尾股城の姫君

くろ

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第一章

琴のお披露目で気がゆくぞ!

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この日は姫君が琴の練習の成果を皆の前でお披露目する日であった。
大広間に城中の位の高い者だけが集められた。それでもその数は二百人以上にのぼった。
出囃子の鼓が鳴る。

ポン!ポンポンポンポンポンポンポポン!ポポン!

「姫様のオナ~ニ~!」

この城では「おな~り~」を「オナ~ニ~」と言わなければならない決まりがあった。古来から受け継がれた決まり事で、それはとても大切な事だった。

襖が両側から勢いよく引かれる。真ん中に現れたのは、煌びやかな衣装に身を包んだ、小さな姫君の姿だった。
晴れやかな眩しい美しさを唐突に目の当たりにした男どもの口から一瞬「おぉ…」と、響めきが湧く。
その立ち振る舞いは凛として、堂々たるものであった。が、姫君の内心には、いつ、何時、内部の卵形が暴走するかといった不安要素が抱えられていた。

静まり返った大広間内には、姫君が琴の前に座り込む時に着物が擦れる音だけがコソコソと囁いた。

姫君は神経を集中させて、弦に爪を当てた。
と、ここで卵形が暴れ出した。

「はぅあぁ!」

勢いで弾いてしまった弦が力強い音を奏でた。場内は騒めく。衝撃的な幕開けとなってしまった。
悟られまいと姫君は、全神経を演奏に集中させた。ここで卵形の振動が止まる。「このままでは不味い」と感じた姫君は、なんとか取り繕うために必死に弦を弾いた。
姫君の努力により、始めの「はぅあぁ!」は「そういう始まり方」という認識に収める事に成功した。
また卵形が震える。

「アレサア!」

これもなんとか合いの手だったという認識にすり替えたが、今回は振動が中々治らない。

「いくいく!ダメダメ!アンアンアレサア!フンスウ!気がゆく!あ~れあれ~!」

否応なく溢れ出るよがり泣きを何とか小気味のよいものにし、それに琴の旋律を不自然ではないよう、絶妙に合わせるのは至難の業であった。が、甲斐あって、拍子に乗って身体を揺する者の姿もチラホラあった。

そして「気がゆく」と同時に力強く弦を弾いた右手を天に掲げ、背筋を弓なりに伸ばし、その瞳は天井を見上げ、暫くその姿勢のまま、絶頂の余韻に浸った。卵形の振動は止まっていた。

大広間は歓声で溢れた。

思わぬ才能により、姫君はこの難を逃れることができた。
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