢様は亡くなったんじゃない、売られたんだよ」

「何だって……どこに」

「詳しい場所までは俺も知らねえ。だが、カリナ嬢様はべっぴんだったからな。売り先なんて限られてくるんじゃねえか」

「娼館……か」

 力なくロシュは呟く。瞳から、いっときわきあがった希望の色が消えていくようだった。
 ミゼアスはアデルジェスと共に何も言わず、二人のやり取りを見守っていたが、ふつふつと疑念がわき起こってくる。

「あんたはどうしてその子のことを知っているんだい?」

 ミゼアスが問いかけると、男は食べる手を止めて振り向く。一瞬、目を見開いたようだったが、すぐに元の表情に戻った。

「俺は昔、その店で働いてたんだよ。親父が旦那様の補佐をやっていたんでな。他の連中より詳しいことを知ってるんだ」

「その子のこと、本当は生きているって言っちゃってよかったの?」

「最低でも五年は黙っとけって言われて、俺はそのとおりにしたよ。もう七年経ってる。約束は破っちゃいない」

 片手をひらひらさせながら男は答える。
 ミゼアスは男の言葉をじっくりと吟味する。嘘を言っているようには見えない。
 七年前、売られた、売り先はおそらく娼館。
 以前ロシュから話を聞いたとき、わずかにひっかかった疑問だった。そのときはたまたまだろうと流したが、もう一度同じ疑問がより真実味を帯びて蘇ってくる。

「ちょっと思いついたことで、もしかしたら的外れかもしれないんだけど……聞いてみてもいい?」

「ああ、いいぜ。知っていることなら答えてやるよ」

 酒と食べ物で機嫌が良くなったらしい男は、気前よく頷く。

「カリナちゃんって、赤味がかった金髪だったんだよね」

「ああ、そのとおり。奥様譲りの綺麗な髪だったよ」

「もしかして、普段は騒がしくて突飛な行動をするけれど、お腹が空くと途端におとなしくなる子だっていうことはなかった?」

 ミゼアスの言葉に、男はぽかんと口を開く。訝しげにミゼアスを眺めてきた。

「……よく知ってるな」

 肯定の言葉が響く。ミゼアスはさらにもうひとつ、質問をしてみることにする。

「とんでもなく物覚えがよくて、一度読んだ本は忘れないっていうことはなかった?」

「……あんた、どうしてそこまで」

 男の顔が驚愕に覆われていくのを見て、おそらく当たりだろうとミゼアスは軽く息を吐いた。次の質問を用意する。

「このあたりって、幼少期に女装する風習が残っている?」

「あんた……いったい……」

 これも当たりのようだ。もう、ほぼ間違いないだろう。
 頭に浮かぶのは、七年前にミゼアスが受け入れた見習いの姿だ。記憶の中の彼は、いつも迷惑なくらいに元気な笑顔を浮かべている。
 ミゼアスは軽く目を伏せてくすりと笑いをこぼす。それからゆっくりと男を見据え、最後の質問を投げかけた。

「カリナ、って女性略称だよね。もしかして、男性略称はヴァレン……本名はカリナヴァレンっていう名前じゃない?」
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