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300話、その浜辺、忌々しい禁足地にて
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城門を守る、衛兵殿とのやり取り。アカシックが負傷した足の傷を治癒したという、ヒロ殿との邂逅。そして、護衛兵殿から勧められた、大食堂での食事会。
それら全ての歯車が、理想を遥かに上回るほど綺麗に絡み合い、結果。アカシックの同行さえあれば、二人は自らの意志でタートへ行くと宣言した。それも、相当な頻度でだ。
これで、アカシックとピース殿の未来に対する懸念材料は、ほぼ無くなったと言えよう。あとは、ウィザレナとレナが、タートという国に馴染めて、永住出来るかどうかぐらいなもの。
ひとまず、ベルラザが率先して行動を起こしてくれたお陰で、二人との軋轢が生まれること無く、余が描いていた算段を完遂させることが出来た。
しかし、まだ終わりじゃない。アカシックには、残りの大精霊様との契約。アカシックとピース殿の人生を狂わせた大元凶、フォスグリアの討伐が控えている。
それさえ乗り越えてしまえば、アカシックにとって本当の意味で終わりを迎え。狂った歩むべき道は元に戻り、人並みの幸せに溢れた生活を送れるようになれる。
この二つに関しては、特にこれといった不安を抱いていない。アカシックなら、必ずやれると信じているからな。むしろ、予定調和と言えよう。
なので、これから余が考えるべきことは、アカシックとピース殿の今後についてだ。タートに家を建てて、生活が落ち着いて安定するまでの間、余が完璧に補助せねば。
実は、余も人里から離れた屋敷で暮らしていたので、街で生活する上で必要な知識は、かなり疎い。いや、無いに等しい。
タートに住まう人々との交流は、上手くいっているものの。知っていて当然であろう一般常識なぞ、人に聞ける訳がない。下手すれば、変に怪しまれる可能性だってある。
やはりここは、世界を股に掛けた経験があるベルラザに聞くか。タートの図書館へ行き、独学で学んでいくしかないな。
さて、食事は済んだ。余とベルラザが結託して立てた算段も、数時間で完遂することが出来た。二、三日程タートに滞在する予定なので、ここからは完全な自由時間となる。
が、あくまで中心に行動させるのは、ウィザレナとレナだ。だから、逐一二人の要望を聞き入れ、余った時間は振り回されていくとしよう。
「レナ、サニー殿! 海は想像していたよりかなり冷たかったから、しっかり柔軟してから入るぞ!」
「うん、そうだね!」
「はい!」
皆で長めの昼食を取り、腹を隙間無く満たして大食堂を後にし。ウィザレナとレナの次なる要望を聞き入れるべく、アカシックが二人に尋ねた所。
我儘の抑制から解放された二人から即答で返ってきたのは、『海へ行きたい』だった。間髪を容れぬ清々しい声量で放たれた即答に、アカシックは一瞬表情を曇らせるも、その要望を快諾し。
そのままタートの海岸へ行き、水着という服を無料で借りて着替えた後。興奮止まぬサニー、ウィザレナ、レナがすぐさま海へ全力疾走するも、想像していたより海水が冷たかったらしく。
片足が海に触れた直後。全員して甲高い悲鳴を上げては、大慌てで砂浜まで戻り、現在に至る。
「それにだ! 海は、ものすごくしょっぱい。故に、あまり長く海に浸かっていると、我々は浅漬けになってしまう可能性がある」
「浅漬け! じゃあ私達、ずっと海で遊んでたら、おいしくなっちゃうんですか?」
「そうだ! なので、適度に海から出て、水分補給を兼ねてしっかり休憩しよう!」
「はい! 分かりました!」
ウィザレナよ。水分補給を兼ねた休憩を促すのはいいが、周りをよく見てみろ。余らに付いた護衛兵達はおろか、浜辺に居る人達も笑いを堪えているぞ。
しかも、ウィザレナのことだ。あれは例え話ではなく、間違いなく素で言っているだろう。……あのままの調子で行かせて、大丈夫だろうか?
タートに居る人々は、エルフ族を見たことがなければ、会話したこともないはず。なので今後、ウィザレナやレナの一挙手一投足が、エルフ族の印象を固めてしまいかねないが。
「……だ、大丈夫かな? みんな……」
「む?」
余と同じく、砂浜に刺した日傘の下。隣から、か細く震えたアカシックの独り言が聞こえたので、顔をそちらへ移してみれば。
日陰が作った薄闇を塗り替えるほど、青ざめた表情をしたアカシックが見え、握った両拳をカタカタを震わせていた。
「お、おい。貴様こそ大丈夫か? 見るからに顔色が悪いぞ?」
「正直、気が気じゃない……。ほら、あそこに居る男女二人組。みんなの方に近づいてるけど、あいつらの残党とかじゃないよな……?」
「残党?」
アカシックの酷く震えた指先が指し示した方角へ、やや狭まった視界を滑らせてみる。先程まで眺めていた、視界の先。
はしゃいでいるウィザレナ、レナ、サニーの護衛を兼ねて、三人を見守るシルフ様、ウンディーネ様、ベルラザが居り。
その六人の手前。まるでウィザレナ達には眼中なぞないと言わんばかりに、笑顔を見合わせて談笑を交えつつ、六人の近くを横切っていく一組の男女の姿があった。
あの男女が、残党? どう見ても、無警戒極まった一般人にしか見えないが。アカシックの目には、何が映っているんだ?
「おい、アカシック。貴様は一体、何に対してそんなに怯えてるんだ?」
「な、何って……。『アンブラッシュ・アンカー』に、決まってるだろ……」
「なっ……!? アンブラッシュ・アンカー、だと?」
『アンブラッシュ・アンカー』。ピース殿の首を刎ねて殺した張本人の名ではないか。何故、ここでその名が出てくるんだ?
……いや、気にするのは後だ。まず先に、怯え切って正気を保てていなさそうなアカシックを、落ち着かせてやらねば。
それら全ての歯車が、理想を遥かに上回るほど綺麗に絡み合い、結果。アカシックの同行さえあれば、二人は自らの意志でタートへ行くと宣言した。それも、相当な頻度でだ。
これで、アカシックとピース殿の未来に対する懸念材料は、ほぼ無くなったと言えよう。あとは、ウィザレナとレナが、タートという国に馴染めて、永住出来るかどうかぐらいなもの。
ひとまず、ベルラザが率先して行動を起こしてくれたお陰で、二人との軋轢が生まれること無く、余が描いていた算段を完遂させることが出来た。
しかし、まだ終わりじゃない。アカシックには、残りの大精霊様との契約。アカシックとピース殿の人生を狂わせた大元凶、フォスグリアの討伐が控えている。
それさえ乗り越えてしまえば、アカシックにとって本当の意味で終わりを迎え。狂った歩むべき道は元に戻り、人並みの幸せに溢れた生活を送れるようになれる。
この二つに関しては、特にこれといった不安を抱いていない。アカシックなら、必ずやれると信じているからな。むしろ、予定調和と言えよう。
なので、これから余が考えるべきことは、アカシックとピース殿の今後についてだ。タートに家を建てて、生活が落ち着いて安定するまでの間、余が完璧に補助せねば。
実は、余も人里から離れた屋敷で暮らしていたので、街で生活する上で必要な知識は、かなり疎い。いや、無いに等しい。
タートに住まう人々との交流は、上手くいっているものの。知っていて当然であろう一般常識なぞ、人に聞ける訳がない。下手すれば、変に怪しまれる可能性だってある。
やはりここは、世界を股に掛けた経験があるベルラザに聞くか。タートの図書館へ行き、独学で学んでいくしかないな。
さて、食事は済んだ。余とベルラザが結託して立てた算段も、数時間で完遂することが出来た。二、三日程タートに滞在する予定なので、ここからは完全な自由時間となる。
が、あくまで中心に行動させるのは、ウィザレナとレナだ。だから、逐一二人の要望を聞き入れ、余った時間は振り回されていくとしよう。
「レナ、サニー殿! 海は想像していたよりかなり冷たかったから、しっかり柔軟してから入るぞ!」
「うん、そうだね!」
「はい!」
皆で長めの昼食を取り、腹を隙間無く満たして大食堂を後にし。ウィザレナとレナの次なる要望を聞き入れるべく、アカシックが二人に尋ねた所。
我儘の抑制から解放された二人から即答で返ってきたのは、『海へ行きたい』だった。間髪を容れぬ清々しい声量で放たれた即答に、アカシックは一瞬表情を曇らせるも、その要望を快諾し。
そのままタートの海岸へ行き、水着という服を無料で借りて着替えた後。興奮止まぬサニー、ウィザレナ、レナがすぐさま海へ全力疾走するも、想像していたより海水が冷たかったらしく。
片足が海に触れた直後。全員して甲高い悲鳴を上げては、大慌てで砂浜まで戻り、現在に至る。
「それにだ! 海は、ものすごくしょっぱい。故に、あまり長く海に浸かっていると、我々は浅漬けになってしまう可能性がある」
「浅漬け! じゃあ私達、ずっと海で遊んでたら、おいしくなっちゃうんですか?」
「そうだ! なので、適度に海から出て、水分補給を兼ねてしっかり休憩しよう!」
「はい! 分かりました!」
ウィザレナよ。水分補給を兼ねた休憩を促すのはいいが、周りをよく見てみろ。余らに付いた護衛兵達はおろか、浜辺に居る人達も笑いを堪えているぞ。
しかも、ウィザレナのことだ。あれは例え話ではなく、間違いなく素で言っているだろう。……あのままの調子で行かせて、大丈夫だろうか?
タートに居る人々は、エルフ族を見たことがなければ、会話したこともないはず。なので今後、ウィザレナやレナの一挙手一投足が、エルフ族の印象を固めてしまいかねないが。
「……だ、大丈夫かな? みんな……」
「む?」
余と同じく、砂浜に刺した日傘の下。隣から、か細く震えたアカシックの独り言が聞こえたので、顔をそちらへ移してみれば。
日陰が作った薄闇を塗り替えるほど、青ざめた表情をしたアカシックが見え、握った両拳をカタカタを震わせていた。
「お、おい。貴様こそ大丈夫か? 見るからに顔色が悪いぞ?」
「正直、気が気じゃない……。ほら、あそこに居る男女二人組。みんなの方に近づいてるけど、あいつらの残党とかじゃないよな……?」
「残党?」
アカシックの酷く震えた指先が指し示した方角へ、やや狭まった視界を滑らせてみる。先程まで眺めていた、視界の先。
はしゃいでいるウィザレナ、レナ、サニーの護衛を兼ねて、三人を見守るシルフ様、ウンディーネ様、ベルラザが居り。
その六人の手前。まるでウィザレナ達には眼中なぞないと言わんばかりに、笑顔を見合わせて談笑を交えつつ、六人の近くを横切っていく一組の男女の姿があった。
あの男女が、残党? どう見ても、無警戒極まった一般人にしか見えないが。アカシックの目には、何が映っているんだ?
「おい、アカシック。貴様は一体、何に対してそんなに怯えてるんだ?」
「な、何って……。『アンブラッシュ・アンカー』に、決まってるだろ……」
「なっ……!? アンブラッシュ・アンカー、だと?」
『アンブラッシュ・アンカー』。ピース殿の首を刎ねて殺した張本人の名ではないか。何故、ここでその名が出てくるんだ?
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