性癖短編集

くろ

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地図フェチ女

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大人になってから自分自身の知らなかった嗜好に気付くという経験は、誰だってあるはずだ。
僕にとってのそれは『地図』だった。行ったことのある土地を地図で見返すと、その時のことを思い出したりして、ワクワクしてきて、いつの間にか時間を忘れることもあるぐらいだった。
しかし、悲しいことに、そんな僕の喜びに、誰も共感してくれる人は近場にはいなかった。
僕は、その相手をネットを使って探すことにした。それも、出会い系サイトで。
結婚もしていなければ、彼女もいなかったので、”あわよくば”を狙ってみたのだ。

早速見つかった相手の名前は『ひめの』さんと言う二十歳の子。プロフィール写真は、大人しそうなメガネの文系少女の印象。少し茶色掛かったロングヘアー。大きめの目はやや離れ気味。頬のラインが柔らかな丸顔で、少しロリっぽい。
幼い頃から地図フェチで、価値観の合う人を探すためにこのサイトに登録したらしい。
歳上が好きと言うことだったが、親子ほどの歳の差があったので、恋愛関係までの進展は流石に少しキツそうだ。

彼女はとても遠い所に住んでいた。旅費のことを考えて、こちらから会いに行く提案をしてみたのだが、前々から僕の住んでいる土地に来て見たかったらしく、飛行機に乗るのも好きだと言うことで、向こうからこちらに来てくれる流れとなった。代わりに僕は、住んでいる土地の案内をする約束をした。

そして、約束の日が訪れた。ドキドキしながら空港に迎えに行くと、それらしき文学少女を発見した。
彼女は、茶色っぽいチェックのロングワンピースの中に、くしゃくしゃにしたみたいな白のブラウスをインナーに着ていた。頭にはワンピースと同柄のベレー帽を被り、針金のような縁のメガネを掛けていた。
生で見る彼女は、思ったより小さくて、そして、やはり若く、ハリのある肌が透き通って綺麗だった。更に、かなりの巨乳の持ち主だった。何故プロフィールに書かなかったのか、不思議なぐらいだった。

「ひめのちゃんですか?」

僕はビクビクしていた。何故なら、僕のプロフィール写真は、いくらか若く見えるように
加工を施していたからだ。
実際のこのハゲデブを見て、どう思うだろうか…

「後藤くん!?」

僕とひめのちゃんは、出会い系のメッセージのやり取りの中で、お互いの呼び方を決めていた。
親子ほど歳の離れた女の子から面と向かって『君付け』で呼ばれるのは、そんなに悪い気はしなかった。むしろ少し興奮した。
意外にも、ひめのちゃんは僕のことを気に入ってくれたみたいで、予定通り、僕の住んでいる土地の案内をする流れとなった。

道中、ひめのちゃんの、地図に対する熱い思いを聞かされた。

流石に、幼い頃からの筋金入りの地図好きなだけあって、その知識量は膨大だった。彼女は、こちらがしゃべる隙間を全く与えてくれないほどに、ずっとしゃべり続けていた。

僕は、敗北感に襲われていた。僕の周りの人達は、僕の地図の話についていけない。だから僕は、僕の地図の話についていけるような人を求めていた。でも今、僕は、彼女の地図の話についていけない。

いつの間にか飛行機の時間は無くなっていた。それは僕の、”夜を共に過ごしたい”という、邪な心が計画した結果だった。彼女は、泊まって帰るぐらいの準備はしていたらしく、特に焦る様子を見せなかった。
この日は、僕の家に彼女を泊めてあげることにした。
一人暮らしの男の部屋に寝泊まりすることに対して、彼女はこれと言って警戒する様子を見せなかった。それより、地図についてもっと僕と話しをしたそうだった。

彼女はまるで、幼い子供がパパに自慢するかのように、テーブルの上にA3サイズくらいの地図を広げた。表面が凸凹していて、立体的に見える地図だった。
それは『くにゃマップ』という合成樹脂で作られた地図で、彼女はこれをいつも丸めて持ち歩いているそうだ。
この凹凸を指で辿っていくと、その土地に行った記憶が鮮明に蘇ってくるらしい。
彼女は三重県の辺りを指先で辿って、暫く捏ねくり回していた。
心なしか、息が荒くなっていたような…
彼女がトイレに立った隙に、僕もこの地図を指で辿ってみた。確かに、デコボコする肌触りは新鮮だった。これは、僕も買ってみる価値があるかも知れないと思った。
フッとさっき彼女が捏ねくり回していた箇所が目に入った。
そこには『万古町(三重県四日市市)』と記されていた。

急に温かな空気が耳をくすぐった。

「あ、後藤君に私のくにゃマップ触られちゃった………」

耳元で彼女が囁いていた。彼女の豊満な『乳房山(東京都小笠原村母島)』が肩に乗る。

「ねぇ、私の胸のカップ、当てて見て?」

僕は全く分からなかった。それより、急に距離が近くなった彼女の態度に戸惑いが隠せなかった。

「ヒントは北海道」

それを聞いても全く分からない。僕はタジタジするだけで時間だけが経過した。

「ここ」

彼女は北海道の中心より、やや東寄りを指で辿っていた。そこには 『愛冠(北海道足寄郡)』と記してあった。

「『あいかっぷ』って読むのよ」

耳元の甘い吐息が熱を帯びていた。唐突に強い快が走る。彼女の指先が僕の『乳頭山(秋田県仙北市)』を辿っていたのだ。
更に、流れるような手捌きで、彼女は僕のズボン越しの、はち切れんばかりに膨れ上がった『珍小島(北海道虻田郡洞爺湖町)』を空いた方の手の中に包み込んだ。
イタズラっ子の園児を咎めるような口調で彼女は言った。

「あ、後藤君の『五島列島(長崎県五島市)』が、『房総半島(千葉県富津市)』しちゃってる」

押し寄せる快に全身は震え、自然と『大口(新潟県五泉市)』が開く。そこに彼女の『大口(新潟県上越市)』が覆い被さり『上舌(福井県大野市)』『下舌(福井県大野市)』と躍動を始めた。
僕は、柔らかい筈の雲の中にいるのに、身動きが取れないような、そんなもどかしい感覚に陥っていた。

いつの間にか僕の『珍宝岩(福岡県八女市)』が外に露出されていた。

「あ、後藤君の『巨根橋(鳥取県日南町)』だ」

彼女の『蛇口(岩手県九戸郡軽米町)』が、僕の『亀頭迫(熊本県玉名市)』に迫る。『阿寒町上舌辛(北海道釧路市)』『阿寒町下舌辛(北海道釧路市)』と、焦らすように這ったかと思うと。『大口(茨城県坂東市)』が上から被さり、『口内町(岩手県北上市)』へと包み込まれる。
温かな快の中に保護され、思わず声が漏れる。
彼女の左指は、僕の『乳頭温泉郷(秋田県仙北市)』を微かに触れるか触れないかで辿り、右手は『玉袋(愛知県豊川市)』を優しく揉みしだいていた。『大口(埼玉県さいたま市岩槻区)』はやがて『小口(栃木県那須郡那珂川町)』となり、更に『  狭口(新潟県加茂市)』にまで窄んでその締め付けを強めてから、『下川口(新潟県岩船郡関川村)』から『上川口(新潟県岩船郡関川村)』へと、流れるようなピストンを繰り返した。

複雑に入り組んだ快の絡み合いの中で、方向を見失ってしまった僕は、地図に存在しない、真っ白な光りの中へと放り込まれた。
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