38 / 53
第七章:天使の降臨と世界の真実
第35話:敗北、そして世界の真実
しおりを挟む
仲間たちが、次々と地に伏していく。
剣士は剣を折られ、魔法使いは魔力を失い、神官は祈りを打ち砕かれた。
広場を吹き抜ける夏の乾いた風が、舞い上がる粉塵と、絶望の匂いを運んでくる。
俺たちの無力な抵抗を、もはや戯れとすら思わなくなったのか。
天使は、その慈愛に満ちた微笑みを浮かべたまま、ゆっくりと両手を広げた。
街全体を浄化するための、最後のお掃除を始めるために。
すると、サンクトゥスの青空が、一瞬にして禍々しい光に染まった。
空に、巨大で、緻密で、そしておぞましいほどに美しい魔法陣が展開されていく。街一つを消し飛ばすほどの、膨大なエネルギーが、その中心へと収束していくのが分かった。
風が止み、音が消え、世界が、その終焉を前に、息を殺した。
万事休す。誰もがそう思った、その時だった。
仲間たちが倒れ伏す、その一番前に。俺は、静かに立っていた。
やがて、天の魔法陣から、全てを無に帰す純白の殲滅光が、俺に向かって放たれる。
だが、俺は避けなかった。
ただ、静かに、右手を差し出す。
そして、迫り来る殲滅の光を、まるで飛んできたボールをキャッチするかのように、いともたやすく、その手で掴み取った。
光は、俺の手に収束し、抵抗する間もなく、粘土のように形を変え、やがて、パチン、と軽い音を立てて、握りつぶされた。
「……何者だ、お前は」
初めて、天使の顔から、あの貼り付けたような微笑みが消えた。
その代わりに現れたのは、無機質で、冷徹な、システムの監視者のような瞳。
彼女は、初めて見る「理解不能なもの」を分析するように、俺を見つめた。
「この世界の生命(データ)ではないな。観測外の異常値…バグだ」
「さあな」
俺は、天使の問いには答えず、背後の仲間たちに告げた。
「こいつは今の俺たちじゃ倒せない。だが、殺されもしない。引くぞ」
俺は、空間そのものを右手で掴み、ぐにゃりと歪める。
「なっ…!?」
天使が驚愕の声を上げるが、もう遅い。
俺たちの体は、歪んだ空間に飲み込まれ、一瞬にして、その場から姿を消した。
◇
俺たちが次に立っていたのは、聖都から遠く離れた、静かな森の中だった。
西日が木々の間から斜めに差し込み、打ちひしがれた仲間たちの顔に、深い影を落としている。
遠くで、悲しげに鳴く鳥の声が聞こえた。
誰も、何も話さない。
ただ、己の無力さと、目の前で起きた惨状、そして、俺という存在の未知の力に、言葉を失っていた。
特にセレスは、心が壊れてしまったかのように、虚ろな目で、ただ一点を見つめている。
その、重い、重い沈黙を、ティアナが破った。
「あれは、神の使いなどではない」
彼女は、静かに、しかし、世界の真実を告げるように、語り始めた。
「この世界という箱庭を管理するシステムの一部…生命が定められた上限を超え、世界の許容量(キャパシティ)を脅かすと判断された時、それを強制的に刈り取り、世界を『初期化』するだけの存在。我ら古の民は、彼らを『調律者』と呼んだ」
古代の姫が語る、衝撃の事実。
天使とは、神聖な存在などではなく、ただの、無慈悲な害虫駆除システムだというのだ。
「奴らを倒すには、奴らの世界の理(ルール)の外にある力が必要だ」
ティアナは、そこで一度言葉を切ると、俺の方を、その金色の第三の目で見据えた。
「…例えば、我らでさえ接触を禁じられた、魔界の力や…」
「…あるいは、彼(アルス)のような、世界のバグそのもの、とかな」
初めての、完全な敗北。
そして、明かされた、あまりに巨大で、あまりに理不尽な、世界の本当の敵の姿。
俺たちは、これから自分たちが何をすべきなのか、その答えを見つけられないまま、ただ、夕暮れの森の、重い沈黙の中に沈んでいくしかなかった。
剣士は剣を折られ、魔法使いは魔力を失い、神官は祈りを打ち砕かれた。
広場を吹き抜ける夏の乾いた風が、舞い上がる粉塵と、絶望の匂いを運んでくる。
俺たちの無力な抵抗を、もはや戯れとすら思わなくなったのか。
天使は、その慈愛に満ちた微笑みを浮かべたまま、ゆっくりと両手を広げた。
街全体を浄化するための、最後のお掃除を始めるために。
すると、サンクトゥスの青空が、一瞬にして禍々しい光に染まった。
空に、巨大で、緻密で、そしておぞましいほどに美しい魔法陣が展開されていく。街一つを消し飛ばすほどの、膨大なエネルギーが、その中心へと収束していくのが分かった。
風が止み、音が消え、世界が、その終焉を前に、息を殺した。
万事休す。誰もがそう思った、その時だった。
仲間たちが倒れ伏す、その一番前に。俺は、静かに立っていた。
やがて、天の魔法陣から、全てを無に帰す純白の殲滅光が、俺に向かって放たれる。
だが、俺は避けなかった。
ただ、静かに、右手を差し出す。
そして、迫り来る殲滅の光を、まるで飛んできたボールをキャッチするかのように、いともたやすく、その手で掴み取った。
光は、俺の手に収束し、抵抗する間もなく、粘土のように形を変え、やがて、パチン、と軽い音を立てて、握りつぶされた。
「……何者だ、お前は」
初めて、天使の顔から、あの貼り付けたような微笑みが消えた。
その代わりに現れたのは、無機質で、冷徹な、システムの監視者のような瞳。
彼女は、初めて見る「理解不能なもの」を分析するように、俺を見つめた。
「この世界の生命(データ)ではないな。観測外の異常値…バグだ」
「さあな」
俺は、天使の問いには答えず、背後の仲間たちに告げた。
「こいつは今の俺たちじゃ倒せない。だが、殺されもしない。引くぞ」
俺は、空間そのものを右手で掴み、ぐにゃりと歪める。
「なっ…!?」
天使が驚愕の声を上げるが、もう遅い。
俺たちの体は、歪んだ空間に飲み込まれ、一瞬にして、その場から姿を消した。
◇
俺たちが次に立っていたのは、聖都から遠く離れた、静かな森の中だった。
西日が木々の間から斜めに差し込み、打ちひしがれた仲間たちの顔に、深い影を落としている。
遠くで、悲しげに鳴く鳥の声が聞こえた。
誰も、何も話さない。
ただ、己の無力さと、目の前で起きた惨状、そして、俺という存在の未知の力に、言葉を失っていた。
特にセレスは、心が壊れてしまったかのように、虚ろな目で、ただ一点を見つめている。
その、重い、重い沈黙を、ティアナが破った。
「あれは、神の使いなどではない」
彼女は、静かに、しかし、世界の真実を告げるように、語り始めた。
「この世界という箱庭を管理するシステムの一部…生命が定められた上限を超え、世界の許容量(キャパシティ)を脅かすと判断された時、それを強制的に刈り取り、世界を『初期化』するだけの存在。我ら古の民は、彼らを『調律者』と呼んだ」
古代の姫が語る、衝撃の事実。
天使とは、神聖な存在などではなく、ただの、無慈悲な害虫駆除システムだというのだ。
「奴らを倒すには、奴らの世界の理(ルール)の外にある力が必要だ」
ティアナは、そこで一度言葉を切ると、俺の方を、その金色の第三の目で見据えた。
「…例えば、我らでさえ接触を禁じられた、魔界の力や…」
「…あるいは、彼(アルス)のような、世界のバグそのもの、とかな」
初めての、完全な敗北。
そして、明かされた、あまりに巨大で、あまりに理不尽な、世界の本当の敵の姿。
俺たちは、これから自分たちが何をすべきなのか、その答えを見つけられないまま、ただ、夕暮れの森の、重い沈黙の中に沈んでいくしかなかった。
0
あなたにおすすめの小説
異世界でただ美しく! 男女比1対5の世界で美形になる事を望んだ俺は戦力外で追い出されましたので自由に生きます!
石のやっさん
ファンタジー
主人公、理人は異世界召喚で異世界ルミナスにクラスごと召喚された。
クラスの人間が、優秀なジョブやスキルを持つなか、理人は『侍』という他に比べてかなり落ちるジョブだった為、魔族討伐メンバーから外され…追い出される事に!
だが、これは仕方が無い事だった…彼は戦う事よりも「美しくなる事」を望んでしまったからだ。
だが、ルミナスは男女比1対5の世界なので…まぁ色々起きます。
※私の書く男女比物が読みたい…そのリクエストに応えてみましたが、中編で終わる可能性は高いです。
俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!
くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作)
異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」
侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】
のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。
そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。
幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、
“とっておき”のチートで人生を再起動。
剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。
そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。
これは、理想を形にするために動き出した少年の、
少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。
【なろう掲載】
異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。
Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。
現世で惨めなサラリーマンをしていた……
そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。
その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。
それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。
目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて……
現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に……
特殊な能力が当然のように存在するその世界で……
自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。
俺は俺の出来ること……
彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。
だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。
※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※
※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
仙道
ファンタジー
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
異世界で至った男は帰還したがファンタジーに巻き込まれていく
竹桜
ファンタジー
神社のお参り帰りに異世界召喚に巻き込まれた主人公。
巻き込まれただけなのに、狂った姿を見たい為に何も無い真っ白な空間で閉じ込められる。
千年間も。
それなのに主人公は鍛錬をする。
1つのことだけを。
やがて、真っ白な空間から異世界に戻るが、その時に至っていたのだ。
これは異世界で至った男が帰還した現実世界でファンタジーに巻き込まれていく物語だ。
そして、主人公は至った力を存分に振るう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる