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05.ネリー

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「フェ……げほっげほっ!」

 思わずアデルジェスは立ち上がった。
 その拍子に食べかけの菓子が喉につまり、むせる。さらに慣れない傾斜に足を取られ、その場で盛大な尻餅をついた。
 周囲からくすくすと笑う声が聞こえてくる。
 目の前の美女もくすりと笑うと、何事もなかったかのようにまた歩き出してしまった。

「大丈夫?」

 呆然と固まっていると、後ろから声がした。
 見れば、赤毛に明るい茶色の瞳をした女性が心配そうにのぞきこんでいた。十六、七歳くらいだろうか。やや気の強そうな愛らしい顔立ちだった。

「あ……うん、大丈夫……ありがとう」

 アデルジェスは深く息を吸い込み、吐く。気を落ち着けて立ち上がると、女性の手の甲にうっすらと花のような模様があるのが見えた。

「大丈夫そうね、よかった。ここって足場があまりよくないから気をつけないと」

 人懐こそうな笑みを浮かべて女性が言う。

「えっと……今の……」

 遠ざかっていく美女の後ろ姿を視線で追いながら呟いてみる。

「フェリス姉さん? どうかしたの?」

「ああ……いや、何でもない」

 アデルジェスは落ち着いて考えてみる。
 金髪で緑色の瞳をした女性など、探せばいくらでもいるだろう。幼馴染のあの子であるとは限らない。名前は少し似ていたが違う。そもそも名前を変えている可能性だってあるのだし、名前だけで判断もできないだろう。

「フェリス姉さんのことが気に入ったの? でもお高いわよ」

 アデルジェスの思案をどう思ったのか、女性が悪戯っぽく笑う。

「え? い、いや、そんなんじゃ!」

 慌てて首を左右に振り、アデルジェスは否定する。

「あなた、顔真っ赤よ。面白いわね。……あたし、ネリー。あなたは?」

「……俺はアデルジェス」

「そう、アデルジェスね。よろしく。せっかくだから少しお話ししない?」

「え? あ、うん……」

 流されるがまま、アデルジェスは頷いた。
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