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292話、エルフと人間が交友関係を築く、第一歩の出会い
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「あのねあのね、サニーちゃん! サニーちゃんのお母さんってすごいんだよ! 指をパチンって鳴らしたら、すっごくきれいで温かい光が出てきて、地面にぶつけて痛くなった足を治してくれたんだ!」
ヒロ君が、興奮しながら当時の出来事を話し出すや否や。サニーが、バッと私の方へ振り向いてきては、ギンギンに輝いた嬉しそうな眼差しで私を見つめ、ヒロ君の方へ戻した。
「そうだよ。私のお母さんは、すごくて優しいんだ!」
どこか誇らしげに語り、腰に両手を当てつつ、鼻を『ふんす』と鳴らすサニー。ちょっと得意気になって、ふんぞり返っているサニーよ。また違った可愛さがある。
「うん! サニーちゃんのお母さんは、すっごく優しくてすごい魔女だよ! サニーちゃんがうらやましいな」
裏表が無いヒロ君の真っ直ぐな感想とべた褒めに、サニーの感情が爆発寸前になったらしく。
私の方へゆっくり合わせてきたサニーの顔は、頬が真っ赤に染まり、口は波が打ったようにプルプルに震えていて、目には薄っすらと涙が溜まっていた。
好印象な私の感想を初めて他者から貰い、相当嬉しくなっているんだろうな。私も私で、嬉しくなっているものの。心がむず痒くなるような恥ずかしさの方が、若干勝っている。
「それで、アカシックお姉ちゃんは、これから買い物しに行くの?」
「いや。今日は買い物目的で来た訳じゃなく、仲間と一緒に食事や寝泊まりをしに来た感じかな」
「仲間と……、あっ!」
ここへ来た目的を簡潔に伝え、ヒロ君の視線が私から外れた直後。目と口が驚いた様子で大きく開き、何度も私の顔と、私の両隣に居る人物を見返し始め。
それと同時。両隣から言い知れぬ圧を感じ出し、私を押し潰すが如く分厚くなっていった。現在、私の両隣に居るのは、ウィザレナとレナだ。
もしかして、周りに注目が行ってしまう説明をヒロ君にしてしまい、見つかった二人が私に怒っているのかな?
……あ、たぶん間違いない。恐る恐る横目を左右へ流してみたら、とんでもなく不機嫌そうで、私を睨みつけている二人と目が合ってしまった。
「……す、すまない、二人共。謝るから、そんなに怒らないでくれ……」
「別に、アカシック殿に対して怒ってる訳じゃない。アカシック殿を褒めた人間に嫌悪感を抱いた自分に、苛立っているんだ」
「ウィザレナに同じく」
「あ、そうなのか……」
私を褒めてくれた人間に嫌悪感を抱いた自分が、許せないと。衛兵さんの時も、そうだったが。私と関りを持つ人間には、多少なりとも友好的に接してくれている傾向がある。
だからこそ二人は、率先して衛兵さんに名前を名乗ってくれた。これ、二人が人間と交流関係を築く為の、糸口に使えないかな? っと、その前にだ。興奮し始めたヒロ君を、なだめてあげないと。
「すまない、ヒロ君。あまり大声を出すと二人が驚いてしまうから、小声で喋って欲しいな」
「あっ、ごめんなさい! ……わぁ、本物のエルフさんだ」
やんわりと忠告すると、ヒロ君は私の忠告通り小声で謝ってきて、キラキラに輝いた眼差しで二人を見返していく。
危なかった。遅かれ早かれ、エルフがタートに来た噂は街中に広がっていくだろう。けど今は、まだ悪目立ちするのを極力避けたい。
まず二人には、私と関りを持つ人と接してもらい、人間に対して抱いた恨みや憎悪を薄れさせるのが先決だ。
「……あの、アカシック様。やはりここは穏便に済ませた方が、よろしいですよね?」
「無理はしなくていい。厳しそうだったら、私に言ってくれ」
「は、はい。分かりました」
「なるべく、私も精進してみる」
レナの止むを得ない確認を追う、ウィザレナの前向きな姿勢よ。二人共、努力しようとしてくれているらしい。嬉しい反面、強い申し訳なさも湧いてくる。
「……よし。私から行こう」
どこか気合を入れて覚悟を決めたウィザレナが、一歩前へ出ては腕を組み、ヒロ君を見下した。
「ウィザレナだ。少年、エルフを見るのは初めてか?」
「お、おおっ!?」
何を言い出すかと思いきや。あのウィザレナが、普段と変わりない落ち着いた口調で、人間に自ら声を掛けた!?
「わっ、あ……。は、はい。初めて見ました」
「そうか。私を見て、どう思った?」
「えと、その、すてきできれいで、カッコいいと思いました!」
エルフと会話を交えることが出来て、相当嬉しがっているようで。小声ながらも、ヒロ君は両腕をブンブン上下に激しく動かしている。
「なるほど、子供にしては良い言葉選びだ。感謝の意を伝える」
「初めまして、レナです」
ウィザレナとヒロ君の会話に、一段落がついた所を見計らい、私の前から一歩出たレナも、おしとやかに自己紹介をした。
……二人共。荒波を立てまいと、頑張って人間と交流を図ろうとしてくれている。あのやり取りを見て、全身が小刻みに震えるほど感動してしまった。
「れ、レナさんっ! 声が、すごくきれい……」
「そうですか、ありがとうございます」
「あ、あのっ。ウィザレナさんとレナさんは、姉妹なんですか?」
「私とレナが……」
「姉妹……」
ヒロ君のよそよそしい質問に、二人は真顔を見合わせた。二人が姉妹だと思われるのは、無理も無い。ユニコーン姿だったレナの要望に応え、ウィザレナと瓜二つな姿に変身させたからな。
二人が見つめ合ってから、数秒後。両者の口元が若干上がり、ヒロ君の方へ顔を戻した。
「ああ、そうだ。御覧の通り、私達は姉妹だ」
「ウィザレナが姉で、私が妹になります」
「や、やっぱり! あのあの! ウィザレナさんとレナさんは、タートに何しに来たんですか?」
サニー並みに好奇心旺盛となったヒロ君が、どんどん質問を続けていく。質問攻めに合っている二人は、真顔を保ったままで、特に不快な気持ちにはなっていなさそうだ。
「仲間達に勧められて、観光しに来た」
「タートは他種族間の壁が無く、どの種族にも寛容に接してくれると聞きました。この街の人達は、私達エルフにも同等に接してくれるのでしょうか?」
ウィザレナが目的を伝え、レナがヒロ君に質問を返した。受け答えの分担、話を切り替えるタイミングが、どれも素晴らしい。相手が幼い子供でも、安心して見ていられる。
「えっと……。ぼくみたいに最初はビックリしちゃうかもですが、街の人は全員やさしいので、大丈夫だと思います」
「そうですか。それを聞けて安心しました」
「ふむ。サニー殿と同じことを言うか」
ウィザレナの思い返しの呟きに、私の視界がやや広まった。そういえば、サニーも二人をタートへ誘っている最中、ほぼ同じことを言っていたっけ。
「……あの、ウィザレナさん、レナさん。もしよかったら、握手してください!」
「握手?」
……ヒロ君? それは、ちょっと大胆で危ないお願いじゃないか? だがしかし、再び顔を見合わせた二人は、真顔というよりも、呆気に取られたきょとん顔をしている。
いや。すぐさまほくそ笑んで、ウィザレナが「どうして人間は、こうもエルフと握手をしたがるんだろうな」と呆れた様子で口にし、ヒロ君に手を差し伸べた。
「ほら、握手ぐらいなら構わん」
「わぁっ……、ありがとうございます!」
「私ともどうぞ」
「レナさんも、ありがとうございます!」
二人に差し伸べられた手を、無邪気な笑顔で握り、握手を交わしていくヒロ君。……すごい、すごいぞ。人間に深い恨みを抱いていたウィザレナとレナが、私やサニー以外の人間と、握手を交わしている。
本当に、握手をしているんだよな? あまりにも信じがたい光景に、疑り深くなった目を、ただただ瞬きさせることしか出来ない。
「あの、ウィザレナさん、レナさん。タートはすごくいい街なので、エルフさんもいっぱい楽しめると思います!」
