病み墜ちした騎士を救う方法

無月陸兎

文字の大きさ
11 / 15

10.

しおりを挟む

 ヴィルヘルトと別れて暫く哀愁に浸っていたが、廊下が急に騒がしくなった。
 ガチャガチャと鎧の擦れる音と、荒い足音が近付き、ドアが乱暴にノックされる。返事をする間もなく扉が勢いよく開き、息を切らした若い騎士が飛び込んできた。

「お休みのところ恐れ入ります! 至急、神殿までお越しください!」
「な、何があったんですか……?」
「魔物の襲撃です!」

 慌てて上着を羽織り、彼の後を追って廊下を駆け出す。

 どういうことだ? 魔物の襲撃イベントにしては、早すぎる。
 原作では黒月蓮が侍従に化けていた魔人に唆され、完全に堕ちるまで一ヶ月の猶予があった筈だ。陽真を狙うための陽動で、朔夜たちに邪魔されないよう、複数の魔物が王都周辺に現れる──そんな流れだった。
 ゲームではレベル上げの期間として設定されていたけど、現実では短縮されたのか?
 そもそも俺は陽真を襲うつもりないし、魔人と接触した覚えもない。だから、イベント自体が変わったんだろうか。


 息を切らしながら神殿へ辿り着くと、既に負傷者が次々と運び込まれていた。
 幸い、どの人も軽傷のようだが、魔物が出たとあって空気は張り詰めている。

「神子様! ああ、来てくださったのですね!」

 中年の神官が、すがるように駆け寄ってきた。
 顔色は青白く、額には汗が滲み、声は震えている。その表情には焦りと恐怖が入り混じっていた。

「複数箇所で魔物が暴れております。既に、他の神子様は北門と東門に向かわれました!」
「お、おい! その人に頼んでも……」
「一刻も早く魔物を倒さねば!」

 隣にいた若い神官が止めようとするも、中年の神官は振り向きもせずに続けた。

「街中に被害が広がったら困ります! どうかご助力を!」
「分かりました、僕で良ければ。どこに行けばいいですか?」

 そう告げると、神官は安堵したように息を吐き、指を西の門へ向けた。

「西門へ。今は魔物の姿が見えず、不気味でして。そちらをお願いします!」
「了解です」
「護衛をつけましょう。そこの騎士と……君!」
「はい」
「お、俺ですか……?」

 呼ばれたのは、俺を迎えに来た騎士と、怪我人の案内をしていた細身の騎士だった。
 二人とも若く、神官に命令されて酷く緊張した様子だ。鎧の装飾からして警備担当らしいが、大丈夫だろうか。戦力としては正直、心許ない気もするが……。

 不安に思いながらも、三人で西門へ走る。
 途中、祭りで賑わっていた街中を避難する人々とすれ違う。楽しげだった筈の通りが静まり返り、少し荒れた無人の出店がぽつんと並んでいた。
 折角の祭りが、これでは台無しだ。


 騎士二人より大分遅れて門へと辿り着く。
 門の外に出て周囲を見渡すが、街道には人影がなく、しんと静まり返っている。

「神子様、こちらを。身を守るものがないと危険です」

 怪我人を見ていた方の騎士が、俺に短剣を差し出した。
 剣なんて使ったことないけど……何もないよりはマシか。

「ありがとう、助かります」
「警戒を怠らないでください。魔物を見つけたら、すぐ浄化をお願いします」
「……分かりました。でも、本当に魔物がいたんですか?」
「はい。北門は数が多く、東門では獣型が複数目撃されています。西門は目撃が少ないものの、警備兵が負傷して戻っており、怪しい影を見たそうです」

 話している途中、茂みがガサリと動いた。二人の騎士がすぐさま剣を構え、俺も短剣を握りしめて身構える。

「……何かいます!」
「神子様、お願いします!」

 木々が揺れ、黒い塊が勢いよく飛び出した。若い騎士が素早く踏み込み、それを切り払う。
 俺は反射的に掌を翳して、浄化を唱える。瘴気が揺らぎ、魔物は溶けるように消えていった。
 ……良かった。成功したんだ。
 ほっとした途端、胸の鼓動がうるさいほどに響いた。ヴィルヘルト以外との実戦なんて初めてだ。緊張で手が少し震える。

「ハズレだなんて言われてるが、浄化はちゃんと使えるんだな」
「これなら死ぬ心配はなさそうだ……」

 小声のつもりなんだろうけど、聞こえてるぞ。
 軽く眉を寄せたが、口には出さなかった。第一の試練に失敗して『ハズレ神子』の烙印を受けたのは、事実だから。

「……ん?」

 ふと、森の奥で濃い闇がゆらりと揺れた。それは草を掻き分け、奥へと逃げていく。

「神子様! まだ奥に魔物が潜んでいます!」
「追い詰めて片付けましょう!」
「えっ、ちょ、ちょっと待って!」

 止める間もなく、二人は躊躇なく森の中へ飛び込んでいった。灯りもない暗闇に、あっという間に姿が消える。
 まだ何が潜んでいるかも分からないのに!
 彼らを追って森に足を踏み入れた瞬間、耳を裂くような悲鳴が響いた。

「うわぁぁぁぁっ!!」

 慌てて駆け寄ると、若い騎士が尻もちをつき、顔を真っ青にして震えていた。ぱっと見たところ擦り傷が数カ所と、転んだ跡はあるが、命に関わる様子はない。

「だ、大丈夫ですか!?」
「ひっ、み、神子様……! ジョンが……魔物に……!」

 指された先に視線を向ければ、地面には人を引きずったような跡が奥へと続いていた。神殿で怪我人を見ていた細身の騎士は、ジョンというらしい。

 早く助けないと。
 でも、俺一人で勝てる保証なんてない。二人で神殿まで助けを呼ぶか? その間に、ジョンが犠牲になったら……?

