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第三章 巡り会い
113.風月花
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現れたのは、ゆるく滑らかな曲線をいくつか描く優雅な形状に、細やかな花の装飾がいたるところに施された花月琴だった。
ミゼアスが不夜島で使っていた、名品中の名品といわれる『雪月花』と同じにしか見えない。持ち主の命を吸い取って花を咲かせるという曰くがあり、名手が奏でれば花びらを出すという不思議な花月琴だ。
島では唯一、ミゼアスだけが花吹雪を出すことができた。病気の後遺症でまともに客を取れなくなったミゼアスを救い、頂点に留め続けてくれたのは『雪月花』であるといっても過言ではない。
しかし、『雪月花』はミゼアスが島を出るときに、自分付きの見習いだったアルンに渡してきたのだ。まさか『雪月花』がこのような場所にあるはずがない。
「これは『風月花』という、名品中の名品である花月琴だ。名手が奏でれば花びらを出すという、不思議な品でもある。不夜島のミゼアスが所有しているという『雪月花』とは双子の楽器であるとされている」
尊大な男の解説により、ミゼアスの疑問は氷解する。
ミゼアスも以前、『雪月花』と双子の楽器があるという話は聞いたことがあった。あれがそうなのかと、素直に感心する。
「何でも、ここにその不夜島のミゼアスがいるというではないか。ミゼアスは花吹雪を出せると聞く。ぜひ、この目で見てみたいものだ」
男の言葉にミゼアスは一瞬、びくりと身を震わせる。しかし、男の視線は別の方向に向いていた。
そこには、蒼白な顔で立ち尽くす、ミゼアスのニセモノがいた。
男はミゼアスのニセモノに花月琴を弾けと命じる。これには指名された本人だけではなく、領主も困惑しているようだった。おそらく、領主もニセモノであることなど承知の上で楽しんでいたのだろう。
かといって、男が本物だと思っているのかといえば、そうではないようだった。ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて、ミゼアスのニセモノが困惑する様を楽しんでいる。
つまりこれは、花月琴の演奏が余興なのではない。ニセモノが困惑し、失敗する様を見世物にしようということだろう。
ミゼアスの胸には憤りのような不快感がわきあがる。悪趣味としかいいようがなく、気分が悪かった。
震えながらも、ミゼアスのニセモノは促されて花月琴を弾く。
おそらく、花月琴の心得が少しはあるのだろう。しかし、恐怖や不安で震えていることを抜きにしても、そうたいした腕ではないようだった。当代一の名手とすら呼ばれるミゼアスの足下にも及ばない。当然、花びらなど舞うこともない。
周囲からはくすくすと失笑する声も響くが、ミゼアスは笑う気になどなれなかった。自分のニセモノが辱められていい気味だとも思えない。
いくら自分のニセモノといえども、貶められて笑われる姿は哀れだ。
このようなことを余興にしようとする男の性根に吐き気すらする。
やがて、男がつまらなさそうに片手を挙げて演奏を止めさせる。
ようやく苦痛の時間が終わると、ミゼアスのニセモノも安堵した様子だった。しかし、次の男の言葉に、今まで以上の絶望を浮かべることになる。
「やはりニセモノか。つまらん。せっかく、花吹雪を見られるかもしれぬと思ったのに。ミゼアスを名乗りながら花月琴を弾けぬなど、その腕は何のためにある。役立たずの腕など、いらぬだろう。切り落としてしまえ」
ミゼアスが不夜島で使っていた、名品中の名品といわれる『雪月花』と同じにしか見えない。持ち主の命を吸い取って花を咲かせるという曰くがあり、名手が奏でれば花びらを出すという不思議な花月琴だ。
島では唯一、ミゼアスだけが花吹雪を出すことができた。病気の後遺症でまともに客を取れなくなったミゼアスを救い、頂点に留め続けてくれたのは『雪月花』であるといっても過言ではない。
しかし、『雪月花』はミゼアスが島を出るときに、自分付きの見習いだったアルンに渡してきたのだ。まさか『雪月花』がこのような場所にあるはずがない。
「これは『風月花』という、名品中の名品である花月琴だ。名手が奏でれば花びらを出すという、不思議な品でもある。不夜島のミゼアスが所有しているという『雪月花』とは双子の楽器であるとされている」
尊大な男の解説により、ミゼアスの疑問は氷解する。
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「何でも、ここにその不夜島のミゼアスがいるというではないか。ミゼアスは花吹雪を出せると聞く。ぜひ、この目で見てみたいものだ」
男の言葉にミゼアスは一瞬、びくりと身を震わせる。しかし、男の視線は別の方向に向いていた。
そこには、蒼白な顔で立ち尽くす、ミゼアスのニセモノがいた。
男はミゼアスのニセモノに花月琴を弾けと命じる。これには指名された本人だけではなく、領主も困惑しているようだった。おそらく、領主もニセモノであることなど承知の上で楽しんでいたのだろう。
かといって、男が本物だと思っているのかといえば、そうではないようだった。ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて、ミゼアスのニセモノが困惑する様を楽しんでいる。
つまりこれは、花月琴の演奏が余興なのではない。ニセモノが困惑し、失敗する様を見世物にしようということだろう。
ミゼアスの胸には憤りのような不快感がわきあがる。悪趣味としかいいようがなく、気分が悪かった。
震えながらも、ミゼアスのニセモノは促されて花月琴を弾く。
おそらく、花月琴の心得が少しはあるのだろう。しかし、恐怖や不安で震えていることを抜きにしても、そうたいした腕ではないようだった。当代一の名手とすら呼ばれるミゼアスの足下にも及ばない。当然、花びらなど舞うこともない。
周囲からはくすくすと失笑する声も響くが、ミゼアスは笑う気になどなれなかった。自分のニセモノが辱められていい気味だとも思えない。
いくら自分のニセモノといえども、貶められて笑われる姿は哀れだ。
このようなことを余興にしようとする男の性根に吐き気すらする。
やがて、男がつまらなさそうに片手を挙げて演奏を止めさせる。
ようやく苦痛の時間が終わると、ミゼアスのニセモノも安堵した様子だった。しかし、次の男の言葉に、今まで以上の絶望を浮かべることになる。
「やはりニセモノか。つまらん。せっかく、花吹雪を見られるかもしれぬと思ったのに。ミゼアスを名乗りながら花月琴を弾けぬなど、その腕は何のためにある。役立たずの腕など、いらぬだろう。切り落としてしまえ」
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