ぶっきらぼう魔女は育てたい

桜乱捕り

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298話、気になるお味

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「えっとだ。左手に持った突き匙で、ハンバーグを押さえ。右手に持ったナイフで、ええ~……。確か、木材を切る感じに、上下に押したり引いたり、するんだったな?」

「よいしょ……、よいしょっ」

 私達の食事風景を思い出しつつ、突き匙とナイフの使い方を口にしながら、難しい表情でハンバーグを切っていくウィザレナに。切ることに全神経を注ぎ、真剣そのものな眼差しのレナ。
 私達にとっては、なんてことはない動作なのだけれども。料理の肉を切るというのは、エルフ族にとって初めての作業になるだろうから、ぎこちなくなるのも仕方ない。
 しかし、一動作一動作に妙な幼気さと、思わず手助けしたくなるような健気さが垣間見える。口を軽く尖らせたレナに至っては、つい私の口元も緩んでしまう。

「き、切れた! ……おお~、すごいな。断面や中まで、見た目が肉そのものだ」

「うわぁ~。透明な肉汁が、まだまだ出てくるや」

 二人してハンバーグを切り終え。ウィザレナは、突き匙で差したハンバーグを持ち上げ、粒々感が敷き詰まった断面を、丸い天色の瞳で眺め。
 切った箇所をナイフと突き匙で離しては広げ、突き匙の背でハンバーグを上からやんわりと押し、中に留まっていた肉汁を開放させていくレナ。

「おいディーネ、見てみろよ。中まで完全にハンバーグだぞ。すげえ再現度だな、こりゃ」

「本当ですね。見ているだけで、私も食べたくなってきてしまいました」

「なあ、ルシル。我にも見せてくれ」

「いいぜ、ほらよ」

 大精霊組の方でも、シルフを中心にハンバーグの断面を見せ合っては、感銘の声や個性的な腹の虫が輪唱を奏でていく。
 あの中で一番食べたそうにしているのは、そわそわし出したウンディーネよりも、フローガンズかな?
 ハンバーグに目が釘付けになっていて、ポカンと開けた口から涎を覗かせている。

「この肉肉しい見た目と質感は、砕いた豆なら出せそうだが……。肉種のつなぎは、肉汁の量を見る限り、アレを使用していそうだな。……問題は、やはり匂いの再現か」

 どうしても野菜のみを使用したハンバーグを、自身でも再現出来ないかと頭を悩ますアルビスが、大きな壁に当たってより頭を悩ませていく。
 砕いた豆って、そこそこ角ばった感じにならなかったっけ? 対し、ハンバーグの断面から見える物は、丸みを帯びた小さな粒々。
 もし、アルビスの推測が正しければ、豆を砕く段階でも、一手間や二手間を加えた途方にも無い作業が待っていそうだ。

「……よし。それじゃあ店長殿、食べさせてもらうぞ」

「店長様、頂かせてもらいます」

「よーし、食うか。店長、頂くぜ」

「は、はい! ごゆるりとお召し上がり下さいませ」

 三人が食べる合図を出し、店長が言葉を返した途端。それまで十人十色な感想に溢れていた室内が、一気にしんと静まり返った。
 さあ、二人の食事事情に深く関わる、大事な局面が訪れた。ウィザレナとレナにとって、かつてない好条件が揃いに揃っている。あとは、エルフ族向けに作られたハンバーグの味次第。
 味の良し悪しによっては、二人が歩む未来の分岐点が変わるといっても、過言じゃない。すなわち、二人がタートに来る機会の増減が、あれによって全て決まる。

 誰しもが言葉を発さず、十七人分の視線が三人へ集約した最中。ウィザレナ、レナ、シルフが、ハンバーグをほぼ同時に口へ運び、味や食感を確かめるように、ゆっくりと咀嚼そしゃくしていく。
 合間合間に誰かの固唾を吞む音が挟む、二秒、五秒と経過した後。瞑っていたウィザレナの瞳が、静寂を破るが如くカッと見開いた。

「……うっ」

「う?」

「う、うまぁぁーーいっ!! なんだこれは!? 全細胞が飛び跳ねるような美味さだ! 頬が全部落ちたかと思ったぞ!」

「お、おいひ~いっ……!」

「すげえな、これ。めっちゃくちゃうめえ」

 片や、大食堂全体に響き渡りそうな咆哮を上げるウィザレナ。片や、緩み切った表情を浮かべ、とろけて落ちてしまいそうな左頬に、手を添えるレナ。
 雄叫びの感想や、みんなの反応から察するに。想像を遥かに超えるほど、あのハンバーグは美味しいらしい。

「ほ、本当でございますか!?」

「ああ! なんかこう、全身に初めて受ける衝撃が走ったぞ! し、しかし……」

「しかし?」

 店長に不安を与えそうな言葉を付け加えたウィザレナが、自分のハンバーグを見やった。

「肉という物を初めて食べたから、これが肉の味なのかまったく分からないんだ」

「しゅごく美味しいけど、ウィザレナに同じくぅ……」

「あっ。な、なるほどです」

 確かに、言われてみればそうだ。ならここは、大体の食材を網羅した、シルフの感想を聞いてみれば───。

「だから、アカシック殿。このハンバーグを食べてみてくれないか?」

「え? 私?」

 シルフが居る方へ視線を向けるも。私宛の唐突なお願いが聞こえたので、バッと振り向いてみれば。視界に映ったウィザレナが、是非頼むと言わんばかりに頷いた。

「そうだ。このハンバーグが本当に肉の味をしてるのか、私に教えてくれ」

「じゃあ、アルビスしゃま……。私のハンバーグを、食べてみてくだしゃい……」

「い、いいのかッ!? ならば、一切れだけ貰おう!」

 私の意見を聞く前に、ウィザレナはハンバーグを刺した突き匙を、渡してきて。レナもレナで、アルビスにお願いしては、食い気味に受け入れたアルビスへハンバーグ付きの突き匙を渡した。
 ハンバーグを一口食べて以降、それ以上は語らないシルフへ視線を戻してみるも。私と目が合ったシルフは、ニヤリと口角を上げながら頷くばかり。
 そして、みんなの注目も、私達に集まりつつある。というか、我先に食べるかと思っていたアルビスまで、私の方を向いて待っている。

「お母さん。私も気になるから、早く食べてみて!」

「あっ、ああ、すまない」

 サニーまでに催促されては、仕方ない。アルビスが待っているということは、先にお前が食べて、ウィザレナに感想を伝えろという示唆なのだろう。
 まあ正直、私も味についてすごく気になっていた。よし。アルビスには悪いけど、せっかくだし一足先に頂いてしまおうかな。

「じゃあ、ウィザレナ。一切れ貰うぞ」

「信じられないぐらい美味しいから、気を付けて食べてくれ」

 両拳を胸元に掲げ、凛とした顔で忠告してきたウィザレナへ、から笑いを返す私。

「ああ、分かった」

 さてと、エルフ族専用のハンバーグよ。一体、どんな味がするのか楽しみだな。まだ熱々な湯気が昇っていることだし、何回か息を吹きかけて冷ましてから食べよう。
 そう決めた私は、ハンバーグが落ちないよう下に手を添え。口元へ近づけたハンバーグに、三度ほど息を吹きかけてから口に運んだ。
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