呪われた王女は黒狼王の牙に甘く貫かれる

四葉 翠花

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12.求婚

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「え……?」

 考えもしなかった言葉に、セレディローサの思考が停止する。

「セレディローサには婚約者だっていないんだろ? だったら、俺が名乗りをあげたっていいわけだ」

「え? そ……それって……」

 前の言葉がまだ理解しきれていないうちにさらなる衝撃が加わり、セレディローサは完全に混乱してしまった。デイネストが何を言っているのか、理解できない。

「……俺も、セレディローサほどじゃないけど、ちょっと特殊な立場なんだ。いっそ、全部放り出して逃げたいと思ってた。でも、俺よりずっときつい状況のセレディローサが頑張ってるのに、それじゃあ格好悪いよな……」

 自嘲の笑みを浮かべ、照れくさそうに呟くデイネストだったが、軽く首を振ってセレディローサの手を取る。

「俺、もう逃げないよ。王女を娶れるくらい立派になって、呪いを解く方法も見つける。だから、そのときには……俺の妻になってほしい」

 ようやく、セレディローサにデイネストの言葉がしみこんでくる。
 求婚されているのだ。さらに、呪いを解くとも言っている。
 今まで、このようなことを言ってくれる相手などいなかった。求婚はまだしも、呪いを解こうとする者だっていなかったのだ。

 ――魔女の呪いは絶対。一度発動した呪いは、解除不可能。
 この不文律の前に実の親である父王さえあきらめ、何もすることはなかった。呪いを解く方法を探そうとすらしなかったのだ。

 デイネストはこの不文律のことを知らないのかもしれない。だからこそ、軽々しく呪いを解くなどと言えるのかもしれない。
 しかし、それでも呪いを解くなどと言ってくれた人間は初めてなのだ。
 セレディローサの瞳からはぼろぼろと涙が零れ落ち、もう止められなかった。
 たとえ呪いに負けて命を失おうと、心まで負けてはならないと張り詰めてきた。それがどれだけ負担だったことか。

「え? ちょっ……どうして泣くんだよ。そ……そんなに俺に求婚されるの、嫌だった?」

「ち……違うわ……まさか……まさか、そんなことを私に言ってくれる人がいるなんて……思わなかったから……」

 しゃくりあげながらもどうにか答えると、おろおろとしていたデイネストが表情を緩めた。

「じゃあ、嫌じゃない?」

「ええ、もちろんよ……」

「なんだ、よかった……」

 ほっとした様子で苦笑いを浮かべながら、デイネストは人差し指で右の眉を掻く。
 ここ一週間で何回も見た仕草を眺めながら、セレディローサの心はゆっくりと落ち着きを取り戻していった。
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