ぶっきらぼう魔女は育てたい

桜乱捕り

文字の大きさ
305 / 343

300話、その浜辺、忌々しい禁足地にて

しおりを挟む
 城門を守る、衛兵殿とのやり取り。アカシックが負傷した足の傷を治癒したという、ヒロ殿との邂逅。そして、護衛兵殿から勧められた、大食堂での食事会。
 それら全ての歯車が、理想を遥かに上回るほど綺麗に絡み合い、結果。アカシックの同行さえあれば、二人は自らの意志でタートへ行くと宣言した。それも、相当な頻度でだ。
 これで、アカシックとピース殿の未来に対する懸念材料は、ほぼ無くなったと言えよう。あとは、ウィザレナとレナが、タートという国に馴染めて、永住出来るかどうかぐらいなもの。
 ひとまず、ベルラザが率先して行動を起こしてくれたお陰で、二人との軋轢が生まれること無く、余が描いていた算段を完遂させることが出来た。

 しかし、まだ終わりじゃない。アカシックには、残りの大精霊様との契約。アカシックとピース殿の人生を狂わせた大元凶、フォスグリアの討伐が控えている。
 それさえ乗り越えてしまえば、アカシックにとって本当の意味で終わりを迎え。狂った歩むべき道は元に戻り、人並みの幸せに溢れた生活を送れるようになれる。
 この二つに関しては、特にこれといった不安を抱いていない。アカシックなら、必ずやれると信じているからな。むしろ、予定調和と言えよう。

 なので、これから余が考えるべきことは、アカシックとピース殿の今後についてだ。タートに家を建てて、生活が落ち着いて安定するまでの間、余が完璧に補助せねば。
 実は、余も人里から離れた屋敷で暮らしていたので、街で生活する上で必要な知識は、かなり疎い。いや、無いに等しい。
 タートに住まう人々との交流は、上手くいっているものの。知っていて当然であろう一般常識なぞ、人に聞ける訳がない。下手すれば、変に怪しまれる可能性だってある。
 やはりここは、世界を股に掛けた経験があるベルラザに聞くか。タートの図書館へ行き、独学で学んでいくしかないな。

 さて、食事は済んだ。余とベルラザが結託して立てた算段も、数時間で完遂することが出来た。二、三日程タートに滞在する予定なので、ここからは完全な自由時間となる。
 が、あくまで中心に行動させるのは、ウィザレナとレナだ。だから、逐一二人の要望を聞き入れ、余った時間は振り回されていくとしよう。









「レナ、サニー殿! 海は想像していたよりかなり冷たかったから、しっかり柔軟してから入るぞ!」

「うん、そうだね!」

「はい!」

 皆で長めの昼食を取り、腹を隙間無く満たして大食堂を後にし。ウィザレナとレナの次なる要望を聞き入れるべく、アカシックが二人に尋ねた所。
 我儘の抑制から解放された二人から即答で返ってきたのは、『海へ行きたい』だった。間髪を容れぬ清々しい声量で放たれた即答に、アカシックは一瞬表情を曇らせるも、その要望を快諾し。
 そのままタートの海岸へ行き、水着という服を無料で借りて着替えた後。興奮止まぬサニー、ウィザレナ、レナがすぐさま海へ全力疾走するも、想像していたより海水が冷たかったらしく。
 片足が海に触れた直後。全員して甲高い悲鳴を上げては、大慌てで砂浜まで戻り、現在に至る。

「それにだ! 海は、ものすごくしょっぱい。故に、あまり長く海に浸かっていると、我々は浅漬けになってしまう可能性がある」

「浅漬け! じゃあ私達、ずっと海で遊んでたら、おいしくなっちゃうんですか?」

「そうだ! なので、適度に海から出て、水分補給を兼ねてしっかり休憩しよう!」

「はい! 分かりました!」

 ウィザレナよ。水分補給を兼ねた休憩を促すのはいいが、周りをよく見てみろ。余らに付いた護衛兵達はおろか、浜辺に居る人達も笑いを堪えているぞ。
 しかも、ウィザレナのことだ。あれは例え話ではなく、間違いなく素で言っているだろう。……あのままの調子で行かせて、大丈夫だろうか?
 タートに居る人々は、エルフ族を見たことがなければ、会話したこともないはず。なので今後、ウィザレナやレナの一挙手一投足が、エルフ族の印象を固めてしまいかねないが。

「……だ、大丈夫かな? みんな……」

「む?」

 余と同じく、砂浜に刺した日傘の下。隣から、か細く震えたアカシックの独り言が聞こえたので、顔をそちらへ移してみれば。
 日陰が作った薄闇を塗り替えるほど、青ざめた表情をしたアカシックが見え、握った両拳をカタカタを震わせていた。

「お、おい。貴様こそ大丈夫か? 見るからに顔色が悪いぞ?」

「正直、気が気じゃない……。ほら、あそこに居る男女二人組。みんなの方に近づいてるけど、あいつらの残党とかじゃないよな……?」

「残党?」

 アカシックの酷く震えた指先が指し示した方角へ、やや狭まった視界を滑らせてみる。先程まで眺めていた、視界の先。
 はしゃいでいるウィザレナ、レナ、サニーの護衛を兼ねて、三人を見守るシルフ様、ウンディーネ様、ベルラザが居り。
 その六人の手前。まるでウィザレナ達には眼中なぞないと言わんばかりに、笑顔を見合わせて談笑を交えつつ、六人の近くを横切っていく一組の男女の姿があった。
 あの男女が、残党? どう見ても、無警戒極まった一般人にしか見えないが。アカシックの目には、何が映っているんだ?

「おい、アカシック。貴様は一体、何に対してそんなに怯えてるんだ?」

「な、何って……。『アンブラッシュ・アンカー』に、決まってるだろ……」

「なっ……!? アンブラッシュ・アンカー、だと?」

 『アンブラッシュ・アンカー』。ピース殿の首を刎ねて殺した張本人の名ではないか。何故、ここでその名が出てくるんだ?
 ……いや、気にするのは後だ。まず先に、怯え切って正気を保てていなさそうなアカシックを、落ち着かせてやらねば。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

処理中です...