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115.幼馴染

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 アデルジェスの頭は混乱に継ぐ混乱で、許容能力を超えていた。
 ミゼアスがフェイミゼアスで、フェイちゃんで……アデルジェスの頭を三つの名前がぐるぐるとする。

「大丈夫?」

 首を傾げてミゼアスが尋ねてくる。
 日差しを受けて輝く黄金色の髪、春の新緑を思わせる緑色の瞳。それはあの子と同じものだ。顔だってとても可愛らしい。

「フェ……フェイちゃん……?」

「うん」

 ミゼアスはあっさりと頷く。

「ええっ!? フェイちゃんは女の子じゃあ!?」

「僕は小さくてあまり丈夫じゃなかったから、女の子のように育てられたの。ほら、女の子の生命力にあやかるっていうのがあるでしょう。きみは体格よかったし、身体も丈夫だったから違ったけれど」

「え……ええっ!?」

「……もしかしたらとは思っていたけれど、やっぱり女の子だと思っていたか。それにしても鈍いね。僕はすぐに気づいたんだけれど」

 アデルジェスはその場にしゃがみこんで頭を抱える。心を落ち着けるべく、深呼吸を繰り返す。

「……どうして教えてくれなかったの?」

「きみに気づいてもらえるのを待っていた。最後までだめだったけれど」

「……いつから気づいていたの?」

「きみが島にやってきた船に乗っているとき。事前に名前だけは教えてもらっていたから、もしかしてと思って見に行った。昔の面影が残っていたから、すぐわかったよ」

 ということは、ミゼアスは最初から気づいていたということか。アデルジェスは愕然とする。

「……本当はね、きみを見張るのは僕の予定じゃなかったんだよ。でも、きみだってわかったから無理言って代わってもらったんだ」

 ミゼアスもしゃがみこみ、アデルジェスの耳元でそっと囁く。

「え……?」

「きみの側にいたかったから。でも、きみはもう僕のことなんて忘れているんじゃないかと思ったから、最初はそれで何も言わなかった。負担になったら嫌だから」

 ミゼアスの腕がアデルジェスの頭にまわされる。

「……でも、きみは僕のことを覚えていてくれた。嬉しかったよ。フェリス騒動の後、きみが僕のことを話してくれたでしょう。あのとき言ったのは、僕の本心。きみのことを怒ってなんかいない。それより、約束を守れなくてごめん……」

 ミゼアスの腕に力がこめられる。
 あのとき、ミゼアスに『許す』と言ってくれと頼んだのだ。ただの自己満足にすぎないと思っていたが、本当に許してもらえていたのだ。
 アデルジェスの胸に歓喜が広がり、一種の恍惚感すら覚えた。
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