「あー、もう!」

 頭をかきむしり、騎士に向き直る。

「立てますか?! すぐに助けを呼んできてください! 俺は彼を追いかけます!」
「あ、あ……っ」
「頼みましたよ!」

 若い騎士を支え起こし、背中を押す。
 一人で魔物と対峙するのは怖いけど、助けるためには行くしかない。
 俺は息を吸い込み、暗い森の奥へ駆け出した。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

僕に双子の義兄が出来まして

サク
BL
この度、この僕に双子の義兄が出来ました。もう、嬉し過ぎて自慢しちゃうよ。でも、自慢しちゃうと、僕の日常が壊れてしまう気がするほど、その二人は人気者なんだよ。だから黙って置くのが、吉と見た。 そんなある日、僕は二人の秘密を知ってしまった。ん?知っているのを知られてしまった?が正しいかも。 ごめんよ。あの時、僕は焦っていたんだ。でもね。僕の秘密もね、共有して、だんだん仲良くなったんだよ。 …仲良くなったと、そう信じている。それから、僕の日常は楽しく、幸せな日々へと変わったんだ。そんな僕の話だよ。 え?内容紹介が内容紹介になってないって?気にしない、気にしない。

α主人公の友人モブαのはずが、なぜか俺が迫られている。

宵のうさぎ
BL
 異世界に転生したと思ったら、オメガバースの世界でした。  しかも、どうやらここは前世の姉ちゃんが読んでいたBL漫画の世界らしい。  漫画の主人公であるハイスぺアルファ・レオンの友人モブアルファ・カイルとして過ごしていたはずなのに、なぜか俺が迫られている。 「カイル、君の為なら僕は全てを捨てられる」  え、後天的Ω?ビッチング!? 「カイル、僕を君のオメガにしてくれ」  この小説は主人公攻め、受けのビッチング(後天的Ω)の要素が含まれていますのでご注意を!  騎士団長子息モブアルファ×原作主人公アルファ(後天的Ωになる)

婚約破棄を提案したら優しかった婚約者に手篭めにされました

多崎リクト
BL
ケイは物心着く前からユキと婚約していたが、優しくて綺麗で人気者のユキと平凡な自分では釣り合わないのではないかとずっと考えていた。 ついに婚約破棄を申し出たところ、ユキに手篭めにされてしまう。 ケイはまだ、ユキがどれだけ自分に執着しているのか知らなかった。 攻め ユキ(23) 会社員。綺麗で性格も良くて完璧だと崇められていた人。ファンクラブも存在するらしい。 受け ケイ(18) 高校生。平凡でユキと自分は釣り合わないとずっと気にしていた。ユキのことが大好き。 pixiv、ムーンライトノベルズにも掲載中

クールな義兄の愛が重すぎる ~有能なおにいさまに次期当主の座を譲ったら、求婚されてしまいました~

槿 資紀
BL
イェント公爵令息のリエル・シャイデンは、生まれたときから虚弱体質を抱えていた。 公爵家の当主を継ぐ日まで生きていられるか分からないと、どの医師も口を揃えて言うほどだった。 そのため、リエルの代わりに当主を継ぐべく、分家筋から養子をとることになった。そうしてリエルの前に表れたのがアウレールだった。 アウレールはリエルに献身的に寄り添い、懸命の看病にあたった。 その甲斐あって、リエルは奇跡の回復を果たした。 そして、リエルは、誰よりも自分の生存を諦めなかった義兄の虜になった。 義兄は容姿も能力も完全無欠で、公爵家の次期当主として文句のつけようがない逸材だった。 そんな義兄に憧れ、その後を追って、難関の王立学院に合格を果たしたリエルだったが、入学直前のある日、現公爵の父に「跡継ぎをアウレールからお前に戻す」と告げられ――――。 完璧な義兄×虚弱受け すれ違いラブロマンス

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

僕を嫌っていた幼馴染みが記憶喪失になったら溺愛してきた

無月陸兎
BL
魔力も顔も平凡な僕には、多才で美形な幼馴染みのユーリがいる。昔は仲が良かったものの、今は嫌われていた。そんな彼が授業中の事故でここ十年分の記憶を失い、僕を好きだと言ってきて──。

ドジで惨殺されそうな悪役の僕、平穏と領地を守ろうとしたら暴虐だったはずの領主様に迫られている気がする……僕がいらないなら詰め寄らないでくれ!

迷路を跳ぶ狐
BL
いつもドジで、今日もお仕えする領主様に怒鳴られていた僕。自分が、ゲームの世界に悪役として転生していることに気づいた。このままだと、この領地は惨事が起こる。けれど、選択肢を間違えば、領地は助かっても王国が潰れる。そんな未来が怖くて動き出した僕だけど、すでに領地も王城も策略だらけ。その上、冷酷だったはずの領主様は、やけに僕との距離が近くて……僕は平穏が欲しいだけなのに! 僕のこと、いらないんじゃなかったの!? 惨劇が怖いので先に城を守りましょう!

幼馴染が結婚すると聞いて祝いに行ったら、なぜか俺が抱かれていた。

夏八木アオ
BL
金髪碧眼の優男魔法使いx気が強くてお人好しな元騎士の幼馴染の二人です。

処理中です...