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25.散歩
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アデルジェスはミゼアスに連れられて、道を歩いていた。
大通りから一本内側に入った道だったが十分に広く、綺麗な建物が並んでいる。
道案内を務めるミゼアスの格好はあまり飾り気の無いシャツとズボンだった。ただよく見れば袖や胸元のあたりに繊細な刺繍が施されており、上等な仕立てのようだ。
肩には真珠のような光沢を放つ肩掛けを羽織っており、こちらは一目で上物とわかる。
「魚料理の店にしようかと思うんだけれど、魚は食べられる? 苦手な食べ物があったら言って」
「魚は食べられるよ。苦手な食べ物は特に……あ、一つだけあった」
「何だい? もしかして胡桃かい?」
「……何でわかった?」
驚いてアデルジェスはミゼアスを見つめる。
幼い頃、生の胡桃を皮ごとかじって苦かったことから、アデルジェスは胡桃が苦手だった。普通は実の部分を食べるのだとわかっていても、そのときの記憶が邪魔をしてどうも好きになれない。
「何となく。そんな顔しているし」
「どういう顔だよ……」
アデルジェスは唖然としてしまったが、ミゼアスは気にせずにすたすたと歩いていってしまう。仕方なく後を追うしかなかった。
すると唐突に、ミゼアスの足が止まった。
どうしたのだろうと思い、ミゼアスの視線の先を見てみる。そこには黒髪の少年がいた。昨日の昼間、道端でミゼアスと対峙していた少年だ。確かエアイールという名前だっただろうか。
「ごきげんよう、ミゼアス。この時間にこのあたりを歩いているなんて、珍しいですね」
にこやかな笑みを口元に浮かべ、ミゼアスに話しかける。
「エアイールか。これから食事に行こうと思ってね。きみこそ昼前にうろつくなんて珍しいんじゃないのかい?」
どこか小生意気そうな様子でミゼアスが返す。
この二人は仲が悪いと昨日聞いたような気がする。今日はお付きの子供たちはいないようだったが、どこかぴりぴりしたような空気が流れていた。
昨日はあまり顔をよく見なかったエアイールの姿を見てみる。年齢は十六、七歳くらいだろうか。そろそろ少年の域を抜け出しそうな頃合だ。
長い黒髪を左肩のあたりで緩やかにまとめ、一本にして胸へと流している。眠たそうにも見えるやや垂れた目は黒色かと思ったが、よく見れば紫がかっていた。右の目尻の下には黒子がある。
豪奢で繊細な美少年のミゼアスとはまた違う、しっとりとした色気のある美貌だった。
「少々、散策を楽しもうと思いましてね。ところで、そちらは昨日の方ですよね。あなたのお知り合いだったのですか? それとも情人?」
「いいだろう。うらやましいかい?」
エアイールの問いには答えず、ふふんと鼻で笑ってミゼアスはアデルジェスの腕に絡みつく。
「……あなたの趣味は理解できません」
ひきつったような苦笑を浮かべながら呟くエアイール。
「失礼な奴だな。僕たちはこれから仲良く食事に行くんだ。邪魔をするんじゃないよ。じゃあね」
つんと顔をそらせ、ミゼアスはアデルジェスを促して歩き出した。
アデルジェスは後ろに遠ざかっていくエアイールが気になったが、ミゼアスに腕をつかまれていて振り返ることもできなかった。
そのため、アデルジェスの後ろ姿をじっと見つめるエアイールの姿に気づくことはなかった。
大通りから一本内側に入った道だったが十分に広く、綺麗な建物が並んでいる。
道案内を務めるミゼアスの格好はあまり飾り気の無いシャツとズボンだった。ただよく見れば袖や胸元のあたりに繊細な刺繍が施されており、上等な仕立てのようだ。
肩には真珠のような光沢を放つ肩掛けを羽織っており、こちらは一目で上物とわかる。
「魚料理の店にしようかと思うんだけれど、魚は食べられる? 苦手な食べ物があったら言って」
「魚は食べられるよ。苦手な食べ物は特に……あ、一つだけあった」
「何だい? もしかして胡桃かい?」
「……何でわかった?」
驚いてアデルジェスはミゼアスを見つめる。
幼い頃、生の胡桃を皮ごとかじって苦かったことから、アデルジェスは胡桃が苦手だった。普通は実の部分を食べるのだとわかっていても、そのときの記憶が邪魔をしてどうも好きになれない。
「何となく。そんな顔しているし」
「どういう顔だよ……」
アデルジェスは唖然としてしまったが、ミゼアスは気にせずにすたすたと歩いていってしまう。仕方なく後を追うしかなかった。
すると唐突に、ミゼアスの足が止まった。
どうしたのだろうと思い、ミゼアスの視線の先を見てみる。そこには黒髪の少年がいた。昨日の昼間、道端でミゼアスと対峙していた少年だ。確かエアイールという名前だっただろうか。
「ごきげんよう、ミゼアス。この時間にこのあたりを歩いているなんて、珍しいですね」
にこやかな笑みを口元に浮かべ、ミゼアスに話しかける。
「エアイールか。これから食事に行こうと思ってね。きみこそ昼前にうろつくなんて珍しいんじゃないのかい?」
どこか小生意気そうな様子でミゼアスが返す。
この二人は仲が悪いと昨日聞いたような気がする。今日はお付きの子供たちはいないようだったが、どこかぴりぴりしたような空気が流れていた。
昨日はあまり顔をよく見なかったエアイールの姿を見てみる。年齢は十六、七歳くらいだろうか。そろそろ少年の域を抜け出しそうな頃合だ。
長い黒髪を左肩のあたりで緩やかにまとめ、一本にして胸へと流している。眠たそうにも見えるやや垂れた目は黒色かと思ったが、よく見れば紫がかっていた。右の目尻の下には黒子がある。
豪奢で繊細な美少年のミゼアスとはまた違う、しっとりとした色気のある美貌だった。
「少々、散策を楽しもうと思いましてね。ところで、そちらは昨日の方ですよね。あなたのお知り合いだったのですか? それとも情人?」
「いいだろう。うらやましいかい?」
エアイールの問いには答えず、ふふんと鼻で笑ってミゼアスはアデルジェスの腕に絡みつく。
「……あなたの趣味は理解できません」
ひきつったような苦笑を浮かべながら呟くエアイール。
「失礼な奴だな。僕たちはこれから仲良く食事に行くんだ。邪魔をするんじゃないよ。じゃあね」
つんと顔をそらせ、ミゼアスはアデルジェスを促して歩き出した。
アデルジェスは後ろに遠ざかっていくエアイールが気になったが、ミゼアスに腕をつかまれていて振り返ることもできなかった。
そのため、アデルジェスの後ろ姿をじっと見つめるエアイールの姿に気づくことはなかった。
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