「そうだな。君の言葉には、説得力と安心感があった。少年……、いや、ヒロ殿。君の言葉を信じてみよう」
「またどこかでお会いしましたら、お話しましょうね」
「はい! それじゃあ、気をつけて行ってらっしゃい!」
そう、満面の笑みで二人に気を遣ったヒロ君が、大きく手を振りながら駆けて行き、街中を行き交う人混みに溶け込んでいった。
二人共、急にどうしたんだろう? 握手を交わしてから、ヒロ君に対する態度が急激に和らいで、かなり親しく接していたようにも感じるが。
「二人共、大丈夫か?」
「まったく以って問題無いし、むしろ懐かしい気分に浸れたぞ」
「懐かしい気分?」
私がそっくりそのまま返すと、ウィザレナ達はどこか慈愛に満ちた優しい表情を見せてきた。
「私の里で、サニー殿を安心させたいという理由で、アカシック殿が私に握手を求めてきただろう? その時のことを思い出してたんだ」
「ゔっ……!? そ、そういえば、そんなことを言ってたな。私……」
そうだ、そうだった。ウィザレナに対して感じていた、サニーの恐怖心を取り除いてやりたいという理由だけで、軽はずみなお願いをしていたっけ。
「それで、ヒロ殿と握手をした時。サニー殿の手からも感じた、穏やかな温もりを感じてな。だからこそ、ヒロ殿もサニー殿と同じなんだなと思えて、ヒロ殿の言葉を信用出来るようになれたんだ」
「な、なるほど」
言動や温もりがサニーと一致していたことにより、ヒロ君とサニーが同じなんだという考えに至り、ヒロ君を信用出来るようになれたと。
ヒロ君との出会いが、私達との出会いと重なって感じたのだろうか? どちらにせよ、私達以外の人間と交友関係を築けただけで、ものすごく嬉しい気持ちになれてしまった。
よかった。今日、ヒロ君と再会出来て。再会しないまま街中に行っていたら、ウィザレナの人間に対する気持ちが変わらなかったかもしれない。
「あっ! そういえば私、サニー様とまだ握手してない!」
ウィザレナの近い過去話を聞き、不意に珍しく声を荒げるレナ。
「あれ? そうだったか?」
「そうだよ! あの時は、まだ手が蹄だったから出来なかったもん! だから、サニー様。今すぐ私と握手して下さい!」
ウィザレナだけズルいと口を尖らせ、躍起気味になったレナが、目をパチクリとさせていたサニーに両手を伸ばした。
「はい。いいですよ!」
レナのワガママに応えるべく、すぐさま笑顔で了承したサニーが、レナの両手を包み込むように握り締め、ゆっくりと上下に振っていく。
包み込まれた手を振られていく回数が、増えていく度。いじけていたレナの口角が、だんだん上がっていき。二十往復以上過ぎると、満足したのかニンマリとした満面の笑みになっていた。
「ありがとうございます、サニー様! やったよ、ウィザレナ! 私もサニー様と握手が出来たよ!」
「ふふっ。よかったな、レナ」
「うんっ!」
ウィザレナと同じ姿になれて、同じことを出来て喜びが爆発したレナの頭に、そっと手を添えたウィザレナが優しく撫で始めた。
ヒロ君の言う通り、本当に仲が良い姉妹に見えるな。今度、ヒロ君とお母さんに会った時、このことをしっかり伝えておかなければ。
ヒロ君のお陰で、エルフと人間の間に、友好的な関係が築ける切っ掛けが生まれたかもしれないとな。
ヒロ君が、興奮しながら当時の出来事を話し出すや否や。サニーが、バッと私の方へ振り向いてきては、ギンギンに輝いた嬉しそうな眼差しで私を見つめ、ヒロ君の方へ戻した。
「そうだよ。私のお母さんは、すごくて優しいんだ!」
どこか誇らしげに語り、腰に両手を当てつつ、鼻を『ふんす』と鳴らすサニー。ちょっと得意気になって、ふんぞり返っているサニーよ。また違った可愛さがある。
「うん! サニーちゃんのお母さんは、すっごく優しくてすごい魔女だよ! サニーちゃんがうらやましいな」
裏表が無いヒロ君の真っ直ぐな感想とべた褒めに、サニーの感情が爆発寸前になったらしく。
私の方へゆっくり合わせてきたサニーの顔は、頬が真っ赤に染まり、口は波が打ったようにプルプルに震えていて、目には薄っすらと涙が溜まっていた。
好印象な私の感想を初めて他者から貰い、相当嬉しくなっているんだろうな。私も私で、嬉しくなっているものの。心がむず痒くなるような恥ずかしさの方が、若干勝っている。
「それで、アカシックお姉ちゃんは、これから買い物しに行くの?」
「いや。今日は買い物目的で来た訳じゃなく、仲間と一緒に食事や寝泊まりをしに来た感じかな」
「仲間と……、あっ!」
ここへ来た目的を簡潔に伝え、ヒロ君の視線が私から外れた直後。目と口が驚いた様子で大きく開き、何度も私の顔と、私の両隣に居る人物を見返し始め。
それと同時。両隣から言い知れぬ圧を感じ出し、私を押し潰すが如く分厚くなっていった。現在、私の両隣に居るのは、ウィザレナとレナだ。
もしかして、周りに注目が行ってしまう説明をヒロ君にしてしまい、見つかった二人が私に怒っているのかな?
……あ、たぶん間違いない。恐る恐る横目を左右へ流してみたら、とんでもなく不機嫌そうで、私を睨みつけている二人と目が合ってしまった。
「……す、すまない、二人共。謝るから、そんなに怒らないでくれ……」
「別に、アカシック殿に対して怒ってる訳じゃない。アカシック殿を褒めた人間に嫌悪感を抱いた自分に、苛立っているんだ」
「ウィザレナに同じく」
「あ、そうなのか……」
私を褒めてくれた人間に嫌悪感を抱いた自分が、許せないと。衛兵さんの時も、そうだったが。私と関りを持つ人間には、多少なりとも友好的に接してくれている傾向がある。
だからこそ二人は、率先して衛兵さんに名前を名乗ってくれた。これ、二人が人間と交流関係を築く為の、糸口に使えないかな? っと、その前にだ。興奮し始めたヒロ君を、なだめてあげないと。
「すまない、ヒロ君。あまり大声を出すと二人が驚いてしまうから、小声で喋って欲しいな」
「あっ、ごめんなさい! ……わぁ、本物のエルフさんだ」
やんわりと忠告すると、ヒロ君は私の忠告通り小声で謝ってきて、キラキラに輝いた眼差しで二人を見返していく。
危なかった。遅かれ早かれ、エルフがタートに来た噂は街中に広がっていくだろう。けど今は、まだ悪目立ちするのを極力避けたい。
まず二人には、私と関りを持つ人と接してもらい、人間に対して抱いた恨みや憎悪を薄れさせるのが先決だ。
「……あの、アカシック様。やはりここは穏便に済ませた方が、よろしいですよね?」
「無理はしなくていい。厳しそうだったら、私に言ってくれ」
「は、はい。分かりました」
「なるべく、私も精進してみる」
レナの止むを得ない確認を追う、ウィザレナの前向きな姿勢よ。二人共、努力しようとしてくれているらしい。嬉しい反面、強い申し訳なさも湧いてくる。
「……よし。私から行こう」
どこか気合を入れて覚悟を決めたウィザレナが、一歩前へ出ては腕を組み、ヒロ君を見下した。
「ウィザレナだ。少年、エルフを見るのは初めてか?」
「お、おおっ!?」
何を言い出すかと思いきや。あのウィザレナが、普段と変わりない落ち着いた口調で、人間に自ら声を掛けた!?
「わっ、あ……。は、はい。初めて見ました」
「そうか。私を見て、どう思った?」
「えと、その、すてきできれいで、カッコいいと思いました!」
エルフと会話を交えることが出来て、相当嬉しがっているようで。小声ながらも、ヒロ君は両腕をブンブン上下に激しく動かしている。
「なるほど、子供にしては良い言葉選びだ。感謝の意を伝える」
「初めまして、レナです」
ウィザレナとヒロ君の会話に、一段落がついた所を見計らい、私の前から一歩出たレナも、おしとやかに自己紹介をした。
……二人共。荒波を立てまいと、頑張って人間と交流を図ろうとしてくれている。あのやり取りを見て、全身が小刻みに震えるほど感動してしまった。
「れ、レナさんっ! 声が、すごくきれい……」
「そうですか、ありがとうございます」
「あ、あのっ。ウィザレナさんとレナさんは、姉妹なんですか?」
「私とレナが……」
「姉妹……」
ヒロ君のよそよそしい質問に、二人は真顔を見合わせた。二人が姉妹だと思われるのは、無理も無い。ユニコーン姿だったレナの要望に応え、ウィザレナと瓜二つな姿に変身させたからな。
二人が見つめ合ってから、数秒後。両者の口元が若干上がり、ヒロ君の方へ顔を戻した。
「ああ、そうだ。御覧の通り、私達は姉妹だ」
「ウィザレナが姉で、私が妹になります」
「や、やっぱり! あのあの! ウィザレナさんとレナさんは、タートに何しに来たんですか?」
サニー並みに好奇心旺盛となったヒロ君が、どんどん質問を続けていく。質問攻めに合っている二人は、真顔を保ったままで、特に不快な気持ちにはなっていなさそうだ。
「仲間達に勧められて、観光しに来た」
「タートは他種族間の壁が無く、どの種族にも寛容に接してくれると聞きました。この街の人達は、私達エルフにも同等に接してくれるのでしょうか?」
ウィザレナが目的を伝え、レナがヒロ君に質問を返した。受け答えの分担、話を切り替えるタイミングが、どれも素晴らしい。相手が幼い子供でも、安心して見ていられる。
「えっと……。ぼくみたいに最初はビックリしちゃうかもですが、街の人は全員やさしいので、大丈夫だと思います」
「そうですか。それを聞けて安心しました」
「ふむ。サニー殿と同じことを言うか」
ウィザレナの思い返しの呟きに、私の視界がやや広まった。そういえば、サニーも二人をタートへ誘っている最中、ほぼ同じことを言っていたっけ。
「……あの、ウィザレナさん、レナさん。もしよかったら、握手してください!」
「握手?」
……ヒロ君? それは、ちょっと大胆で危ないお願いじゃないか? だがしかし、再び顔を見合わせた二人は、真顔というよりも、呆気に取られたきょとん顔をしている。
いや。すぐさまほくそ笑んで、ウィザレナが「どうして人間は、こうもエルフと握手をしたがるんだろうな」と呆れた様子で口にし、ヒロ君に手を差し伸べた。
「ほら、握手ぐらいなら構わん」
「わぁっ……、ありがとうございます!」
「私ともどうぞ」
「レナさんも、ありがとうございます!」
二人に差し伸べられた手を、無邪気な笑顔で握り、握手を交わしていくヒロ君。……すごい、すごいぞ。人間に深い恨みを抱いていたウィザレナとレナが、私やサニー以外の人間と、握手を交わしている。
本当に、握手をしているんだよな? あまりにも信じがたい光景に、疑り深くなった目を、ただただ瞬きさせることしか出来ない。
