69 / 77
69.これが最後
しおりを挟む
「あてがったのはそれきりだったが、結局は余の見栄と身勝手のため、バルトロに好きにさせたまま、今日までずるずると来てしまったのだ。だが、いいかげん終わらせねばな。ドロテアの子も、ルチアも、余の大切な娘たちだ。余は娘たちを守らねばならない」
言葉を区切ると、ゴドフレードはやわらかい笑みを浮かべた。
「陛下……アドリアンのことは……」
胸にちくりとした疼きを覚え、ステファニアは問いかける。
アドリアンは、唯一、ゴドフレードの血を引いている可能性があるという。しかもゴドフレードの愛しい女性が産んだ子であり、さらに男子だ。
ゴドフレードはいったい、彼に対してどのような思いを抱いているのだろうか。
彼の子を得るため、種馬としてステファニアにあてがったくらいでもある。いくら自らの血を引かない子たちを娘として受け入れたとしても、そう簡単に彼を手放してくれるのだろうか。
「……元気で、生きているというのなら、それでよい。たとえ余の手もとをすり抜けていこうと、もうよいのだ」
ステファニアの不安を見抜いたように、ゴドフレードは答える。遠くを見つめているかのような目は優しく、穏やかな諦観の念が浮かんでいた。
「もともと、アドリアンを殺すつもりなどなかった。そなたにあてがい、うまく子ができればその後は通常の生活に戻す予定だった。だから傀儡の術をかけ、現実の出来事ではないと思わせていたのだが……まさか、術を解くとは思わなかった」
子供の悪戯を見つけたときのような苦い笑みを浮かべ、ゴドフレードはステファニアを見つめて目を細める。
どことなくばつの悪い思いがわきあがり、ステファニアはそっと視線をそらした。
「そなたとアドリアンが幼馴染で、将来を誓った仲だったとは、本当に巡りあわせとは不思議なものだ。そなたを正妃にすることが、そなたの幸せになるかと思ったが……そうではなかったな。余は、アドリアンも、そなたも手放そう。これからは、アドリアンと共に幸せになるとよい」
ゴドフレードの大きな手が、ステファニアの頭を撫でる。優しく、ふんわりと、何回かその動作は繰り返されたが、やがてゴドフレードは動きを止めてステファニアの温もりを手に刻み付けるように、目を閉じた。
ステファニアも目を閉じ、ゴドフレードの手の感触を味わう。
これが、寵姫としてゴドフレードに寄り添う最後なのだと、理解していた。
恋愛感情はもともとなかった。彼の癒しになればよいといった親愛の情はあったが、それだけだ。むしろ、ひどい仕打ちには恨みすら覚えていた。
それなのに、ステファニアの頬には一筋の涙が伝っていく。
胸にちりちりと走る痛みが何なのか、どうして涙が出るのか、ステファニアにはわからなかった。
言葉を区切ると、ゴドフレードはやわらかい笑みを浮かべた。
「陛下……アドリアンのことは……」
胸にちくりとした疼きを覚え、ステファニアは問いかける。
アドリアンは、唯一、ゴドフレードの血を引いている可能性があるという。しかもゴドフレードの愛しい女性が産んだ子であり、さらに男子だ。
ゴドフレードはいったい、彼に対してどのような思いを抱いているのだろうか。
彼の子を得るため、種馬としてステファニアにあてがったくらいでもある。いくら自らの血を引かない子たちを娘として受け入れたとしても、そう簡単に彼を手放してくれるのだろうか。
「……元気で、生きているというのなら、それでよい。たとえ余の手もとをすり抜けていこうと、もうよいのだ」
ステファニアの不安を見抜いたように、ゴドフレードは答える。遠くを見つめているかのような目は優しく、穏やかな諦観の念が浮かんでいた。
「もともと、アドリアンを殺すつもりなどなかった。そなたにあてがい、うまく子ができればその後は通常の生活に戻す予定だった。だから傀儡の術をかけ、現実の出来事ではないと思わせていたのだが……まさか、術を解くとは思わなかった」
子供の悪戯を見つけたときのような苦い笑みを浮かべ、ゴドフレードはステファニアを見つめて目を細める。
どことなくばつの悪い思いがわきあがり、ステファニアはそっと視線をそらした。
「そなたとアドリアンが幼馴染で、将来を誓った仲だったとは、本当に巡りあわせとは不思議なものだ。そなたを正妃にすることが、そなたの幸せになるかと思ったが……そうではなかったな。余は、アドリアンも、そなたも手放そう。これからは、アドリアンと共に幸せになるとよい」
ゴドフレードの大きな手が、ステファニアの頭を撫でる。優しく、ふんわりと、何回かその動作は繰り返されたが、やがてゴドフレードは動きを止めてステファニアの温もりを手に刻み付けるように、目を閉じた。
ステファニアも目を閉じ、ゴドフレードの手の感触を味わう。
これが、寵姫としてゴドフレードに寄り添う最後なのだと、理解していた。
恋愛感情はもともとなかった。彼の癒しになればよいといった親愛の情はあったが、それだけだ。むしろ、ひどい仕打ちには恨みすら覚えていた。
それなのに、ステファニアの頬には一筋の涙が伝っていく。
胸にちりちりと走る痛みが何なのか、どうして涙が出るのか、ステファニアにはわからなかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
66
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる