ぶっきらぼう魔女は育てたい

桜乱捕り

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294話、みんなと対等に

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「ここが、大食堂の店内か」

 先に入店した大精霊達の背中を追い、私達も店内へ入る。複雑だけど食欲を大いに刺激する匂いを感じつつ、辺りを見渡してみた。
 席は、客が沢山座れる長テーブル。落ち着いた空間に身を置けそうな、仕切りが設けられた席。一人用の席もあれば、二人だけ座れる小柄な席も伺える。
 環境音も、そう。様々な方角から飛んで来る談笑。食器類のカチャカチャと鳴る音。料理を作っているようで、何かを焼いているような音も耳に届く。

 そして、鼻で呼吸をする度に、まったく異なった料理の匂いがするんだ。ガツンと来る香ばしい肉類。その匂いを打ち消す、サッパリとした果物類。どこか心安らぐ、深呼吸したくなる汁物類。
 入口に立っているだけで、頭の中に何十種類もの料理が浮かんできて、メニューを確認する前から、あれやこれやと食べたくなってきてしまい……。際限無く湧いてくる食欲が、大渋滞を起こしている。
 これが、料理屋の魅惑。今、私は何が食べたいのかまったく分からない状況だけど、もう既に胸が弾むほど楽しい。

「うわぁ~、すっごく良い匂いがする!」

 どうやらサニーも、店内を満たす匂いを堪能したようで。絶えぬ環境音に、子供さながらなワンパクさを足していく。

「そうだな。美味しそうな匂いが多くて、食べたい物がどんどん変わっていく」

「ほう、これが食堂とやらか。確かに、匂いの誘惑が強いな」

「多種族御用達あってか、本当に色んな種族が居るな。やべ、あの魚料理美味そう」

「いらっしゃいませー!」

 ベルラザさんの着目した感想と、視覚から得た情報で私と同じように、食欲が移り変わっていく最中。すぐ近くで、喧騒を跳ね除けん通った声がしたので、視線をそちらへ向ける。
 移した視線の先。頭に白い三角布を身に付け、紺色の前掛けを身に纏った店員らしき人物が、好印象を与える笑顔をしながら立っていた。

「お客様、何名様でしょうか?」

「二十人居ますが、大丈夫でしょうか?」

 店員の問い掛けに、アルビスが質問を重ねて問い返す。

「二十人ですね。はい、大丈夫ですよ! 案内致しますので、こちらへどうぞ!」

 気持ちよく即答してくれた店員が、奥へ手をかざしてから歩み始めたので、見失わないよう言われたまま足を動かした。

「ふ~ん。少しぐらい待たされると思ったのに。いきなり大人数が押しかけても、すぐ案内されるんだな」

「あの人と目が合ったけど、特に驚いた様子はなかったな」

「そうだね。皆と同じ対応をされたから、ちょっと嬉しくなっちゃったや」

 ウィザレナとレナの会話に、内心なるほどと思ってしまった。そういえば、城門に衛兵さん。タートに入り、すぐ出会ったヒロ君。
 共にエルフ族を目にするや否や。職務を忘れるほど度肝を抜かしたり、目を輝かせて興奮していたのに対し。
 レナの言う通り。あの店員は、エルフという種族に目や意識を奪われることなく、表情や声色だって一切崩さず、私達と同じ様に扱って店の奥へと導いていた。

「タートに来てから、初めてだったな。特に目立った反応をされなかったのは」

「そうだな。あの店員とやらと目が合った時、少々身構えてしまったんだが。レナの言ってた通り、皆と対等に扱われたから、私も内心嬉しくなってたぞ」

「いいなー、二人共。私は図体がでかいから、ここだと狭くて元の姿になれねえぜ」

 裏表隠さず、ウィザレナ達を羨ましがったベルラザさんが、口を尖らせながら文句を垂らし、後頭部に両手を回し。同情したウィザレナとレナが、気まずそうに苦笑いを浮かべる。

「そういえばベルラザさんは、昔は何を食べてたんですか?」

 話題を逸らす意味も込めて、前から気になっていたことを質問すると、ベルラザさんの視線が天井へと仰いだ。

「ああ~、昔は飲み食いなんてまったくしてなかったぞ」

「あ、そうなんですか?」

「ああ。喉が渇いたり腹が減るなんて、一度も無かったからな。まっ。今じゃ料理の味を覚えちまったから、飲まず食わずなんてまず到底無理だぜ」

「な、なるほどです」

 雄々しく口角を上げたベルラザさんの言葉に説得力を生まんと、ベルラザさんのお腹から『くぅ』という腹の虫がなった。
 不死鳥フェニックスって、飲み食いしなくても大丈夫なんだ。初めて知ったから、素直に驚いてしまった。

「ベルラザさん。ちゃんとご飯を食べてお水を飲まないと、ダメですよ」

 ベルラザさんの食事事情を聞き、心配になったのか。近くに居たサニーが、生き物にとって最もな意見を述べて叱った。

「おう! 今日は腹が膨れるぐらい、しっかり食うつもりでいるぞ」

「本当ですか? ちゃんと見張ってますからねっ」

「ああ~、もうっ。ほんっと優しい奴だなぁ、サニーは。よし、抱っこしてやるからこっちに来い! 近くに居た方が、私を見張りやすくなるだろ?」

「そうですね。それじゃあ、お願いします!」

 サニー? 嬉しそうな顔をしながら、ベルラザさんの胸元に飛び込んでいったけど。それが本当の目的だろう? ここ最近、甘えたいからってだんだん策士になってきたな。
 手持ち無沙汰なアルビスも、プネラを呼んでそっと抱え込んだ頃。例の部屋に着いたらしく、歩みを止めた店員がこちら側へ向き、左側にある両扉に手をかざした。

「こちらになります。各自、空いた席にお座り下さい! 今、お冷をお持ちします!」

 ハキハキとした声で説明を終えた店員が、丁寧にお辞儀をし。私達の横を通り過ぎ、来た道を戻っていった。

「お冷?」

「それなら、屋敷で余も提供してたから知ってるぞ。水だ」

「えっ、水? まだ誰も注文してないけど……」

「一種の奉仕みたいな物だ。店の好意として受け取っておけばいい」

 ここぞとばかりに補足を挟んだアルビスが、凛とほくそ笑み、案内された部屋に入っていく。奉仕ってことは、こういう飲食店は、どこも提供してくれるのだろうか?
 しかし、持って来るといったお冷とやらは、総数にして二十人分。ここに持って来るだけで、まあまあな労力を要しそうだけれども。手伝った方がいいよな?

「おい、アカシック? お前、どこに行くつもりなんだ?」

 後続を避け、私も店員を追おうとするも。ベルラザさんに呼ばれたので、後ろに振り向いた。

「あの店員の手伝いをしようと思いまして」

「手伝い~? いいんだよ、お前はしなくて。逆に店側が困るから、早く部屋に入れ」

「でも、大変そうですし……」

「店っていうのは、そういうもんなんだよ。いいから、早くこっちに来い」

「は、はぁ、分かりました」

 何度も手招きしてくるベルラザさんに負け、仕方なく体ごと振り返らせ、渋々とベルラザさんの背中に付いた。
 いいのかな? 本当に手伝わなくて。それとも、私が飲食店について無知過ぎるだけなのだろうか? 本当に分からないから、席に付いたらベルラザさんに聞いてみよう。
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