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07.娼婦や男娼

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 アデルジェスはネリーによって、ゆったりとした広さの簡素な部屋に連れ込まれた。
 ところどころに可愛らしい小物が置いてあるが、全体的にすっきりと片付いている。
 奥にはこれもゆったりとした大きさの寝台があった。

 椅子の上に直角の姿勢で座るアデルジェスは、ぎこちない動作で部屋を見回す。
 生まれてこの方、女の子の部屋になど入ったことはない。どことなく空気すら甘く味付けされているような気がして、軽い眩暈を覚える。

「そんなに緊張しないで」

 笑いながらネリーがお茶を持ってきた。
 強張った手で受け取ると、爽やかな甘い香りが優しく鼻腔をくすぐる。口に含むとほのかな酸味と甘みが穏やかに広がった。

「美味い」

 思わず顔が綻んだ。緊張も抜けていくようだった。

「よかった。ところで、ここまで連れてきておいて何だけれど、ジェスは男の子のほうが好きなの?」

 首を傾げて尋ねてくるネリーに、アデルジェスは思わずお茶を噴出しそうになった。どうにかこらえて飲み下したものの、むせて咳き込んだ。

「い……いや、男の子なんて考えたことが……っていうか、普通に女の子のほうが好きだよ……」

 咳をようやくおさめて答える。

「あら、愛があれば性別なんて二の次よ。特にこの島では誰もそんなこと気にしないわ」

 この国では同性愛に対して寛容だ。西方に近い地域では風当たりがきつくなるところもあるが、大体の地域ではあまり気にしない。貴族が見目麗しい同性の小姓や侍女を寵愛することも珍しくはない。
 特に男同士というのは多い。男の子は育ちにくいことから、幼い頃は女の子の格好をさせて育てるという風習が残っているところもある。女の子の生命力にあやかるのだという。
 そのせいか、年長者と幼い女装少年の間に芽生える恋心というのはよく聞く話だ。

 しかしアデルジェスは幼い頃から普通に男の子として育てられたので、あまり馴染みはない。少年時代を過ごした町ではすでにその風習が廃れていたため、自分が女装したこともなければ周囲に女装少年がいたわけでもなかった。
 さらにアデルジェスは、西方に近い村で生まれた。この国は男女の区別なく楽しもうといった享楽的な考えが一般的だが、西方は保守的と言われる地域だ。
 まだ幼い頃に引っ越したが、その後もアデルジェスは西方よりの町で育った。そのために恋愛とは普通は男女間でするものという意識がある。
 同性間は絶対に認めない、というほど強い思いがあるわけではないが。

 娼婦や男娼に対する偏見もやはり強いほうだと思う。兵舎の同僚たちは街の娼館に繰り出すことも珍しくなかったが、アデルジェスは一度も行ったことがなかった。
 幼馴染の子が売られていってから、娼婦や男娼とはやむを得ない事情により泣く泣く仕事をしているのだという思い込みができたのだ。
 蔑むような気持ちはない。ただ、どうにもいたたまれない思いだけがあった。
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