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第三章 巡り会い
102.恵まれていた
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少年はマリオンが取り出してきた夕月花の香油を買い、飴と一緒に大切そうに抱えて帰っていった。
「あなた、ふところに飴を入れておく癖は変わっていないのですね」
再び二人きりとなった店内で、マリオンが懐かしそうに呟く。
「……飴なら、上に取り上げられなくてすみますから」
今となってはもう関係がないが、不夜島では見習いが金銭を持つのは禁止だった。
たとえ心づけをもらったとしても、上役に預けなくてはならなかったのだ。しかも預けるとはいっても、通常はもう返ってこない。
そこでミゼアスは取り上げられずにすむ飴を常に持ち歩き、ちょっとしたご褒美や、用を言いつけたときの礼などとして与えていたのだ。
ミゼアス自身が見習いだったときの経験から生まれたものである。
「もう、あの島を出たというのにね。それでも今にして思えば、あの島というのはとても恵まれていたのだと思いますよ。下位の店はどうかわかりませんが、私たちのいた店では下働きに八つ当たりで折檻などしませんでしたものね」
ゆっくりと、マリオンがため息を漏らす。
島を出て外の世界を見る機会を得てから、ミゼアスもあの島は何だかんだと言いつつ、やはり恵まれていたのだろうと思うようになった。
通常の酒場に溢れている、耳を塞ぎたくなるような悪態をつく者もいなければ、盗みや暴力とも縁遠い世界だった。皆、お行儀もよく、上品だったものだとしみじみ思う。
「あなたを名乗る者がこの町の娼館にいるという話は聞いていました。まさか本物だとも思っていませんでしたが、聞く限りでは特徴がかなり似通っていたので、気になっていたのですよ。確かめに行こうかとも考えたのですが、こうして本物に会えた以上、その必要もありませんね。……あなたはニセモノのこと、気になりますか?」
マリオンの問いかけに、ミゼアスはわずかに眉根を寄せて軽く首を横に振った。
「気にならないと言ったら嘘になりますが……まあ、仕方がないかな、と。まさか自分が本物だと名乗りを上げるわけにもいきませんし」
「ああ……そんなことになったら、ぜひうちで働いてくれと、あちこちの娼館から引く手あまたになるでしょうね」
「それは冗談じゃないので。僕はジェスの『およめさん』ですから」
娼館で働くなど、考えたくもないことだ。ミゼアスはアデルジェスの『およめさん』なのだから、アデルジェス以外の男に触れさせるなど、してはならないことである。
「あなた、ふところに飴を入れておく癖は変わっていないのですね」
再び二人きりとなった店内で、マリオンが懐かしそうに呟く。
「……飴なら、上に取り上げられなくてすみますから」
今となってはもう関係がないが、不夜島では見習いが金銭を持つのは禁止だった。
たとえ心づけをもらったとしても、上役に預けなくてはならなかったのだ。しかも預けるとはいっても、通常はもう返ってこない。
そこでミゼアスは取り上げられずにすむ飴を常に持ち歩き、ちょっとしたご褒美や、用を言いつけたときの礼などとして与えていたのだ。
ミゼアス自身が見習いだったときの経験から生まれたものである。
「もう、あの島を出たというのにね。それでも今にして思えば、あの島というのはとても恵まれていたのだと思いますよ。下位の店はどうかわかりませんが、私たちのいた店では下働きに八つ当たりで折檻などしませんでしたものね」
ゆっくりと、マリオンがため息を漏らす。
島を出て外の世界を見る機会を得てから、ミゼアスもあの島は何だかんだと言いつつ、やはり恵まれていたのだろうと思うようになった。
通常の酒場に溢れている、耳を塞ぎたくなるような悪態をつく者もいなければ、盗みや暴力とも縁遠い世界だった。皆、お行儀もよく、上品だったものだとしみじみ思う。
「あなたを名乗る者がこの町の娼館にいるという話は聞いていました。まさか本物だとも思っていませんでしたが、聞く限りでは特徴がかなり似通っていたので、気になっていたのですよ。確かめに行こうかとも考えたのですが、こうして本物に会えた以上、その必要もありませんね。……あなたはニセモノのこと、気になりますか?」
マリオンの問いかけに、ミゼアスはわずかに眉根を寄せて軽く首を横に振った。
「気にならないと言ったら嘘になりますが……まあ、仕方がないかな、と。まさか自分が本物だと名乗りを上げるわけにもいきませんし」
「ああ……そんなことになったら、ぜひうちで働いてくれと、あちこちの娼館から引く手あまたになるでしょうね」
「それは冗談じゃないので。僕はジェスの『およめさん』ですから」
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