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しおりを挟むヴィルヘルトと別れて暫く哀愁に浸っていたが、廊下が急に騒がしくなった。
ガチャガチャと鎧の擦れる音と、荒い足音が近付き、ドアが乱暴にノックされる。返事をする間もなく扉が勢いよく開き、息を切らした若い騎士が飛び込んできた。
「お休みのところ恐れ入ります! 至急、神殿までお越しください!」
「な、何があったんですか……?」
「魔物の襲撃です!」
慌てて上着を羽織り、彼の後を追って廊下を駆け出す。
どういうことだ? 魔物の襲撃イベントにしては、早すぎる。
原作では黒月蓮が侍従に化けていた魔人に唆され、完全に堕ちるまで一ヶ月の猶予があった筈だ。陽真を狙うための陽動で、朔夜たちに邪魔されないよう、複数の魔物が王都周辺に現れる──そんな流れだった。
ゲームではレベル上げの期間として設定されていたけど、現実では短縮されたのか?
そもそも俺は陽真を襲うつもりないし、魔人と接触した覚えもない。だから、イベント自体が変わったんだろうか。
息を切らしながら神殿へ辿り着くと、既に負傷者が次々と運び込まれていた。
幸い、どの人も軽傷のようだが、魔物が出たとあって空気は張り詰めている。
「神子様! ああ、来てくださったのですね!」
中年の神官が、すがるように駆け寄ってきた。
顔色は青白く、額には汗が滲み、声は震えている。その表情には焦りと恐怖が入り混じっていた。
「複数箇所で魔物が暴れております。既に、他の神子様は北門と東門に向かわれました!」
「お、おい! その人に頼んでも……」
「一刻も早く魔物を倒さねば!」
隣にいた若い神官が止めようとするも、中年の神官は振り向きもせずに続けた。
「街中に被害が広がったら困ります! どうかご助力を!」
「分かりました、僕で良ければ。どこに行けばいいですか?」
そう告げると、神官は安堵したように息を吐き、指を西の門へ向けた。
「西門へ。今は魔物の姿が見えず、不気味でして。そちらをお願いします!」
「了解です」
「護衛をつけましょう。そこの騎士と……君!」
「はい」
「お、俺ですか……?」
呼ばれたのは、俺を迎えに来た騎士と、怪我人の案内をしていた細身の騎士だった。
二人とも若く、神官に命令されて酷く緊張した様子だ。鎧の装飾からして警備担当らしいが、大丈夫だろうか。戦力としては正直、心許ない気もするが……。
不安に思いながらも、三人で西門へ走る。
途中、祭りで賑わっていた街中を避難する人々とすれ違う。楽しげだった筈の通りが静まり返り、少し荒れた無人の出店がぽつんと並んでいた。
折角の祭りが、これでは台無しだ。
騎士二人より大分遅れて門へと辿り着く。
門の外に出て周囲を見渡すが、街道には人影がなく、しんと静まり返っている。
「神子様、こちらを。身を守るものがないと危険です」
怪我人を見ていた方の騎士が、俺に短剣を差し出した。
剣なんて使ったことないけど……何もないよりはマシか。
「ありがとう、助かります」
「警戒を怠らないでください。魔物を見つけたら、すぐ浄化をお願いします」
「……分かりました。でも、本当に魔物がいたんですか?」
「はい。北門は数が多く、東門では獣型が複数目撃されています。西門は目撃が少ないものの、警備兵が負傷して戻っており、怪しい影を見たそうです」
話している途中、茂みがガサリと動いた。二人の騎士がすぐさま剣を構え、俺も短剣を握りしめて身構える。
「……何かいます!」
「神子様、お願いします!」
木々が揺れ、黒い塊が勢いよく飛び出した。若い騎士が素早く踏み込み、それを切り払う。
俺は反射的に掌を翳して、浄化を唱える。瘴気が揺らぎ、魔物は溶けるように消えていった。
……良かった。成功したんだ。
ほっとした途端、胸の鼓動がうるさいほどに響いた。ヴィルヘルト以外との実戦なんて初めてだ。緊張で手が少し震える。
「ハズレだなんて言われてるが、浄化はちゃんと使えるんだな」
「これなら死ぬ心配はなさそうだ……」
小声のつもりなんだろうけど、聞こえてるぞ。
軽く眉を寄せたが、口には出さなかった。第一の試練に失敗して『ハズレ神子』の烙印を受けたのは、事実だから。
「……ん?」
ふと、森の奥で濃い闇がゆらりと揺れた。それは草を掻き分け、奥へと逃げていく。
「神子様! まだ奥に魔物が潜んでいます!」
「追い詰めて片付けましょう!」
「えっ、ちょ、ちょっと待って!」
止める間もなく、二人は躊躇なく森の中へ飛び込んでいった。灯りもない暗闇に、あっという間に姿が消える。
まだ何が潜んでいるかも分からないのに!
彼らを追って森に足を踏み入れた瞬間、耳を裂くような悲鳴が響いた。
「うわぁぁぁぁっ!!」
慌てて駆け寄ると、若い騎士が尻もちをつき、顔を真っ青にして震えていた。ぱっと見たところ擦り傷が数カ所と、転んだ跡はあるが、命に関わる様子はない。
「だ、大丈夫ですか!?」
「ひっ、み、神子様……! ジョンが……魔物に……!」
指された先に視線を向ければ、地面には人を引きずったような跡が奥へと続いていた。神殿で怪我人を見ていた細身の騎士は、ジョンというらしい。
早く助けないと。
でも、俺一人で勝てる保証なんてない。二人で神殿まで助けを呼ぶか? その間に、ジョンが犠牲になったら……?
「あー、もう!」
頭をかきむしり、騎士に向き直る。
「立てますか?! すぐに助けを呼んできてください! 俺は彼を追いかけます!」
「あ、あ……っ」
「頼みましたよ!」
若い騎士を支え起こし、背中を押す。
一人で魔物と対峙するのは怖いけど、助けるためには行くしかない。
俺は息を吸い込み、暗い森の奥へ駆け出した。
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