ぶっきらぼう魔女は育てたい

桜乱捕り

文字の大きさ
284 / 343

279話、笑顔には勝てない

しおりを挟む
「なら、ウィザレナ、レナ。その憎き人間共が、今度は命を賭してお前らを護ると言ったら、どう思う?」

「え?」

 タイミングを見計らい、今まで静観していたベルラザさんが、根拠のありそうな話を切り出し。
 その信じがたい言葉を耳にして、目を丸くさせた二人が、ベルラザさんが居る方へ顔を向けた。
 私の読みは間違っていなかったが……。人間が命を賭して、エルフを護る? 『タート』に、そんな法律や取り組みなんてあっただろうか?

「どういう、意味でしょうか?」

「余らと合流する前の話になるんだが。暇を持て余してたベルラザが、世界の国について色々調べたらしく。たまたま『タート』の法律の一つに、興味を惹く物を見つけたらしいんだ」

「ほ、法律?」

 ベルラザさんが、話を続けるかと思いきや。今度はアルビスが、全てを知っていそうなていで説明し出した。
 やっぱり、あの二人は繋がっていたか。ベルラザさんを引き留めないどころか、誘いを促しているから、それほど信頼出来る説得材料があると見た方がいい。

「そうだ! なんでも『タート』には『希少・絶滅危惧種族守護法』っていう、タート独自の法律があるんだけどな? その名の通り、私みたいな数少ない伝説の存在やら、襲撃に遭い続けて激減したエルフ達を、国に駐在する兵士全員が護ってくれるらしいんだ」

「タートという国が……」
「私達を、護ってくれる……?」

 『希少・絶滅危惧種族守護法』。そんな法律が、タートにあるだなんて。まあ、タートはとんでもない数の法律により、絶対的平和が保たれた国だ。
 その数はあまりにも多く、場合によっては息苦しさを覚えてしまう。私が知っている法律は、前科持ちの冒険者は入国出来なかったり。
 中位の魔法は、国から許可を取らないと使用出来なかったり。国の中で禁止された魔法を使用すると、直ちに牢屋送りになるなどなど。
 気が付いたら新しく追加された法律に抵触していて、危うく御用になりかけるという場面も少なくない。

「しかもだぞ! その『希少・絶滅危惧種族守護法』が適用された者は、タートにある料理屋や宿屋、その他施設が全部無料で使えるらしいんだ。堅固な国が命を賭して護ってくれる中で、やりたい放題出来るんだぞ? 私も正体を明かせば、その法律が私に適用される! だからよ、ウィザレナ、レナ。やりたい放題して来た人間共をこき使いまくって、私と一緒に楽しもうぜ?」

 急に聞こえが悪くなった内容で説得し、改めて二人を誘ったベルラザさんが、口角を雄々しく上げつつ悪どい笑みを浮かべた。要は、殺すことが出来ない人間を、奴隷みたいに扱ってやろうと。
 とんでもない誘いだが……。ベルラザさん、ウィザレナ、レナ。この三人には、それらをすることが許されて、実行する権利を持っている。
 ただ、本当に聞こえが悪い。ベルラザさんのことだし。街中で暴れたり、度を越えた悪態をついたりは、流石にしないだろうけれども。ウィザレナ達は、どう出るかな?

「……ど、どうする? レナ」
「面白そうではあるけど、なんだか気が引けるよね……?」

 戸惑い気味のウィザレナが、レナに耳打ちをし。若干乗り気であるものの、後々苛まれるであろう良心の呵責が頭に過り、誘いに乗る決断が出来ないレナ。
 これは、ベルラザさんの誘い方に問題がある。あれだと、悪者になって暴れてやろうぜと言っているようなものだ。ここは少し、私も突っついてみたほうがいいかな?

