純潔の寵姫と傀儡の騎士

四葉 翠花

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70.新たな糸

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 とうとうゴドフレードによる傀儡の糸は解き放たれた。
 アドリアンも牢から出され、通常の勤めに戻ったそうだ。まだステファニアは会わせてもらっていないが、リナがアドリアンの姿を王宮で見かけたと教えてくれた。
 ゴドフレードは、先日の病により子を作ることができなくなったと公表した。先日の病が原因であるとしたのは、ドロテアの子の父親に疑いを持たせないためである。
 これから、後宮の解体が始まる。
 慌しくなってきたが、いずれ落ち着いてアドリアンとの幸せな日々がやってくることを、ステファニアは信じていた。

 しかし、やっと光明が差したかに見えたステファニアの未来にも、不穏な影が迫っていた。

「ステファニア様、ご懐妊おめでとうございます!」

「もし、男子であれば、お世継ぎでございますね!」

「陛下の最後のお子になるのですから、たとえ女子であっても……」

 ステファニアの懐妊が、広く知られてしまったのだ。
 ご機嫌取りに人々が押し寄せて、好き勝手なことを言っていく。
 当然のことながら、腹の子の父親はゴドフレードと思われている。しかも、ゴドフレードが子を作れなくなったと公表した以上、最後の子になるのだ。

 男子であれば世継ぎとなり、女子であってもそれなりの待遇が用意されるに違いないと、今や貴族たちのお茶会から、下働きたちの世間話まで、ステファニアが産む子の話題でもちきりとなっていた。
 喜びにわくエルドナート侯爵家からは、安産祈願のお守りや、男子を授かるという怪しげな札までが送られてきて、ステファニアの部屋を埋め尽くさん勢いだ。

 ドロテアの子が女子だった以上、ステファニアの子が最後の希望となる。
 さらに後宮を解体するということは、ステファニアを正妃にするつもりだろうと、まことしやかに囁かれた。
 人々の祝福が、ステファニアを新たな糸で縛り付けていく。せっかくアドリアンの傀儡の糸は手放されたというのに、今度はステファニアががんじがらめにされ、身動きが取れない。

 王の最後の子を身ごもった寵姫を臣下に下賜するなど、ありえない話だった。
 人々の期待はゴドフレードにも絡み付いて、彼にも手の打ちようがなくなってしまったのだ。
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