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第七章:天使の降臨と世界の真実
第34話:折れた剣と砕かれた信仰
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絶望。
それは、あまりに絶対的な力の差を見せつけられた時に、人の心に巣食う、冷たい毒だ。
仲間たちの顔に、その毒がじわじと広がっていくのが分かった。
だが、その毒に、最初に抗ったのは、意外にも、王女アリーシアだった。
彼女は、恐怖で震える足を叱咤するように、ぐっと地面に踏みしめると、張り裂けんばかりの声で檄を飛ばした。
「全員、正気に戻りなさい!あんなものに、私たちの世界を好きにさせてなるものですか!今は一人でも多くの民を逃がすのよ!」
その声は、絶望の淵にいた仲間たちを、我に返らせるには十分だった。
そうだ、まだ終わっていない。まだ、やれることがある。
「へっ…!言ってくれるじゃねえか、姫さん!」
ジンが、血の気の引いていた顔に、不屈の笑みを浮かべる。
「陽動は、俺が引き受ける!」
「私も、加勢するわ!あいつの注意を、少しでも逸らしてみせる!」
ルーナも、魔力が尽きかけているにもかかわらず、再び杖を構えた。
彼女たちの覚悟に応えるように、仲間たちが一斉に動き出す。
アリーシアの的確な指示のもと、セレスは負傷者の元へ走り、ティアナは古代魔法で人々を逃がすための壁を作り、そして、これまで感情を見せなかったソフィアでさえ、逃げ遅れた子供の前に、迷いなくその身を盾にして立ちはだかった。
「俺の剣が届かねえだと…?ふざけるなよ…!」
ジンは、無駄だと分かっていながらも、何度も、何度も、天使に向かって斬りかかっていく。折れた刀を、まるで己の牙のように握りしめ、食らいついていく。
ルーナもまた、残ったけちな魔力を振り絞り、牽制の魔法を放ち続ける。
彼らの抵抗は、巨大な山に、小石を投げつけるようなものだったかもしれない。だが、その必死の陽動が、確かに、数人の民が逃げるための、貴重な数秒を稼いでいた。
しかし。
天使は、そんな彼らの抵抗を、心底つまらなそうに、「羽虫の戯れ」と一蹴した。
その美しい顔から、慈愛の笑みを消すこともなく。
ただ、軽く、指を弾いただけだった。
パチン、という乾いた音と共に、不可視の衝撃波がジンを襲う。
「ぐはっ!」
ジンは、鉄塊のように吹き飛ばされ、広場の噴水の残骸に叩きつけられた。その手の中で、彼の魂ともいえる刀が、音を立てて砕け散った。
ルーナの魔法も、天使が軽く息を吹きかけただけで、まるで蝋燭の火のように、あっけなく霧散させられた。
その頃、セレスは、崩れた屋台の瓦礫の下敷きになった少女を、必死に助け出していた。
「大丈夫ですか!今、治しますからね!」
彼女は、少女の血の滲む足に、そっと手をかざす。
「聖なる光よ、この子の傷を癒やしたまえ…!」
だが。
彼女の手のひらから放たれた光は、いつものような温かく力強いものではなく、まるで蛍の光のように、弱々しく、頼りなかった。
少女の傷に触れた光は、その傷を癒やすことなく、弾かれるように、虚しく消えてしまう。
「え…?なぜ…?」
セレスは、自分の手を見つめる。
脳裏に、天使の言葉が蘇る。『お掃除を始めましょう』『この世界のゴミを』。
(なぜ…なぜ天使様が、こんなことを…?私の祈りが、間違っていたの…?私の信仰が、この惨状を招いたの…?私の…せい…?)
