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第二章 南へ
70.無理な願い
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「生贄?」
眉根を寄せてミゼアスは呟く。
「ああ……親父から聞いたことがある。親父は外国の夕月花を一時期仕入れていたことがあるらしくて、ずっと前、俺に話してくれたんだ。おおっぴらにはされていないけれど、夕月花には生贄が必要だって。育てている一族から、定期的に血肉を捧げないとそのうち枯れてしまうらしい」
ロシュの説明に、ミゼアスは背中に冷たい風が通り抜けるような恐怖を覚える。
「それって……もしかして、ローダンデリアの血を引くヴァレンを探し出して、生贄にしようとしているってこと?」
「その可能性はあるだろうな……生育が悪くなってきたというから、新たな生贄を探しているということは、十分にありえそうだ」
おそるおそるミゼアスが口を開けば、ロシュが頷く。
「まさか……旦那様は、そのことを知っていて……カリナ嬢様が生贄にされるかもしれないと……」
わなわなと震えながら、老人も呟きを漏らした。
「……もしかしたら、もうヴァレンを見つけているかもしれないね。でも、あの島にいる限りはそう簡単に手出しはできない。島を出てしまえば別だけれど……」
ヴァレンを探していたのは、ローダンデリアゆかりの商人である可能性が高いだろう。それもロシュが探すよりも早く、ヴァレンを探していたようだった。
娼館ということで、不夜島を調べていることも十分に考えられる。
不夜島にいる限りは、守られる。あの島は狭い鳥籠だが、安全な揺り籠でもあるのだ。自ら島を出ると決意しなければ、外部からの手出しは難しい。
ヴァレンはいいかげんに見えて、意外と生真面目なところもある。ミゼアス付きの見習いたちを受け入れたとき、全員が一人前になるまで面倒を見ると言ったのだ。よほどの事情がない限り、その約束を破ることはないだろう。
「……旦那様も、不夜島に入ってしまえば、外部から簡単に手出しはできないはずだとおっしゃっていました。だから、カリナ嬢様を……」
老人は震える声を紡ぐ。
苦しげな姿を見ながら、ふと、ミゼアスは頭に違う疑問がよぎった。
「ヴァレンのお父さんは、今どうしているんだろう?」
「旦那様は、お亡くなりになりました。カリナ嬢様を迎えに行くために無茶をして、身体を壊してしまい、そのまま……」
「そっか……」
もう、亡くなっていたのか。ヴァレンからそういった話は一切聞いたことがなかった。おそらく、本人も知らないのだろう。
ヴァレンは過去のことは過去のこととして、割り切ってしまう傾向がある。
「旦那様は、死の床でカリナ嬢様に謝っていました。迎えに行くつもりが、行けなくなってしまった。娼館に売られたことを恨んでいるだろう。恨んで、その恨みを糧にしてでも生き抜いてほしい。最期にこう願ったのです……」
「……それは、無理な願いだと思うよ」
「そう、ですか……」
悲しげに、老人はぽつりと呟く。
「あの子は、恨みを抱えていられるような子じゃない。売られたことだって、まったく恨んじゃいなかったよ。そんなものを糧にしなくても、毎日楽しく、元気に生きている。何の心配もいらない」
眉根を寄せてミゼアスは呟く。
「ああ……親父から聞いたことがある。親父は外国の夕月花を一時期仕入れていたことがあるらしくて、ずっと前、俺に話してくれたんだ。おおっぴらにはされていないけれど、夕月花には生贄が必要だって。育てている一族から、定期的に血肉を捧げないとそのうち枯れてしまうらしい」
ロシュの説明に、ミゼアスは背中に冷たい風が通り抜けるような恐怖を覚える。
「それって……もしかして、ローダンデリアの血を引くヴァレンを探し出して、生贄にしようとしているってこと?」
「その可能性はあるだろうな……生育が悪くなってきたというから、新たな生贄を探しているということは、十分にありえそうだ」
おそるおそるミゼアスが口を開けば、ロシュが頷く。
「まさか……旦那様は、そのことを知っていて……カリナ嬢様が生贄にされるかもしれないと……」
わなわなと震えながら、老人も呟きを漏らした。
「……もしかしたら、もうヴァレンを見つけているかもしれないね。でも、あの島にいる限りはそう簡単に手出しはできない。島を出てしまえば別だけれど……」
ヴァレンを探していたのは、ローダンデリアゆかりの商人である可能性が高いだろう。それもロシュが探すよりも早く、ヴァレンを探していたようだった。
娼館ということで、不夜島を調べていることも十分に考えられる。
不夜島にいる限りは、守られる。あの島は狭い鳥籠だが、安全な揺り籠でもあるのだ。自ら島を出ると決意しなければ、外部からの手出しは難しい。
ヴァレンはいいかげんに見えて、意外と生真面目なところもある。ミゼアス付きの見習いたちを受け入れたとき、全員が一人前になるまで面倒を見ると言ったのだ。よほどの事情がない限り、その約束を破ることはないだろう。
「……旦那様も、不夜島に入ってしまえば、外部から簡単に手出しはできないはずだとおっしゃっていました。だから、カリナ嬢様を……」
老人は震える声を紡ぐ。
苦しげな姿を見ながら、ふと、ミゼアスは頭に違う疑問がよぎった。
「ヴァレンのお父さんは、今どうしているんだろう?」
「旦那様は、お亡くなりになりました。カリナ嬢様を迎えに行くために無茶をして、身体を壊してしまい、そのまま……」
「そっか……」
もう、亡くなっていたのか。ヴァレンからそういった話は一切聞いたことがなかった。おそらく、本人も知らないのだろう。
ヴァレンは過去のことは過去のこととして、割り切ってしまう傾向がある。
「旦那様は、死の床でカリナ嬢様に謝っていました。迎えに行くつもりが、行けなくなってしまった。娼館に売られたことを恨んでいるだろう。恨んで、その恨みを糧にしてでも生き抜いてほしい。最期にこう願ったのです……」
「……それは、無理な願いだと思うよ」
「そう、ですか……」
悲しげに、老人はぽつりと呟く。
「あの子は、恨みを抱えていられるような子じゃない。売られたことだって、まったく恨んじゃいなかったよ。そんなものを糧にしなくても、毎日楽しく、元気に生きている。何の心配もいらない」
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