林檎を並べても、

ロウバイ

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病室にて

見舞客だと言う

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 パチリと目を覚ます。長い間寝ていたような感覚に首をかしげる。手始めに手のひらを握っては開いてを繰り返すと、無理に動かした節々がほんの少し痛みを訴えていて、かなり長い間眠っていたことが伺えた。
むくりと起き上がって、白いシーツの上に手を投げ出す。
一気に広がった視界から見える景色はどうやら病室のようで、ツンとしたアルコールの香りが鼻を刺した。俺の左手首辺りから点滴に繋がれたチューブが伸びている。ベッドのそばに置かれた机には小ぶりの花束とリンゴが二つ置かれていて、俺が眠っている間に誰かがお見舞いに来ていたことが分かった。
誰だろうかと心当たりが有りそうな人を思い浮かべようとして、はたりと違和感に気付く。

ゴトリ。

突然音がして、その方向に視線を向けると、そこには小さくあの形に口を開いた男性が立っていた。黒い髪で右目に泣きぼくろのあるその男性が落としたのは、机に並べられたリンゴと同じ品種のリンゴだったようで、床に燃えるように赤い果実が転がっている。
それを持っていたということは、きっと彼がずっとお見舞いに来てくれていた人なのだろう。
未だに落としたリンゴを拾うことなく立ちすくんでいる彼に声をかける。

「君が、お見舞いに来てくれてたのかな。ありがとう」

久しぶりに使う声帯は乾いているようで、最初のほうはかすれた声が出てしまう。そんな俺の言葉を聞いて、しばらくしてから静止画のように止まっていた彼はようやく動いた。

「お、俺が誰か分か…るか?」

声を震えさせながらそう問いかける彼に、返す言葉が無くて口を開けようとして閉じる。
どうすればいい。どうするのが正解だ。
はくりと、音にならない声がこぼれた。

「…ごめん。わからない」

俺の謝罪の言葉に目を見開き、彼はやっぱりといったように諦めを顔に浮かべた。気まずい沈黙がカーテンに仕切られた狭い白い空間に充満していく。それが満ちる前にその沈黙を破いたのは、彼からだった。

「そうだよな。全然大丈夫」

明るい、空っぽな色をした声が響く。
ふにゃりと眉を崩して、彼は優しそうな笑顔を浮かべる。その中に悲しさともとれそうな曖昧な感情が紛れていることにも気づいていたが、あえて見なかったことにした。
 
だって、彼が笑っているから。

彼が無理をして笑っていることなんて、彼と初対面な俺でもすぐに分かった。さすがにそんな彼の気遣いを無垢にするほど俺は人でなしではない。

「俺はお前の友達なのさ」

寂しそうに笑う彼は、しゃがんでリンゴを拾いながら俺たちの関係を告げた。
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