ぶっきらぼう魔女は育てたい

桜乱捕り

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320話、思い出の地に詰まった、一つの違和感

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「景色的に見て~……。うん、ここで間違いないな」

「ほう。この一帯に、例の教会があったのか」

 断腸の思いで、ピース達と一旦別れ。シルフに言われた通り、私達が住んでいた教会跡地を、アルビスに見せるべく。
 八十年以上前の記憶を頼りに、森の対面にある街道や海の景色を、記憶と照らし合わせながら探し始め、約数分後。
 色褪せぬ記憶と景色が、ピタリと当てはまった場所を見つけ。ゆっくり進ませていた箒を停め、森がある方面に向いて滞空した。

「……流石に百年も経つと、木が生い茂ってしまうか」

 罪の無い大自然に対し、侘しさと文句を含んだ私の呟きが、森の中へと吸い込まれていく。正面に映る景色は、なんの変哲もない森の一角。
 誰しもが歩ませていた足を止めず、目的地を目指して通り過ぎていくような、周りとまったく代わり映えしない森だけが、そこにあった。
 ここへ訪れる度に、心に深い寂しさを感じてしまう。思い出以外、本当に何も無くなってしまった。ただ、再びここに来て、私の予想は揺るぎない確信へと変わってくれた。

「ふむ……。タートからも、それなりに離れた場所にあったんだな」

「徒歩だと、三、四十分ぐらい掛かる。だから、参拝客はそれほど多くなかったよ」

「なるほど。う~ん、空気が澄んでいて美味い。森の天井から差す木漏れ日が、どれも美しい。魔物も居ないから、鳥のさえずりがよく聞こえる。平和に満ち溢れた、実に良い場所だ。目を閉じて、森から流れてくる新鮮なそよ風を、いつまでも感じていたくなるな」

 私達が住んでいた思い出の地を、ここぞとばかりに褒めちぎるアルビスが、鼻で大きく深呼吸をした。

「アカシック。教会ともならば、やはり大きかったのか?」

「そうだな。見上げるぐらい大きかった。ただ、ちょっと奥まった場所にあったから、ここだと教会の全体像は視界に入り切るぞ」

「なるほど、ここからちょっと奥まった場所か。すまんが、アカシック。教会の入口があった場所まで、移動してくれないか?」

「ああ、分かった」

 好奇心旺盛なアルビスの願いを叶える為、前進を開始。森に入り、とある物が強くなっていくのを感じつつ、約十m移動した所で、箒を停止させた。
 教会が建っていた範囲内にも、木々達が空を目指して伸びているけれども。先に生え伸びていた他の木に比べると、背丈はまあまあ低い。

「大体ここら辺だ」

「ここか! 雑草の生え具合からして、建物の大きさは……。ほう、かなり大きいな! そうかそうか! 貴様とピース殿、そしてレム殿は、ここで二十年間、暮らしていたんだなぁ」

 雑草の生え方から、教会の大きさを予想して当たりをつけたアルビスが、やや興奮した様子で声を上げ、木漏れ日が差す森の天井に、顔を仰いでいく。
 そういえば、教会が建っていた場所の天井は、他の場所に比べるとかなり薄い。朝焼け色が収まってきた空が広く見える。

「しかし……、不思議な雰囲気を感じる場所だな」

 アルビスの鋭い独り言に、私の口角が緩く上がっていくのを感じ取った。

「どうやら、お前も感じたみたいだな」

「そういう貴様もか?」

「ああ。この一帯に来た途端、光の魔力の濃度が急激に強まったのを感じた」

 これだ。この光の魔力の濃度が、私の予想を揺るがぬ確信に変えてくれた。それに、自然では絶対に発生しない、精霊特有の独特な魔力も混ざっている。
 流石は“大精霊”が発する魔力といった所。百年近く経とうとも、衰え切らぬとは。私は物心がつく前から、この地にずっと住んでいたので、それが当然なんだと勝手に思い込み、当時はその異常さに気付くことが出来なかった。

