病み墜ちした騎士を救う方法

無月陸兎

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 神子としてこの世界に喚ばれた黒月蓮が、魔物との戦いで命を落とした。神子の遺体は見つからず、彼の騎士であったヴィルヘルトがその最期を確認したとされている。

 ──と、神殿ではそんな風に報告されているだろうか?

 あれからもう三年。
 王都から遠く離れた森の奥で、俺はひっそりと生き延びていた。

 魔物に呑み込まれた時、死を覚悟したが……どうやら消化される前に浄化が間に合ったらしい。
 浄化途中で魔物が崖下の川に落ち、流れ着いた下流で、水汲みに来ていた村人に助けられたのだ。

 魔物の体内にいたおかげか、致命傷はほとんどなかった。喰われる前に切り落とされた右腕がないことを除けば。

 暫く村で傷を癒し、お世話になったが、長居するつもりはなかった。
 この村は王都から遠く、噂が届くのも一月以上遅れる。とはいえ、俺が生きていたと知られれば、きっと騒ぎになるだろう。そうなる前に離れるべきだと判断した。

 村人には「危険だからやめなさい」と散々止められたが、森の奥にある古い小屋を借り、一人で暮らす道を選んだ。

 本当は、黒月蓮としての役目を終えれば、元の世界に戻れるのではないかと少し期待していた。
 けれど、目が覚めても俺はまだここにいる。この世界はもう俺を必要としていない筈なのに。

 少し迷った末に“ハズレ神子の黒月蓮”ではなく、“ただのレン”として生きることにした。
 俺の役目はもう終わったのだから、後は好きに生きていいよな?
 原作通り、この世界の未来は陽真と朔夜、そして彼らの騎士たちに任せることにしよう。

 小屋を掃除し、畑を耕し、時折現れる魔物を浄化して。
 必要な物は村で農作物と交換し、静かな日々を過ごしていた。

 そんなスローライフにも慣れてきた頃、村に買い物に来た俺は、耳を疑うような噂を聞いた。


「こんにちは、おじさん。塩、もらえますか?」

 木で作られた小さな屋台の前で声をかけると、初老の店主が振り返った。

「おや、レンじゃないか。久しぶりだね、元気にしてるかい?」
「毎日、元気に過ごしてますよ」
「それは良かった。他に入り用はあるかい? 最近は魔物が減ったおかげで、また商人が村にも寄ってくれるようになってな」
「じゃあ……小麦粉も貰えると助かります」
「あいよ!」

 おじさんが小麦粉と塩を袋に取り分ける間、俺は庭で採れたじゃがいもと、干しておいたハーブ束を台の上に置く。
 ハーブはお手軽に育てられるうえ、薬草や虫除けとして使えるらしく、意外と喜ばれる。農業素人の俺にとってはありがたい作物だ。

「魔物が減ったのは、近くにいたヤツをレンが追い払ってくれたおかげもあるかもな」
「狂暴な魔物じゃなくて良かったです。俺じゃ太刀打ち出来ないですから」

 目を細めながらおだててくるおじさんに、俺は苦笑いを浮かべた。

「それと近々、神子様がこの周辺を浄化してくれるそうだ。息子らも戻ってきてくれると嬉しいんだが……」
「……え、神子?」
「お、レンじゃないか!」

 聞き返そうとした所で、通りがかった村人が集まってきた。

「またトムは息子の話してたんじゃろ」
「いいや、レンが魔物を追い払ってくれていた話をしてたんだ」
「ああ、あの時は助かったわね」
「最初、へっぴり腰で武器を構えてたから心配したけどよ。あれで魔物が逃げてくんだから大したもんだ」
「片腕で大変なのに、ハーブを育てる腕はピカイチだしな」
「はは……ありがとうございます」

 へっぴり腰だったのは、あの時持っていたのが鎌だったからだ。道端にあったのを咄嗟に拾ったのだが、情けない格好になってしまったのは仕方ない。戦いや武器の扱いにも慣れていないのだから。
 魔物を追い払えたのは、俺が神子だとバレないよう、武器にほんの少し加護を乗せて切っただけだし。
 それに、農作業だって片腕で行っている訳ではない。神子の力を応用したようなもので……なんか腕を生やすことに成功したので。まぁ、人には見せられないけど。

「……それより、神子様たちがこの村に来るって話、本当なんですか? いつ頃です?」

 時期的には、原作だとそろそろ終盤に差し掛かる頃だ。
 本音を言えば、遠目からみんなの様子を見たい気持ちはある。でも俺が生きてるとバレたら、悪影響が出るかもしれない。彼らがエンディングを迎える迄は、見付かる訳にはいかないんだ。
 暫く、家に籠っていようかな?

「商人の話じゃ、一週間後に隣村に着くと言ってたよ」
「神子様には死ぬ前に一度、お会いしたいものじゃ」
「流石に、うちみたいな過疎村までは来ないだろう」
「あたしゃ騎士様が気になるね。いい男らしいじゃないか」
「はぁ。目の保養が欲しいわぁ」
「おいおい、いい男なら目の前にいるだろ?」
「悪いけど、ゲンさんはちょっとねぇ……」
「ひでぇ!」

 わはは、と周囲が笑いに包まれた。
 気付けば、また村人が数人集まり、井戸端会議で盛り上がっている。ここでもやはり、神子と騎士の話題は人気らしい。

「そういえば……騎士様の噂、聞いたかい?」

 おばちゃんが声を潜めると、周囲も釣られるようにひそひそ声になった。

「あぁ、あの方……」
「狂ったように魔物へ斬りかかるんだってね。今じゃ“血まみれの騎士”なんて呼ばれてるそうだよ」
「魔物を倒してくれるのはありがたいが……神子様に悪い影響を与えないか心配だねぇ」

 そんな戦闘狂の騎士、いたっけ?
 離宮にいた頃、そんな人がいるなんて聞いたことはなかった。新人の話だろうか。

「金髪の……ほら、なんて名前だったかね。ヴェル……?」
「確か、ヴィルヘルト様じゃねぇか?」

 ──え?
 脳裏に、穏やかに笑う金髪碧眼の青年が浮かぶ。
 ……いやいや、まさかな。同じ名前の別人だろう。俺が知っているヴィルヘルトはそんな人じゃないし……原作でもそんなキャラじゃなかった。

「なんでも噂じゃ、大切な人を目の前で魔物に殺されたらしいぞ」
「恋人を殺された気持ちは分かるけどねぇ。現場に落ちていた腕を大切に保管してるっていう話じゃない? それはちょっと理解できないわぁ」
「へぇっ?!」

 信じられない噂に、思わず変な声が出てしまったせいで、村人の視線が一気に集まる。

「急に叫んでどうしたんだい?」
「あ、いや……切られた腕って、その……腐らずに保管できるの?」
「いや、普通は出来ないさ」
「一部の神殿勤めには、遺品を永久保管できる”保管具”ってのが与えられるんだとさ。遠縁の神官見習いをやってる子が言ってた」
「そういえばレンも、魔物に腕を食べられたって……」
「まさか、騎士様の恋人って……?」
「いやいやいや。俺が彼の恋人なら、森で畑を耕してないで、真っ先に生存報告しに行きますよ」
「だよなぁ!」
「あはは……」

 みんなと一緒に俺も笑ったが、内心では冷や汗が止まらなかった。
 都市から離れた村は兵士が常駐しておらず、村人が魔物に襲われることは珍しくない。俺みたいな境遇の人も結構いるようなので、あまり深く突っこまれずに済んで良かった……。

 しかし……どういうことだ?
 何故か、ヴィルヘルトが原作と違う人生歩んでるんだけど!?


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