「あの、ベルラザさん。人間をこき使うって、具体的に何をやらせるつもりなんですか?」

「そうだな~。頼んだ料理をテーブルまで持って来させたり、泊まった部屋を綺麗に掃除させるつもりだ」

「あっ、そうなんですね」

 挙手をして質問してみたけど、なんだ。蓋を開けてみれば、至って普通な内容だった。いや、待てよ? 別の捉え方をしてみればだ。
 ウィザレナとレナは、店を経営している人達が、客に対してどういう振る舞い方をするかなんて、たぶんまったく知らないはず。
 だからこそ、普通の接客対応を大袈裟に表現して、こき使わせている風に思い込ませようとしているんだろうな。

「えっと……? つまり、人間共を私達の執事にさせるという感じでしょうか?」

「おおっ、それそれ! それが言いたかったんだ」

「普段余がやってることを、代わりに人間にさせるんだ。どうだ? 二人共。それぐらいだったら構わんだろう?」

「な、なるほど」

 内容の程度と悪さを柔らかくさせ、低く下げた途端。戸惑っていたウィザレナが、それならという様子の返しをした。
 心底憎んでいるけど、心優しいゆえに殺せない。しかし、奴隷の如くこき使わせるのも気が引ける。ならば、アルビスが普段やっている仕事を、人間にさせてしまおうと。
 そこまで程度を下げないと、二人は乗り気になってくれないんだな。ほんと、優しいにも程がある。なんだか、変に罪悪感が生まれてきてしまった。
 けど、決心したのか。ウィザレナとレナが顔を見合わせ、黙ったままうなずいた後。二人して、サニーの耳から手を離した。

「サニー殿。私とレナは、人間に対して高圧的な態度になってしまうが……。それでも、タートに行って構わないか?」

「高圧的って、どんな感じですか?」

「えと……、その、だな? こう、怒ってるというか、明らかに不機嫌な言動になると言えば、いいか!? アカシック殿?」

 自信が無さそうに説明し始めるも、助けを求めるように、顔をバッと私に移すウィザレナ。

「まあ、大体合ってると思うぞ」

「だそうだ! サニー殿」

「ウィザレナさんとレナさんは、タートに行くと怒っちゃうんですか?」

「ち、違うんです。サニー様! タートに行くだけでは怒りません! むしろ、楽しめると思います。ですが、人間と話そうとすると、私達はぷんぷんしてしまうんです」

 サニーの悪意無き追い込み質問攻めが、二人を死に物狂いで弁解させている。興味本位というか、純粋に知りたいだけで質問してしまうのが、サニーの怖い所でもあるのかな?

「だったら、大丈夫ですよ!」

 そう断言したサニーが、闇夜を眩しく照らすような笑顔を、二人に見せつけた。

「タートにいる人は全員良い人達なので、ウィザレナさんとレナさんは怒らないと思います!」

「うっ……!」
「んっ……!」

 禁断魔法級の威力がありそうな、サニーの強烈過ぎる一言に、ウィザレナとレナの表情が固く強張り、噤んだ口を一文字にさせた。
 来れば分かるといった、根拠なんてまるでなく、全ての恨みや葛藤を度外視した言いくるめよ。今の二人にとって、相当効いただろうな。
 その証拠に、二人は両手を布に突き、小刻みに震えたこうべを悲しく垂れ下げている。完全に詰みだ。これでもう、二人はタートへ行かざるを得なくなってしまった。

「……そ、そうか。なら、一回、タートに行ってみるぞ……」
「さ、サニー様に、そこまで言われたら、仕方ありましぇん……。が、頑張り、ましゅ……」

「本当ですか!? やったー! 一緒に楽しみましょうねっ!」
 
 とうとう心が折れた二人へ、弾けた満面の笑みを送り、両手を大きく上げてバンザイするサニー。……流石にちょっと、二人が可哀想になってきたな。

「あのー、我も行かないと駄目なんですか?」
「あたしも行かないと、ダメなんでしょうか?」

 いつの間にか起きていたファートと、人間の前には滅多に姿を現さない精霊のフローガンズが、控え気味に挙手をしながら問う。

「そうだ! でもお前らは、誰かに変身魔法を掛けてもらって、姿を変えてくれな」

「あっ……。はい、分かりました……」
「有無を言わさず、なんですね……」

 元より行かない選択肢なぞ無いと一蹴された二人が、顔をゆっくり見合わせ、諦めの表情を見せた顔をカクンと垂らした。
 ヴェルインとカッシェさんは、特に異論は無いらしく。落ち込んだファートとフローガンズに、同情を含んでいそうな苦笑いをしている。
 これで本当に、全員がタートへ行くことになってしまった。実現しないとばかり思っていたから、少々驚いている自分が居る。
 けど、ウィザレナとレナに関しては、あまり無視出来ない強引さがあったのも事実。……仕方ない。解散したら、後でウィザレナ達の家に行って、二人に謝っておこう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

処理中です...