「そう、それだ。しかも、自然由来の物だけじゃない。精霊独特の魔力も感じる。貴様らと入れ替わる形で、光の精霊がここに住み着いてたのだろうか?」

「いや、それは違う。私達は、その精霊と一緒に住んでたんだ」

「む? どういうことだ?」

「それについては、今から説明する。まず、ちょっと私の昔話を聞いてくれ」

 もったいぶる形で話を始めた私は、教会があった場所に一度視線を流し、きょとん顔のアルビスに戻した。

「あれは四、五年前ぐらいだったか。サニーをファートが住んでる神殿に、初めて行かせた時。景色に飽きたサニーが、ものすごく興味深い話をしてくれてたんだ」

「興味深い話。それは何なんだ?」

「最初は、神殿の外見について話が始まった。大きな建物だとか、入口の前に柱が何本も立ってるとか。それで次に、その神殿には偉い人が住んでるという内容になった。もじゃもじゃなヒゲが生えた、神様だとか。背中に白い翼が生えた、天使とかが住んでるという感じでな。で、問題は、その次の話だ」

 結論に迫ろうとも、アルビスは聞く態勢に入っているのか、一言も返してこない。ならば、このまま続けてしまおう。

「次も、神殿に住んでる人の話だったんだけど。その人物というが、精霊でな」

「ほう、精霊。それの何が問題なんだ?」

「当時は何も知らなかったから、サニーの話をただ楽しく聞いてただけだったんだが……。今となっては、なんでサニーがその名前を知ってるんだ? っていう、とてつもなく大問題な内容だ」

「大問題な名前?」

「そう。なんとサニーは、体中ぼーぼー燃えてる人が、イフリート。子供みたいな人が、シルフ。天使みたいに背中に羽が生えてる人が、レムと口にしたんだ」

「な、なんだと!?」

 火と風を司る大精霊の名を、言った瞬間。アルビスの目が大きく見開き、若干の動揺を含んだ声色で返事をしてきた。

「な、何故サニーが、イフリート様とシルフ様の名を知ってるんだ?」

「実は、サニーが言うには、私の家にあった絵本を見て知ったらしいんだ」

「絵本だと? ……ん? 絵本? ……あっ!」

 絵本という単語に、何か覚えがあったらしく。眉間に浅いシワを寄せたアルビスが、表情をハッとさせた。

「確か、貴様の家を全てひっくり返して、一冊の絵本を探してる時があったな。アレか!」

「そうだ。結局、見つからなかったけどな」

「そうだそうだ、思い出したぞ。題名が無い、純白色の絵本を探してたんだったな。その絵本とやらに、イフリート様とシルフ様の名前が……、むっ?」

 四、五年前の記憶が蘇るも、更なる疑問が生まれたようで。アルビスの眉間に、再び浅いシワが寄った。

「ちょっと待て。『レム』殿は、貴様とピース殿を二十年に渡って、世話をしてくれた神父様の名じゃないか。何故その絵本の中に、『レム』殿の名があるんだ?」

「火を司る大精霊『イフリート』様、風を司る大精霊『シルフ』。その中に名前が並んでるってことは、そうことなんだよ。アルビス」

「そういうことって……。土を司る大精霊様は『ノーム』様だろ? 水を司る大精霊様は『ウンディーネ』様。闇を司る大精霊は、代理を務めている『プネラ』。無と時を司る大精霊は『フォスグリア』だとしてだ。残っているのは、氷と光の二つに───。……あっ」

 各属性を司る大精霊の名を羅列し、答えを導き出せたであろうアルビスが、光の魔力が濃く残った教会跡地へ顔を移した。

「……もしかして貴様、光を司る大精霊様が『レム』殿だと、言いたいのか?」

「そうだ。そして、その予想を揺るぎない確信にしてくれる、物的証拠だって一つ持ってる」

 そう自信満々に告げた私は、アルビスに唯一の物的証拠を見せるべく、右手を前に伸ばした。
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