69 / 133
第二章 南へ
69.生贄を要求する花
しおりを挟む
「守るため?」
軽く眉根を寄せ、ミゼアスは呟く。
「……旦那様は当時、ある商売敵に邪魔をされていました。奥方様の実家、ローダンデリアゆかりの商人です」
「ローダンデリア……ああ、夕月花の産地か。そこの商人がどうして?」
ミゼアスがまだ不夜島で見習いだった頃、夕月花の飴が出回るようになった。それまでは体臭を抑えるため、食事内容にも制限があったのだが、体臭を花の穏やかな芳香にするこの飴のおかげで、そういった制限事項は消えたのだ。
当時はとても画期的なことで、産地がローダンデリアだということはミゼアスも覚えていた。
「その商人は、奥方様に懸想していたようなのです。生き写しであるカリナ嬢様を欲しがったらしく……旦那様の商売を失敗に追い込み、引き取ろうとしていたのです」
「色恋沙汰っていうこと?」
ミゼアスは首を傾げる。
確かに、それならば亡くなったことにして目をそらさせるということもありえそうだ。ただ、不夜島に売って、さらに亡くなったことにするとは、どうも念の入れすぎではないかとも思えた。
「いえ、それが……旦那様は、はっきりとはおっしゃいませんでしたが、どうもそれだけではないようでした……わしにもよくわかりませんが……」
沈黙が場を支配する。ミゼアスも老人も、口を開かない。
ややあって、沈黙を破ったのはロシュだった。
「夕月花といえば、国内ではローダンデリアでのみ育つ花だ。領主が特別な世話をしているとかで……でも、領主が数ヶ月前に事故で亡くなったんだよ。それで今現在、生育が悪くて今年の収穫が見込めないって話を聞いた」
考え込むように指を顎にあてながら、ロシュが呟く。
「ローダンデリア領主が……?」
老人は思わずといった様子で驚きの滲む声を漏らす。
「……ローダンデリア領主は、奥方様の兄君です。カリナ嬢様にとっては伯父にあたります」
この言葉は、おそらく老人が受けたであろう驚きよりも、大きな衝撃をミゼアスにもたらした。
「え……? つまり、ヴァレンはローダンデリア領主の甥っていうこと……? あの子、貴族の血を引いていたの……?」
数々のヴァレンの奇行が頭を駆け巡っていく。
いや、しかし、貴族というのは変人が多いものだ。身分の高い者や金持ちほど、変態が多いというのはミゼアスもよく知っている。
そう考えれば、ヴァレンが貴族の血を引いているというのも納得できるような気がしてきた。
頭を振り、ミゼアスは考えを戻す。
それよりも、大切なことが滲んでいるように思えた。
「……何だか、ちょっと繋がってきたような気がする。ヴァレンのことを探していた商人風の男がいるっていう話だったよね。もしかして、跡継ぎ問題?」
領主の死は、この時期にヴァレンを探していたことと関連があるような気がする。
ヴァレンの父がヴァレンを亡くなったものとしていたことにも、どこかに繋がる糸があるのかもしれない。
「確か、息子が新領主になったらしいけれど……内部でごたごたがあるのかもしれないな。でも、夕月花……夕月花……何だったかな……何かあったような……」
ぶつぶつと呟きながら、ロシュは考え込む。
腕組みをしながら唸っていたが、程なくして思い出したらしく、ロシュは手を叩く。
「そうだ! 思い出した! 生贄を要求する花だ! 育てている者の一族から生贄を差し出すことによって咲く花、それが夕月花だ」
軽く眉根を寄せ、ミゼアスは呟く。
「……旦那様は当時、ある商売敵に邪魔をされていました。奥方様の実家、ローダンデリアゆかりの商人です」
「ローダンデリア……ああ、夕月花の産地か。そこの商人がどうして?」
ミゼアスがまだ不夜島で見習いだった頃、夕月花の飴が出回るようになった。それまでは体臭を抑えるため、食事内容にも制限があったのだが、体臭を花の穏やかな芳香にするこの飴のおかげで、そういった制限事項は消えたのだ。
当時はとても画期的なことで、産地がローダンデリアだということはミゼアスも覚えていた。
「その商人は、奥方様に懸想していたようなのです。生き写しであるカリナ嬢様を欲しがったらしく……旦那様の商売を失敗に追い込み、引き取ろうとしていたのです」
「色恋沙汰っていうこと?」
ミゼアスは首を傾げる。
確かに、それならば亡くなったことにして目をそらさせるということもありえそうだ。ただ、不夜島に売って、さらに亡くなったことにするとは、どうも念の入れすぎではないかとも思えた。
「いえ、それが……旦那様は、はっきりとはおっしゃいませんでしたが、どうもそれだけではないようでした……わしにもよくわかりませんが……」
沈黙が場を支配する。ミゼアスも老人も、口を開かない。
ややあって、沈黙を破ったのはロシュだった。
「夕月花といえば、国内ではローダンデリアでのみ育つ花だ。領主が特別な世話をしているとかで……でも、領主が数ヶ月前に事故で亡くなったんだよ。それで今現在、生育が悪くて今年の収穫が見込めないって話を聞いた」
考え込むように指を顎にあてながら、ロシュが呟く。
「ローダンデリア領主が……?」
老人は思わずといった様子で驚きの滲む声を漏らす。
