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第一章
消えた卵形
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翌朝、起床した姫君が真っ先に確認したのは、やはり卵形だった。が、手に握って寝た筈のそれは、手中のどこにも見当たらなかった。枕元にもない。布団の中もクマなく探したが見つからない。寝相で何処かに転がったのかと、辺りを捜索するも、それでも見つからなかった。箱の中を確認しても、四角の方はあったが、やはり卵形は見つからない。
焦りのような感情が姫君の心臓を圧迫した。
どうしよう…
もしや、寝ている隙を狙って姫君の手の中から何者かが卵形を奪い取ったのでは?
そのような推測も浮かんだ。
「ヴヴヴ…」という音がこれほど愛おしく感じたことは無かった。
音…
姫君は閃いた。四角の方はあった。これの装飾を押せば、どこかでその響きを耳に届けてくれるハズ。その音の響きを辿れば、愛しい卵形との再会を果たせるのではないかと。
嬉々として姫君は装飾を押下した。すると。
「あれさああ!な、何としたことじゃ!」
すぐに卵形の動きをストップさせ、ガクガクと腰を痙攣させ、その場にへたり込んでしまった。
「はぁ…はぁ…」と息を荒くしながら姫君は確信した。
卵形は、寝ている間に、何かの拍子で姫君の『こつぼ』に入り込んだに違い無いと。
ぼぼに触って直接確認してみると、確かにあの透明な紐が感覚された。
この紐を引っ張れば、それは簡単に引き抜くことはできる。
しかし…
姫君は、もう一度先程の刺激を味わいたくなってしまい、突然の出来事に思わず床に落としてしまった四角を拾い上げようとした。すると、城で飼っている狆がやってきて、姫君が拾うより先にそれを咥えてしまった。
「あ!これ!チンチン!」
この狆は『御チンの方』と言う名前で、姫君は『チンチン』や『おちんちん』と呼んで可愛がっていた。
姫君の反応に驚いた狆は、四角を咥えたままスタコラと走り去った。
その際の力みで装飾が押下されてしまった。
「ヒィ!ダメじゃ!き、気がゆくぞ!」
もう少しで気がゆくところで振動は止まった。
「な、なんと言うことじゃ…」
息を荒くしながら、慌てて『こつぼ』に入り込んだ卵形を引き抜こうとしたその時。
「姫君!」
襖越しの家臣が呼ぶ声に慌てふためいて、どうしていいか分からなくなってしまい、取り敢えず体勢を整えて家臣を中に入れた。
「姫君、本日は、琴のお披露目の日にござります。準備の方をお急ぎあそばしたく存じ上げたてまつりまする」
姫君はすっかり琴のお披露目のことを忘れていた。
「おお、そうじゃったな。すぐ準備いたすゆえ、しばし待たれよ」
姫君は侍女を呼んで準備を始めた。卵形を引き抜いてからにすればいいのに…
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しかし…
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