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27話、復習の時間
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すくすくと育ってきたサニーも、ついに三歳となった。拾ってから数えていた日数は、もう必要ないだろうと思い、途中で数えるのを止めた。
これから数えるのは、歳の数だけでいい。サニーを拾った日である八月七日を跨げば、四歳、五歳と歳を重ねていくのだ。今の私は、それだけを数えていればいい。
歳を取っていけば、サニーはどんどん成長していく。私は、その過程を見守りたくなってきた。もう心のどこかで、サニーの母親になる事を決めているのだろうか?
「……八、九、十。よし、これぐらいでいいか」
「おいレディ。木の葉っぱなんか集めて、何やってんだ?」
箒に跨り、宙に浮いて木の葉を摘んでいると、下から私を呼ぶ声が聞こえてきた。
緑々しい天井から差し込む木漏れ日に目を細めつつ、純白の花まみれになっている地面に顔をやれば、そこには棒立ちしているヴェルインの姿があった。
最初はヴェルインも、沼地帯が一夜にして花畑地帯へ変貌したのを見た時は、度肝を抜かしていたが。今ではすっかりと慣れてしまい、当たり前の光景だとさえ認識している。
「サニーに勉学を教える為の準備をしてるんだ」
「ほ~、勉学ねえ。サニーちゃんも、もうそんな歳になったのか。感慨深いな。いつから始めたんだよ?」
質問を重ねるヴェルインをよそに、私は降下して地面へ降り立ち、乗っていた漆黒色の箒を消す。
「つい最近からだ。まだほんの少しの読み書きと、十までの数字しか教えてない」
つい最近と言っても、教え始めたのは二日前ばかし。サニーは物覚えが非常にいい。十までの数字は三分程度で覚え。
読み書きに至っては、二歳になってから絵を描き続けていたせいか、文字はかなり綺麗だし、一度書いた単語はすぐに己の物にしていった。
葉を持ち直した私が、ゴーレムの前で絵を描いているサニーの元へ歩み出すと、ヴェルインもすぐ横を付いて来る。
「まっ、最初はそんなもんだろ。焦らずゆっくり教えりゃあいいさ。で、今日は葉っぱで何を教えんだ?」
「簡単な足し算だ」
近くまで来ると、サニーは「かけたっ!」と言って画用紙を掲げた。足を忍ばせてサニーの背後に周り、ヴェルインと一緒に画用紙を覗いてみる。
そこには、特徴をよく捉えているゴーレムが一体。体の輪郭を際立たせる為の黒。全身は強弱をつけた茶色と、二色使われている。
描き始めた時に比べると、絵はかなり上達している。私の色は相変わらず二色であるが。そろそろサニーに、六属性の杖を召喚した私の姿を描かせたい。
「見て見て、ゴーレムさんっ!」
満足気でいるサニーがゴーレムに画用紙を見せると、ゴーレムは画用紙に太い指を差した後。その指を自分に向け、首を傾げた。
三歳のサニーでも理解出来るよう、伝えたい気持ちを分かりやすくしている。サニーも分かった様子で、大きく頷いてみせた。
「そうだよ! はいこれ、あげるっ」
そう言ったサニーが、画用紙から器用に紙を切り離し、ぽけっとしてるゴーレムに差し出す。ゴーレムが親指と人差し指で紙を挟むと、紙に描かれている絵を凝視し、無機質な瞳をサニーに向けた。
そして、その行動を何度も繰り返している。行動を言葉で表すと『え、えっ、いいの?』だろうか? 予想を立てるのもいいが、やはりクロフライムのように喋ってくれるとありがたい。
「うんっ、ゴーレムさんのためにかいたんだ。あげるっ」
サニーがもう一度言えば、ゴーレムの瞳がピタリと止まり、両腕を挙げ、何度も肘を曲げては伸ばし始めた。たぶん、相当喜んでいるのだろう。
その喜んでいるゴーレムが直立になると、サニーに深々と礼をし、水鏡の扉がある木に向かって歩き出した。
「持って帰るんだろうが、あの絵はどうやって保管するつもりなんだ?」