疑念。後悔。絶望。
彼女の心を覆った黒い感情が、聖なる力を、その根源から濁らせていく。
治せない。助けられない。
セレスは、血を流して苦しむ少女を前に、ただ自分の無力さに打ちひしがれ、その場にへたり込むしかなかった。
剣士は剣を折られ、魔法使いは魔法を封じられ、神官は祈りを失った。
青く晴れ渡った夏の空の下、俺たちのパーティは、完全な、そして絶対的な「敗北」に沈んでいこうとしていた。
それは、あまりに絶対的な力の差を見せつけられた時に、人の心に巣食う、冷たい毒だ。
仲間たちの顔に、その毒がじわじと広がっていくのが分かった。
だが、その毒に、最初に抗ったのは、意外にも、王女アリーシアだった。
彼女は、恐怖で震える足を叱咤するように、ぐっと地面に踏みしめると、張り裂けんばかりの声で檄を飛ばした。
「全員、正気に戻りなさい!あんなものに、私たちの世界を好きにさせてなるものですか!今は一人でも多くの民を逃がすのよ!」
その声は、絶望の淵にいた仲間たちを、我に返らせるには十分だった。
そうだ、まだ終わっていない。まだ、やれることがある。
「へっ…!言ってくれるじゃねえか、姫さん!」
ジンが、血の気の引いていた顔に、不屈の笑みを浮かべる。
「陽動は、俺が引き受ける!」
「私も、加勢するわ!あいつの注意を、少しでも逸らしてみせる!」
ルーナも、魔力が尽きかけているにもかかわらず、再び杖を構えた。
彼女たちの覚悟に応えるように、仲間たちが一斉に動き出す。
アリーシアの的確な指示のもと、セレスは負傷者の元へ走り、ティアナは古代魔法で人々を逃がすための壁を作り、そして、これまで感情を見せなかったソフィアでさえ、逃げ遅れた子供の前に、迷いなくその身を盾にして立ちはだかった。
「俺の剣が届かねえだと…?ふざけるなよ…!」
ジンは、無駄だと分かっていながらも、何度も、何度も、天使に向かって斬りかかっていく。折れた刀を、まるで己の牙のように握りしめ、食らいついていく。
ルーナもまた、残ったけちな魔力を振り絞り、牽制の魔法を放ち続ける。
彼らの抵抗は、巨大な山に、小石を投げつけるようなものだったかもしれない。だが、その必死の陽動が、確かに、数人の民が逃げるための、貴重な数秒を稼いでいた。
しかし。
天使は、そんな彼らの抵抗を、心底つまらなそうに、「羽虫の戯れ」と一蹴した。
その美しい顔から、慈愛の笑みを消すこともなく。
ただ、軽く、指を弾いただけだった。
パチン、という乾いた音と共に、不可視の衝撃波がジンを襲う。
「ぐはっ!」
ジンは、鉄塊のように吹き飛ばされ、広場の噴水の残骸に叩きつけられた。その手の中で、彼の魂ともいえる刀が、音を立てて砕け散った。
ルーナの魔法も、天使が軽く息を吹きかけただけで、まるで蝋燭の火のように、あっけなく霧散させられた。
その頃、セレスは、崩れた屋台の瓦礫の下敷きになった少女を、必死に助け出していた。
「大丈夫ですか!今、治しますからね!」
彼女は、少女の血の滲む足に、そっと手をかざす。
「聖なる光よ、この子の傷を癒やしたまえ…!」
だが。
彼女の手のひらから放たれた光は、いつものような温かく力強いものではなく、まるで蛍の光のように、弱々しく、頼りなかった。
少女の傷に触れた光は、その傷を癒やすことなく、弾かれるように、虚しく消えてしまう。
「え…?なぜ…?」
セレスは、自分の手を見つめる。
脳裏に、天使の言葉が蘇る。『お掃除を始めましょう』『この世界のゴミを』。
(なぜ…なぜ天使様が、こんなことを…?私の祈りが、間違っていたの…?私の信仰が、この惨状を招いたの…?私の…せい…?)
疑念。後悔。絶望。
彼女の心を覆った黒い感情が、聖なる力を、その根源から濁らせていく。
治せない。助けられない。
セレスは、血を流して苦しむ少女を前に、ただ自分の無力さに打ちひしがれ、その場にへたり込むしかなかった。
剣士は剣を折られ、魔法使いは魔法を封じられ、神官は祈りを失った。
青く晴れ渡った夏の空の下、俺たちのパーティは、完全な、そして絶対的な「敗北」に沈んでいこうとしていた。
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