「あの、ウィザレナさん、レナさん。タートはすごくいい街なので、エルフさんもいっぱい楽しめると思います!」
「そうだな。君の言葉には、説得力と安心感があった。少年……、いや、ヒロ殿。君の言葉を信じてみよう」
「またどこかでお会いしましたら、お話しましょうね」
「はい! それじゃあ、気をつけて行ってらっしゃい!」
そう、満面の笑みで二人に気を遣ったヒロ君が、大きく手を振りながら駆けて行き、街中を行き交う人混みに溶け込んでいった。
二人共、急にどうしたんだろう? 握手を交わしてから、ヒロ君に対する態度が急激に和らいで、かなり親しく接していたようにも感じるが。
「二人共、大丈夫か?」
「まったく以って問題無いし、むしろ懐かしい気分に浸れたぞ」
「懐かしい気分?」
私がそっくりそのまま返すと、ウィザレナ達はどこか慈愛に満ちた優しい表情を見せてきた。
「私の里で、サニー殿を安心させたいという理由で、アカシック殿が私に握手を求めてきただろう? その時のことを思い出してたんだ」
「ゔっ……!? そ、そういえば、そんなことを言ってたな。私……」
そうだ、そうだった。ウィザレナに対して感じていた、サニーの恐怖心を取り除いてやりたいという理由だけで、軽はずみなお願いをしていたっけ。
「それで、ヒロ殿と握手をした時。サニー殿の手からも感じた、穏やかな温もりを感じてな。だからこそ、ヒロ殿もサニー殿と同じなんだなと思えて、ヒロ殿の言葉を信用出来るようになれたんだ」
「な、なるほど」
言動や温もりがサニーと一致していたことにより、ヒロ君とサニーが同じなんだという考えに至り、ヒロ君を信用出来るようになれたと。
ヒロ君との出会いが、私達との出会いと重なって感じたのだろうか? どちらにせよ、私達以外の人間と交友関係を築けただけで、ものすごく嬉しい気持ちになれてしまった。
よかった。今日、ヒロ君と再会出来て。再会しないまま街中に行っていたら、ウィザレナの人間に対する気持ちが変わらなかったかもしれない。
「あっ! そういえば私、サニー様とまだ握手してない!」
ウィザレナの近い過去話を聞き、不意に珍しく声を荒げるレナ。
「あれ? そうだったか?」
「そうだよ! あの時は、まだ手が蹄だったから出来なかったもん! だから、サニー様。今すぐ私と握手して下さい!」
ウィザレナだけズルいと口を尖らせ、躍起気味になったレナが、目をパチクリとさせていたサニーに両手を伸ばした。
「はい。いいですよ!」
レナのワガママに応えるべく、すぐさま笑顔で了承したサニーが、レナの両手を包み込むように握り締め、ゆっくりと上下に振っていく。
包み込まれた手を振られていく回数が、増えていく度。いじけていたレナの口角が、だんだん上がっていき。二十往復以上過ぎると、満足したのかニンマリとした満面の笑みになっていた。
「ありがとうございます、サニー様! やったよ、ウィザレナ! 私もサニー様と握手が出来たよ!」
「ふふっ。よかったな、レナ」
「うんっ!」
ウィザレナと同じ姿になれて、同じことを出来て喜びが爆発したレナの頭に、そっと手を添えたウィザレナが優しく撫で始めた。
ヒロ君の言う通り、本当に仲が良い姉妹に見えるな。今度、ヒロ君とお母さんに会った時、このことをしっかり伝えておかなければ。
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