「穴でも掘って埋めるんじゃねえの?」
私が思った疑問を口にすると、ヴェルインが素っ気なく反応し、独り言を会話に変える。ゴーレムと穴の組み合わせは危険だ。深く掘り過ぎなければいいが。
水鏡の扉に消えていくゴーレムを見送ると、私は地面に敷いていた布の上に正座をし、持っていた葉を横に置いた。
「サニー」
「なに?」
「勉学の時間だ」
「はいっ!」
この前二人で決めた合図を言えば、サニーはやる気に満ち溢れた表情をしつつ、私の方へ体を向けて正座をする。
ヴェルインの反応が見たくて僅かに横目を送るも、すぐにサニーへ戻した。
「今日は、なにするの?」
「新しい勉学をする。が、その前に復習をするぞ」
復習。今日は足し算を教えるので、一から十の数字を忘れていないか再確認をする。だが、サニーの事だ。しっかりと覚えているだろう。
私は確信しつつ、横に置いた葉を手前に持ってくる。その中から一枚だけ手に取り、サニーの目線の高さまで上げた。
「葉っぱがあるな。これを数えたとしたら、何枚になる?」
「一枚!」
私の出した問題に、すぐさま答えるサニー。ちゃんと覚えている。これなら葉の数を増やしても、難なく答えるだろう。更に葉を二枚追加する。
「これは?」
「三枚!」
先ほどと同じくサニーは即答した。なら、今度は一気に七枚追加してやろう。
「これは?」
「十枚!」
「全部正解だ」
完璧だ。サニーは忘れる事なく全て覚えている。私はどうしてもヴェルインの反応が見たくて、今度は顔ごとヴェルインに向けた。
目線のすぐ先には、口を軽くすぼめて「お~」と感心しているヴェルインの姿。そのまま凝視していると、私の視線に気が付いたのか、ヴェルインは不思議そうでいる右目を私に合わせてきた。
「なんだ?」
「なんでもない」
本当は感想を聞きたかったが、グッと堪え、サニーに顔を戻す。きっとヴェルインも、サニーはかしこいと思っているはず。いや、そうだ。そうに違いない。
なら、サニーがすぐに足し算を覚えれば、ヴェルインは驚愕するだろう。早くサニーに教えてやらねば。そう決めた私は、サニーの左側に二枚の葉っぱを。右側に三枚の葉っぱを置いた。
これから数えるのは、歳の数だけでいい。サニーを拾った日である八月七日を跨げば、四歳、五歳と歳を重ねていくのだ。今の私は、それだけを数えていればいい。
歳を取っていけば、サニーはどんどん成長していく。私は、その過程を見守りたくなってきた。もう心のどこかで、サニーの母親になる事を決めているのだろうか?
「……八、九、十。よし、これぐらいでいいか」
「おいレディ。木の葉っぱなんか集めて、何やってんだ?」
箒に跨り、宙に浮いて木の葉を摘んでいると、下から私を呼ぶ声が聞こえてきた。
緑々しい天井から差し込む木漏れ日に目を細めつつ、純白の花まみれになっている地面に顔をやれば、そこには棒立ちしているヴェルインの姿があった。
最初はヴェルインも、沼地帯が一夜にして花畑地帯へ変貌したのを見た時は、度肝を抜かしていたが。今ではすっかりと慣れてしまい、当たり前の光景だとさえ認識している。
「サニーに勉学を教える為の準備をしてるんだ」
「ほ~、勉学ねえ。サニーちゃんも、もうそんな歳になったのか。感慨深いな。いつから始めたんだよ?」
質問を重ねるヴェルインをよそに、私は降下して地面へ降り立ち、乗っていた漆黒色の箒を消す。
「つい最近からだ。まだほんの少しの読み書きと、十までの数字しか教えてない」
つい最近と言っても、教え始めたのは二日前ばかし。サニーは物覚えが非常にいい。十までの数字は三分程度で覚え。
読み書きに至っては、二歳になってから絵を描き続けていたせいか、文字はかなり綺麗だし、一度書いた単語はすぐに己の物にしていった。
葉を持ち直した私が、ゴーレムの前で絵を描いているサニーの元へ歩み出すと、ヴェルインもすぐ横を付いて来る。
「まっ、最初はそんなもんだろ。焦らずゆっくり教えりゃあいいさ。で、今日は葉っぱで何を教えんだ?」
