ぶっきらぼう魔女は育てたい

桜乱捕り

文字の大きさ
21 / 343

20話、ゴーレムの墓標

しおりを挟む
「やっと……、収まったか」

 あれから何分経っただろうか。永遠にさえ感じた等間隔で襲ってくる足の痺れを、なんとか耐え凌いだ。

 頭を下げてため息を吐くと、目線の先に、私の体に頬ずりをしているサニーが映り込んだ。声を押し殺す事だけに集中していたせいか、されているのにまったく気が付かなかった。
 無邪気でいるサニーを眺めた後。やや見通しがよくなった花畑に目を移す。下はそよ風に揺れる純白、上は雄大と佇んでいる群青。
 そしてその間には、交じり合う事がない白と青の果てしない境界線が、左右にどこまでも続いている。悪くない景色だ。このまま頭を空っぽにして、黄昏てしまおう。

 気持ちを落ち着かせ、景色と一体になろうとしていた矢先。遠くの前方に、純白の大地にはやたら目立つ線が目に入り込んできた。
 どうも気になってしまい、黄昏る事が出来ないまま、その線が近づいて来るのを待つ私。
 細目で確認出来る距離まで来ると、線は地面が不自然に隆起した上に刺さっている、一本の茶色くて太い枝だと分かった。

 何か意味がありそうな枝だ。何となくであるが、下に何かが埋まっている事を知らせている様な、そんな主張さえ感じる。
 しかも、その枝は一本だけじゃない。奥にも一本。更にその奥にも一本。右側に顔をやってみれば、そちらの方にもちらほらと枝が点在していた。
 目に見える範囲の枝を数えてみたら、おおよそ八本。ゴーレム達が拾う事なく進んでいる所を察するに、なんかしら関与していそうだ。

 ただ地面に刺さっている枝だが、何で刺さっているのか? 一体何の意味があるのか? ゴーレムと何の関係があるのか?
 私の勝手な好奇心が、みるみる内に膨らんでいき、払拭出来ない探求心へと変わっていく。そろそろ答えが知りたくなってきた私は、右横にあるゴーレムの顔に横目を送った。

「ゴーレム、あの地面に刺さってる枝は一体何だ?」

 問い掛けてみたら、ゴーレムは何を思ったのか、頭を軽く下げた。少しの間を置いてから頭を上げると、自分に指を差し、その指を一本の枝へと向ける。
 このゴーレムがおこなった動作は、すぐにピンときた。瞬く間に分かってしまった。そして、あまり分かりたくなかったかもしれない。

「あの枝の下には、ゴーレムが埋まってるのか……」

 サニーに聞こえない程度の声で口にすると、ゴーレムは寂しそうにうなずいた。という事は、あの点在している木の枝は全て、ゴーレムの墓標。

 地面に埋まってしまった原因は、恐らく先ほど私が助けたゴーレムと同じ理由だろう。
 全て花畑の中に刺さっている所を見ると、花の手入れをしている際、地面が陥没していた所に足を踏み入れてしまい、そのまま落下。
 落ちてしまえば誰も助ける事が出来ず、死にゆく事しか出来ない仲間を見届けた後。土で埋め、忘れぬよう木の枝を刺した。これだ、これに違いない。

 しかし、数があまりにも多すぎる。私が来なかった十年以上の間に、何体のゴーレムが陥没した地面に落ちてしまったんだ?
 最後に花畑地帯へ来た時は、少なくとも五十体以上のゴーレムが居た。だが今は、傍に居る五体以外、他の姿が確認出来ていない。
 もしかして、こいつらが最後の生き残りなのだろうか? 聞いてみてどうにかなる訳でもないが、やはり気になってしまう。

「残りは、お前らだけなのか?」

 少し声を低めて言ってみれば、ゴーレムは頷く事無く、顔が項垂れていった。五十体以上居たゴーレム達が、今や五体のみ。
 四十回以上も為す術がなく、不本意な仲間の死を見届け、土で埋め、仲間の存在を忘れぬよう枝を刺す。
 普通の心を持っている者であれば、途中で発狂してしまうだろう。こいつらにも心と意思がある。もしかしたら、感情もあるかもしれないというのに。

「……そうか」

 ゴーレム達に無い期待を持たせぬよう、小声で呟く私。先ほどは生きているゴーレムを助けたが、死んでしまった者を地上に持ってこようとも意味は無い。
 もし私が生き返らせる術を持っていれば、手助けしていたかもしれない。だがそれが出来ずに、八十年以上もの間、大切な彼を生き返らせられないでいる。
 死ぬ運命であった者を助けてしまい、あの枝が意味するものを知ってしまったからなのか。まったく興味を持っていなかった種族に対し、こんな情が芽生えてしまった。

 あの枝が意味するものを、知れてよかったかもしれない。もしサニーと共に来ていなければ、もし何も知らずに独りであの枝を見つけてしまっていたら、何食わぬ顔で持って帰っていただろう。
 ゴーレムが埋まっている事を知らせる枝を、全て。もしかしたら使えるかもしれないという理由で、根こそぎ。彼を生き返らせたいという、私利私欲で。

 そんなの、単なるわがままな墓荒らしじゃないか。

 似た様な行為は数十年に渡って繰り返してきたが、あの枝が意味するものを分かってしまったからには、やらかしていたであろう自分に呆れ返ってくる。

 だが、独りだけでは決して辿り着く事ができなかった答えなのも事実。
 ヴェルインに論され。たまたま生き残りのゴーレムを見つけ。サニーに助けの援助を求められ。助けたゴーレムに連れられて。あの枝に興味を示し、やっと辿り着けた答えだ。
 こんな遠回しな答え合わせ、私独りでは決して辿り着けやしない。逆に言えば、今まで私がしてこなかった遠回りをしてみたら、見落としていた物が沢山見つかるかもしれない。

 焦りは禁物。何事にも興味を示し、その物に対する意味を探り、隠れた答えを導き出していく。
 そうすれば、彼を生き返らせる事が出来る道筋が、自ずと寄って来る可能性だってある。

 今日、花畑地帯に来て本当によかった。とても大切な事を学べた気がする。
 一見意味が無さそうな物も、実は重大な何かが隠されていたり、とんでもない物を秘めているかもしれないのだ。
 やはり、この八十年もの間におこなってきた新薬、魔法の開発を一から改めてみよう。絶対に何かを見落としているはず。

 希望が見えてきた。新薬を作る為の材料がまったくないので、魔法から改めてみよう。私が開発したいのは、大賢者すら成しえる事が出来なかった、禁魔法の一つである時を操る魔法。
 過去に培ってきた歴史すら改変する事が可能が故に、開発している疑いがかけられた瞬間、有無を言わさず死刑になる、もっとも重い禁魔法の一つだ。
 だが私は、過去の歴史なぞには微塵の興味も無い。目的はただ一つ。彼を生き返らせる事のみ。それを成しえる事が出来れば、二度と時魔法を使わないだろう。

 とりあえず今日は、ゴーレムに連れられるがままでいるか。もしかしたらそこに、新たなる発見があるかもしれない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

処理中です...