純潔の寵姫と傀儡の騎士

四葉 翠花

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69.これが最後

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「あてがったのはそれきりだったが、結局は余の見栄と身勝手のため、バルトロに好きにさせたまま、今日までずるずると来てしまったのだ。だが、いいかげん終わらせねばな。ドロテアの子も、ルチアも、余の大切な娘たちだ。余は娘たちを守らねばならない」

 言葉を区切ると、ゴドフレードはやわらかい笑みを浮かべた。

「陛下……アドリアンのことは……」

 胸にちくりとした疼きを覚え、ステファニアは問いかける。
 アドリアンは、唯一、ゴドフレードの血を引いている可能性があるという。しかもゴドフレードの愛しい女性が産んだ子であり、さらに男子だ。
 ゴドフレードはいったい、彼に対してどのような思いを抱いているのだろうか。
 彼の子を得るため、種馬としてステファニアにあてがったくらいでもある。いくら自らの血を引かない子たちを娘として受け入れたとしても、そう簡単に彼を手放してくれるのだろうか。

「……元気で、生きているというのなら、それでよい。たとえ余の手もとをすり抜けていこうと、もうよいのだ」

 ステファニアの不安を見抜いたように、ゴドフレードは答える。遠くを見つめているかのような目は優しく、穏やかな諦観の念が浮かんでいた。

「もともと、アドリアンを殺すつもりなどなかった。そなたにあてがい、うまく子ができればその後は通常の生活に戻す予定だった。だから傀儡の術をかけ、現実の出来事ではないと思わせていたのだが……まさか、術を解くとは思わなかった」

 子供の悪戯を見つけたときのような苦い笑みを浮かべ、ゴドフレードはステファニアを見つめて目を細める。
 どことなくばつの悪い思いがわきあがり、ステファニアはそっと視線をそらした。

「そなたとアドリアンが幼馴染で、将来を誓った仲だったとは、本当に巡りあわせとは不思議なものだ。そなたを正妃にすることが、そなたの幸せになるかと思ったが……そうではなかったな。余は、アドリアンも、そなたも手放そう。これからは、アドリアンと共に幸せになるとよい」

 ゴドフレードの大きな手が、ステファニアの頭を撫でる。優しく、ふんわりと、何回かその動作は繰り返されたが、やがてゴドフレードは動きを止めてステファニアの温もりを手に刻み付けるように、目を閉じた。
 ステファニアも目を閉じ、ゴドフレードの手の感触を味わう。

 これが、寵姫としてゴドフレードに寄り添う最後なのだと、理解していた。
 恋愛感情はもともとなかった。彼の癒しになればよいといった親愛の情はあったが、それだけだ。むしろ、ひどい仕打ちには恨みすら覚えていた。
 それなのに、ステファニアの頬には一筋の涙が伝っていく。
 胸にちりちりと走る痛みが何なのか、どうして涙が出るのか、ステファニアにはわからなかった。
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