無敵だけど平穏希望!勘違いから始まる美女だらけドタバタ異世界無双

Gaku

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第七章:天使の降臨と世界の真実

第35話:敗北、そして世界の真実

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 仲間たちが、次々と地に伏していく。
 剣士は剣を折られ、魔法使いは魔力を失い、神官は祈りを打ち砕かれた。
 広場を吹き抜ける夏の乾いた風が、舞い上がる粉塵と、絶望の匂いを運んでくる。

 俺たちの無力な抵抗を、もはや戯れとすら思わなくなったのか。
 天使は、その慈愛に満ちた微笑みを浮かべたまま、ゆっくりと両手を広げた。
 街全体を浄化するための、最後のお掃除を始めるために。

 すると、サンクトゥスの青空が、一瞬にして禍々しい光に染まった。
 空に、巨大で、緻密で、そしておぞましいほどに美しい魔法陣が展開されていく。街一つを消し飛ばすほどの、膨大なエネルギーが、その中心へと収束していくのが分かった。
 風が止み、音が消え、世界が、その終焉を前に、息を殺した。

 万事休す。誰もがそう思った、その時だった。

 仲間たちが倒れ伏す、その一番前に。俺は、静かに立っていた。
 やがて、天の魔法陣から、全てを無に帰す純白の殲滅光が、俺に向かって放たれる。

 だが、俺は避けなかった。
 ただ、静かに、右手を差し出す。
 そして、迫り来る殲滅の光を、まるで飛んできたボールをキャッチするかのように、いともたやすく、その手で掴み取った。

 光は、俺の手に収束し、抵抗する間もなく、粘土のように形を変え、やがて、パチン、と軽い音を立てて、握りつぶされた。

「……何者だ、お前は」

 初めて、天使の顔から、あの貼り付けたような微笑みが消えた。
 その代わりに現れたのは、無機質で、冷徹な、システムの監視者のような瞳。
 彼女は、初めて見る「理解不能なもの」を分析するように、俺を見つめた。

「この世界の生命(データ)ではないな。観測外の異常値…バグだ」

「さあな」
 俺は、天使の問いには答えず、背後の仲間たちに告げた。
「こいつは今の俺たちじゃ倒せない。だが、殺されもしない。引くぞ」

 俺は、空間そのものを右手で掴み、ぐにゃりと歪める。
「なっ…!?」
 天使が驚愕の声を上げるが、もう遅い。
 俺たちの体は、歪んだ空間に飲み込まれ、一瞬にして、その場から姿を消した。

 ◇

 俺たちが次に立っていたのは、聖都から遠く離れた、静かな森の中だった。
 西日が木々の間から斜めに差し込み、打ちひしがれた仲間たちの顔に、深い影を落としている。
 遠くで、悲しげに鳴く鳥の声が聞こえた。

 誰も、何も話さない。
 ただ、己の無力さと、目の前で起きた惨状、そして、俺という存在の未知の力に、言葉を失っていた。
 特にセレスは、心が壊れてしまったかのように、虚ろな目で、ただ一点を見つめている。

 その、重い、重い沈黙を、ティアナが破った。

「あれは、神の使いなどではない」

 彼女は、静かに、しかし、世界の真実を告げるように、語り始めた。
「この世界という箱庭を管理するシステムの一部…生命が定められた上限を超え、世界の許容量(キャパシティ)を脅かすと判断された時、それを強制的に刈り取り、世界を『初期化』するだけの存在。我ら古の民は、彼らを『調律者』と呼んだ」

 古代の姫が語る、衝撃の事実。
 天使とは、神聖な存在などではなく、ただの、無慈悲な害虫駆除システムだというのだ。

「奴らを倒すには、奴らの世界の理(ルール)の外にある力が必要だ」
 ティアナは、そこで一度言葉を切ると、俺の方を、その金色の第三の目で見据えた。

「…例えば、我らでさえ接触を禁じられた、魔界の力や…」
「…あるいは、彼(アルス)のような、世界のバグそのもの、とかな」

 初めての、完全な敗北。
 そして、明かされた、あまりに巨大で、あまりに理不尽な、世界の本当の敵の姿。
 俺たちは、これから自分たちが何をすべきなのか、その答えを見つけられないまま、ただ、夕暮れの森の、重い沈黙の中に沈んでいくしかなかった。
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