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06.二花
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「……崖を転げ落ちたら、その先に敵がいたんだ。偶然、ぶつかって弾き飛ばしただけだったのに、孤立したグリンモルド伯爵令息を救ったことになっちゃって……」
不夜島に来ることとなった原因、国境での戦いについてアデルジェスは語る。
「令息はいたく感激しちゃってね。その直後に援軍が急いで駆けつけてきたんだけど、そっちのけで俺に構ってばかりで……」
「あら。それで、援軍はどうなったの?」
「援軍はニドムレン男爵っていう、グリンモルド伯爵の友人らしいんだけど……俺を見て不機嫌そうにしていたな。とにかく、慌ただしく敵を追い払って、戦いは終わったよ」
せっかく援軍として駆けつけてきたのに、ないがしろにされたことで苛立ったのだろう。それでも、援軍としての役割をきっちり果たしていた。
「その後、グリンモルド伯爵はよくぞ跡取り息子を救ってくれたと喜んで、褒賞をくれたんだ。赤ちゃんを抱いた伯爵夫人も一緒で、お褒めの言葉をもらって……思いがけず、功労者になったっていうわけ」
「まあ、よかったわね」
「うん……平兵士から小隊長に昇進して、特別休暇もくれたのはいいんだけれど……まさか、褒賞がこの島への通行手形だとはね……」
アデルジェスは苦笑する。
「あら、そんな機会なんて滅多にないわよ。楽しんじゃえばいいのに」
ころころと笑いながら、ネリーはあっけらかんとしている。
女性に対して奥手なアデルジェスだったが、ネリーはさばさばしていて、話しやすかった。
広場の石畳に腰を下ろして話し続けるうち、二人はすっかり打ち解けていた。
「アデルジェスなら、略称はジェスでいいのかしら? そう呼んでもいい?」
ネリーからそう言われて、アデルジェスは頷く。
この国では男は名前の後半、女は名前の前半を略称とする風習があった。
「ネリーは……ネリーだよな」
「うん、ネリーが略称よ。この島では普段から略称で呼ばれるのよ。きちんとした名前を使うのは特別なときだけ」
「ふうん、色々あるんだな」
その地域ごとに色々な風習があるものだ。アデルジェスはあまり気に留めず頷いた。
「そうそう、さっき言っていた手形ってどんなの?」
「あぁ……」
アデルジェスはこの島への通行手形を鞄から取り出し、見せた。
「あら、これって花代が一緒になったやつね。二花までだったら大丈夫よ」
「え!?」
そういえば、この通行手形で男でも女でも買うことができるとは言われたような気がする。
しかし二花とは……まさか……と、アデルジェスは手形をじっと見る。
「二花っていうのは格付けのことよ。一花から五花まであって、数字が大きいほど格上。これ以外の格付けもあるけれど……とにかく、二花までだったらお金はかからないってこと。……もしかして、二花って二人を同時に侍らせることだと思った?」
「え? いや……はは……」
図星だった。
「もう……二人同時に侍らせることだってできるけれど、結構お高くなっちゃうわよ」
「いやいやいや! そんなことする気はないよ!」
呆れたような眼差しを向けるネリーの言葉を、慌てて否定する。
そして先ほどから気になっていたネリーの手の甲に視線を向ける。絡み合った蔓と二つの花が咲いている模様がうっすらと刻まれていた。
「これ? 不夜島の花だっていう印よ。模様の花の数は格付けそのまま」
アデルジェスの視線に気づいたネリーが答える。
「そう、あたしは二花。あたしならその手形で買えるわよ」
不夜島に来ることとなった原因、国境での戦いについてアデルジェスは語る。
「令息はいたく感激しちゃってね。その直後に援軍が急いで駆けつけてきたんだけど、そっちのけで俺に構ってばかりで……」
「あら。それで、援軍はどうなったの?」
「援軍はニドムレン男爵っていう、グリンモルド伯爵の友人らしいんだけど……俺を見て不機嫌そうにしていたな。とにかく、慌ただしく敵を追い払って、戦いは終わったよ」
せっかく援軍として駆けつけてきたのに、ないがしろにされたことで苛立ったのだろう。それでも、援軍としての役割をきっちり果たしていた。
「その後、グリンモルド伯爵はよくぞ跡取り息子を救ってくれたと喜んで、褒賞をくれたんだ。赤ちゃんを抱いた伯爵夫人も一緒で、お褒めの言葉をもらって……思いがけず、功労者になったっていうわけ」
「まあ、よかったわね」
「うん……平兵士から小隊長に昇進して、特別休暇もくれたのはいいんだけれど……まさか、褒賞がこの島への通行手形だとはね……」
アデルジェスは苦笑する。
「あら、そんな機会なんて滅多にないわよ。楽しんじゃえばいいのに」
ころころと笑いながら、ネリーはあっけらかんとしている。
女性に対して奥手なアデルジェスだったが、ネリーはさばさばしていて、話しやすかった。
広場の石畳に腰を下ろして話し続けるうち、二人はすっかり打ち解けていた。
「アデルジェスなら、略称はジェスでいいのかしら? そう呼んでもいい?」
ネリーからそう言われて、アデルジェスは頷く。
この国では男は名前の後半、女は名前の前半を略称とする風習があった。
「ネリーは……ネリーだよな」
「うん、ネリーが略称よ。この島では普段から略称で呼ばれるのよ。きちんとした名前を使うのは特別なときだけ」
「ふうん、色々あるんだな」
その地域ごとに色々な風習があるものだ。アデルジェスはあまり気に留めず頷いた。
「そうそう、さっき言っていた手形ってどんなの?」
「あぁ……」
アデルジェスはこの島への通行手形を鞄から取り出し、見せた。
「あら、これって花代が一緒になったやつね。二花までだったら大丈夫よ」
「え!?」
そういえば、この通行手形で男でも女でも買うことができるとは言われたような気がする。
しかし二花とは……まさか……と、アデルジェスは手形をじっと見る。
「二花っていうのは格付けのことよ。一花から五花まであって、数字が大きいほど格上。これ以外の格付けもあるけれど……とにかく、二花までだったらお金はかからないってこと。……もしかして、二花って二人を同時に侍らせることだと思った?」
「え? いや……はは……」
図星だった。
「もう……二人同時に侍らせることだってできるけれど、結構お高くなっちゃうわよ」
「いやいやいや! そんなことする気はないよ!」
呆れたような眼差しを向けるネリーの言葉を、慌てて否定する。
そして先ほどから気になっていたネリーの手の甲に視線を向ける。絡み合った蔓と二つの花が咲いている模様がうっすらと刻まれていた。
「これ? 不夜島の花だっていう印よ。模様の花の数は格付けそのまま」
アデルジェスの視線に気づいたネリーが答える。
「そう、あたしは二花。あたしならその手形で買えるわよ」
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