「簡単な足し算だ」
近くまで来ると、サニーは「かけたっ!」と言って画用紙を掲げた。足を忍ばせてサニーの背後に周り、ヴェルインと一緒に画用紙を覗いてみる。
そこには、特徴をよく捉えているゴーレムが一体。体の輪郭を際立たせる為の黒。全身は強弱をつけた茶色と、二色使われている。
描き始めた時に比べると、絵はかなり上達している。私の色は相変わらず二色であるが。そろそろサニーに、六属性の杖を召喚した私の姿を描かせたい。
「見て見て、ゴーレムさんっ!」
満足気でいるサニーがゴーレムに画用紙を見せると、ゴーレムは画用紙に太い指を差した後。その指を自分に向け、首を傾げた。
三歳のサニーでも理解出来るよう、伝えたい気持ちを分かりやすくしている。サニーも分かった様子で、大きく頷いてみせた。
「そうだよ! はいこれ、あげるっ」
そう言ったサニーが、画用紙から器用に紙を切り離し、ぽけっとしてるゴーレムに差し出す。ゴーレムが親指と人差し指で紙を挟むと、紙に描かれている絵を凝視し、無機質な瞳をサニーに向けた。
そして、その行動を何度も繰り返している。行動を言葉で表すと『え、えっ、いいの?』だろうか? 予想を立てるのもいいが、やはりクロフライムのように喋ってくれるとありがたい。
「うんっ、ゴーレムさんのためにかいたんだ。あげるっ」
サニーがもう一度言えば、ゴーレムの瞳がピタリと止まり、両腕を挙げ、何度も肘を曲げては伸ばし始めた。たぶん、相当喜んでいるのだろう。
その喜んでいるゴーレムが直立になると、サニーに深々と礼をし、水鏡の扉がある木に向かって歩き出した。
「持って帰るんだろうが、あの絵はどうやって保管するつもりなんだ?」
「穴でも掘って埋めるんじゃねえの?」
私が思った疑問を口にすると、ヴェルインが素っ気なく反応し、独り言を会話に変える。ゴーレムと穴の組み合わせは危険だ。深く掘り過ぎなければいいが。
水鏡の扉に消えていくゴーレムを見送ると、私は地面に敷いていた布の上に正座をし、持っていた葉を横に置いた。
「サニー」
「なに?」
「勉学の時間だ」
「はいっ!」
この前二人で決めた合図を言えば、サニーはやる気に満ち溢れた表情をしつつ、私の方へ体を向けて正座をする。
ヴェルインの反応が見たくて僅かに横目を送るも、すぐにサニーへ戻した。
「今日は、なにするの?」
「新しい勉学をする。が、その前に復習をするぞ」
復習。今日は足し算を教えるので、一から十の数字を忘れていないか再確認をする。だが、サニーの事だ。しっかりと覚えているだろう。
私は確信しつつ、横に置いた葉を手前に持ってくる。その中から一枚だけ手に取り、サニーの目線の高さまで上げた。
「葉っぱがあるな。これを数えたとしたら、何枚になる?」
「一枚!」
私の出した問題に、すぐさま答えるサニー。ちゃんと覚えている。これなら葉の数を増やしても、難なく答えるだろう。更に葉を二枚追加する。
「これは?」
「三枚!」
先ほどと同じくサニーは即答した。なら、今度は一気に七枚追加してやろう。
「これは?」
「十枚!」
「全部正解だ」
完璧だ。サニーは忘れる事なく全て覚えている。私はどうしてもヴェルインの反応が見たくて、今度は顔ごとヴェルインに向けた。
目線のすぐ先には、口を軽くすぼめて「お~」と感心しているヴェルインの姿。そのまま凝視していると、私の視線に気が付いたのか、ヴェルインは不思議そうでいる右目を私に合わせてきた。
「なんだ?」
「なんでもない」
本当は感想を聞きたかったが、グッと堪え、サニーに顔を戻す。きっとヴェルインも、サニーはかしこいと思っているはず。いや、そうだ。そうに違いない。
なら、サニーがすぐに足し算を覚えれば、ヴェルインは驚愕するだろう。早くサニーに教えてやらねば。そう決めた私は、サニーの左側に二枚の葉っぱを。右側に三枚の葉っぱを置いた。
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