「……ローダンデリア領主は、奥方様の兄君です。カリナ嬢様にとっては伯父にあたります」
この言葉は、おそらく老人が受けたであろう驚きよりも、大きな衝撃をミゼアスにもたらした。
「え……? つまり、ヴァレンはローダンデリア領主の甥っていうこと……? あの子、貴族の血を引いていたの……?」
数々のヴァレンの奇行が頭を駆け巡っていく。
いや、しかし、貴族というのは変人が多いものだ。身分の高い者や金持ちほど、変態が多いというのはミゼアスもよく知っている。
そう考えれば、ヴァレンが貴族の血を引いているというのも納得できるような気がしてきた。
頭を振り、ミゼアスは考えを戻す。
それよりも、大切なことが滲んでいるように思えた。
「……何だか、ちょっと繋がってきたような気がする。ヴァレンのことを探していた商人風の男がいるっていう話だったよね。もしかして、跡継ぎ問題?」
領主の死は、この時期にヴァレンを探していたことと関連があるような気がする。
ヴァレンの父がヴァレンを亡くなったものとしていたことにも、どこかに繋がる糸があるのかもしれない。
「確か、息子が新領主になったらしいけれど……内部でごたごたがあるのかもしれないな。でも、夕月花……夕月花……何だったかな……何かあったような……」
ぶつぶつと呟きながら、ロシュは考え込む。
腕組みをしながら唸っていたが、程なくして思い出したらしく、ロシュは手を叩く。
「そうだ! 思い出した! 生贄を要求する花だ! 育てている者の一族から生贄を差し出すことによって咲く花、それが夕月花だ」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】トラウマ眼鏡系男子は幼馴染み王子に恋をする
獏乃みゆ
BL
黒髪メガネの地味な男子高校生・青山優李(あおやま ゆうり)。
小学生の頃、外見を理由にいじめられた彼は、顔を隠すように黒縁メガネをかけるようになった。
そんな優李を救ってくれたのは、幼馴染の遠野悠斗(とおの はると)。
優李は彼に恋をした。けれど、悠斗は同性で、その上誰もが振り返るほどの美貌の持ち主――手の届かない存在だった。
それでも傍にいたいと願う優李は自分の想いを絶対に隠し通そうと心に誓う。
一方、悠斗も密やかな想いをを秘めたまま優李を見つめ続ける。
一見穏やかな日常の裏で、二人の想いは静かにすれ違い始める。
やがて優李の前に、過去の“痛み”が再び姿を現す。
友情と恋の境界で揺れる二人が、すれ違いの果てに見つける答えとは。
――トラウマを抱えた少年と、彼を救った“王子”の救済と成長の物語。
─────────
両片想い幼馴染男子高校生の物語です。
個人的に、癖のあるキャラクターが好きなので、二人とも読み始めと印象が変化します。ご注意ください。
※主人公はメガネキャラですが、純粋に視力が悪くてメガネ着用というわけではないので、メガネ属性好きで読み始められる方はご注意ください。
※悠斗くん、穏やかで優しげな王子様キャラですが、途中で印象が変わる場合がありますので、キラキラ王子様がお好きな方はご注意ください。
─────
※ムーンライトノベルズにて連載していたものを加筆修正したものになります。
部分的に表現などが異なりますが、大筋のストーリーに変更はありません。
おそらく、より読みやすくなっているかと思います。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される
Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。
中1の雨の日熱を出した。
義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。
それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。
晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。
連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。
目覚めたら豪華な部屋!?
異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。
⚠️最初から義父に犯されます。
嫌な方はお戻りくださいませ。
久しぶりに書きました。
続きはぼちぼち書いていきます。
不定期更新で、すみません。
竜人息子の溺愛!
神谷レイン
BL
コールソン書店の店主レイ(三十七歳)は、十八歳になったばかりの育て子である超美形の竜人騎士であるルークに結婚を迫られていた。
勿論レイは必死に断るがルークは全然諦めてくれず……。
だが、そんな中で竜国から使者がやってくる。
そしてルークはある事実を知らされ、レイはそれに巻き込まれてしまうのだが……。
超美形竜人息子×自称おじさん
こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる