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主治医
ビデオレター
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私がなにか言葉を紡ぐ前に、会場が突然真っ暗になった。
少しの混沌ののち、ざわめいていた会場は静になった。みながみな、前方に吊るされたスクリーンに目を向ける。新婦が新郎の隣に並んだのを確認して、私も周囲にならって目を向ける。
私の目が、大きく見開いた。
「新郎のご友人から寄せられたビデオレターです!本日は残念ながらご事情によりご欠席なさっていますがーーー」
マイク越しのスタッフのよく通る声によって進んでいく彼の説明は、耳に引っ掛かることなくすり抜けていく。動揺が抑えられない。なんで、どうして。
大きな画面の中には、黒髪で右目の下に涙ぼくろを持つ彼がいた。
三ヶ月前、亡くなった彼が。
『こんにちは。渡山爽の親友、戸谷間都季です。』
驚く私の横で、新郎の方のワタヤマさんは同じようにして目を丸くしている。
『爽とは、大学時代からの仲でして…一時期は一緒にルームシェアしてたりもしましたね。そんな彼がまさか結婚するだなんて実感が湧かないです。訳あって、こんな形での御祝いになるんですけど…爽と花嫁の朱美さん、ご結婚おめでとうございます。』
画面の中の彼は、綺麗な笑顔で祝福の言葉を続けた。
それでも、私には分かる。少し眉の歪む笑顔。
あの笑顔は、彼が嘘をついているときの笑顔だ。
『じゃ、爽。幸せになってくれよ。』
そう締め括られ映像が消え、パッと部屋が明るくなる。最初はぱらついていた拍手も、次第に大きくなっていき、会場中に暖かい雰囲気が流れ出した。
未だに狐につままれたような顔をしながら消えてもなお画面を見続ける新郎に、そっと問いかける。
どうしても、言わなくちゃいけないと思った。
「爽さんは今、幸せですか?」
結婚式ではタブーに近い言葉だし、どんな言葉が返ってくるかもあらかた予想はついていた。それでも、本当に最後までそうなのか確かめたくて、意味もわからず緊張しながら返答を待つ。
彼が言ってた通りになって欲しくないという願望を、少しだけ滲ませて。
画面から目を離した新郎は、キョトンとしてからにっこり笑って口を開く。目尻にはくっきりとシワが刻まれる。
なんとも、人懐っこそうな笑顔だ。
ああ、そうか。
その表情で、私の願いは叶わないことを瞬時に悟る。
「もちろんです!」
一言一句間違うことなくブレることなく、それはしっかりと紡がれた。
その声に一切の迷いはない。それを聞いた私の脳内には、寂しそうながらも笑う彼の笑顔で溢れかえった。
『俺は、アイツが幸せになれてたら何でもいいです。』
去っていくなにも知らない新郎に、感情に任せて言葉をぶつけたくなる。
渡山さんを世界で一番愛していた人がいたのに。
あなたはそんな大切な人を記憶を失って手放したのに。
でも、それは私がしていいことじゃない。
分かっている。全てはどうしようもないことで、誰かが変えられるような単純なものではないということも。
言葉を飲み込む代わりに、ポツリと一粒だけ涙が溢れた。
少しの混沌ののち、ざわめいていた会場は静になった。みながみな、前方に吊るされたスクリーンに目を向ける。新婦が新郎の隣に並んだのを確認して、私も周囲にならって目を向ける。
私の目が、大きく見開いた。
「新郎のご友人から寄せられたビデオレターです!本日は残念ながらご事情によりご欠席なさっていますがーーー」
マイク越しのスタッフのよく通る声によって進んでいく彼の説明は、耳に引っ掛かることなくすり抜けていく。動揺が抑えられない。なんで、どうして。
大きな画面の中には、黒髪で右目の下に涙ぼくろを持つ彼がいた。
三ヶ月前、亡くなった彼が。
『こんにちは。渡山爽の親友、戸谷間都季です。』
驚く私の横で、新郎の方のワタヤマさんは同じようにして目を丸くしている。
『爽とは、大学時代からの仲でして…一時期は一緒にルームシェアしてたりもしましたね。そんな彼がまさか結婚するだなんて実感が湧かないです。訳あって、こんな形での御祝いになるんですけど…爽と花嫁の朱美さん、ご結婚おめでとうございます。』
画面の中の彼は、綺麗な笑顔で祝福の言葉を続けた。
それでも、私には分かる。少し眉の歪む笑顔。
あの笑顔は、彼が嘘をついているときの笑顔だ。
『じゃ、爽。幸せになってくれよ。』
そう締め括られ映像が消え、パッと部屋が明るくなる。最初はぱらついていた拍手も、次第に大きくなっていき、会場中に暖かい雰囲気が流れ出した。
未だに狐につままれたような顔をしながら消えてもなお画面を見続ける新郎に、そっと問いかける。
どうしても、言わなくちゃいけないと思った。
「爽さんは今、幸せですか?」
結婚式ではタブーに近い言葉だし、どんな言葉が返ってくるかもあらかた予想はついていた。それでも、本当に最後までそうなのか確かめたくて、意味もわからず緊張しながら返答を待つ。
彼が言ってた通りになって欲しくないという願望を、少しだけ滲ませて。
画面から目を離した新郎は、キョトンとしてからにっこり笑って口を開く。目尻にはくっきりとシワが刻まれる。
なんとも、人懐っこそうな笑顔だ。
ああ、そうか。
その表情で、私の願いは叶わないことを瞬時に悟る。
「もちろんです!」
一言一句間違うことなくブレることなく、それはしっかりと紡がれた。
その声に一切の迷いはない。それを聞いた私の脳内には、寂しそうながらも笑う彼の笑顔で溢れかえった。
『俺は、アイツが幸せになれてたら何でもいいです。』
去っていくなにも知らない新郎に、感情に任せて言葉をぶつけたくなる。
渡山さんを世界で一番愛していた人がいたのに。
あなたはそんな大切な人を記憶を失って手放したのに。
でも、それは私がしていいことじゃない。
分かっている。全てはどうしようもないことで、誰かが変えられるような単純なものではないということも。
言葉を飲み込む代わりに、ポツリと一粒だけ涙が溢れた。
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