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第八章:マッドサイエンティストの狂気
第36話:癒えぬ傷と新たな悪意の影
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聖都サンクトゥスでの、あの惨劇から数週間。
俺たちの旅は、これまでとは比べ物にならないほど、重苦しい沈黙に支配されていた。
季節は、燃えるような夏から、少しずつ寂しさを帯びた初秋へと移り変わっていた。夜は肌寒く、虫の音が、どこか悲しげに響いている。
俺たちは、ただ黙って、ゆらめく焚き火の炎を見つめていた。会話はない。誰もが、あの日の絶望と、自分たちの無力さを、心の傷として抱えていた。
特に、セレスの落ち込みは深刻だった。
彼女は、いつも膝を抱え、光を失った瞳で、ただ虚空を見つめている。俺たちが声をかけても、力なく首を振るだけ。彼女が作ったはずのスープも、誰の手もつけられないまま、焚き火の横で冷めていっていた。その姿は、見ているだけで、胸が痛んだ。
「ま、まあ、なんだ!元気出そうぜ!」
沈黙に耐えきれなくなったのか、ジンが無理に明るい声を出した。
「あの天使ってのが、たまたま規格外だっただけだ!あんなバケモン、そうそういるもんじゃねえよ!次会ったら、俺の新しい技で…!」
しかし、彼の空元気な声は、誰の心にも届かず、静かな夜の森に虚しく響くだけだった。気まずい沈黙が、より一層、深く、重く、その場にのしかかる。
◇
数日後。俺たちは、情報収集のために、とある商業都市に立ち寄っていた。
街は、それなりに活気に満ちている。だが、その喧騒の裏で、人々が何かを恐れ、ひそひそと噂話をしているのが分かった。
俺たちは、冒険者ギルドの扉を開ける。
そこは、いつものような陽気な雰囲気はなく、冒険者たちの間にも、緊張と不安が入り混じった空気が漂っていた。
「おい、また隊商がやられたらしいぜ」
「今度はどんな怪物だったんだ…?」
「討伐に行ったAランクパーティも、まだ戻らないそうだ…」
壁の依頼ボードには、「正体不明の怪物討伐」の依頼書が、破格の懸賞金と共に、何枚も、何枚も貼られていた。
「詳しく、話を聞かせてもらえませんか」
アリーシアが、ギルドの受付で、生き残ったという商人から話を聞き出す。
「…化け物でした。犬のような体に、蛇の尻尾…鳥の翼を持ち…そして、人間の子供のような顔で、泣き叫びながら…」
その証言に、俺たちは息をのんだ。
「複数の生物を、無理やり一つに繋ぎ合わせたような姿…。間違いないわ。三つ目の種族の遺跡にいたキメラと、特徴が酷似している」
アリーシアの分析に、ティアナが静かに頷く。
彼女は、ギルドに証拠品として持ち込まれていた、怪物の体の一部だという、黒く変色した肉片に、そっと指を触れた。
彼女の第三の目が、かすかに光る。
そして、その表情が、静かだが、底知れない怒りに染まった。
『…この歪んだ生命の繋げ方。この、冒涜的な魔力の痕跡…。間違いない。我が同胞を弄んだ、あの痴れ者と同じ匂いがする』
マッドサイエンティスト。
天使という、あまりに巨大で理不尽な敵を前に、俺たちが見失いかけていた、もう一体の、明確な「悪意」。
仲間たちの顔に、怒りと、そして新たな目的を見出した決意の色が浮かぶ。
だが、その中で、セレスだけが、俯いたまま、か細い声で呟いた。
「また…救えない命が増えるだけ、です…」
その、絶望に満ちた言葉が、決意を固めようとしていた俺たちの胸に、重く、そして痛く、突き刺さった。
俺たちの旅は、これまでとは比べ物にならないほど、重苦しい沈黙に支配されていた。
季節は、燃えるような夏から、少しずつ寂しさを帯びた初秋へと移り変わっていた。夜は肌寒く、虫の音が、どこか悲しげに響いている。
俺たちは、ただ黙って、ゆらめく焚き火の炎を見つめていた。会話はない。誰もが、あの日の絶望と、自分たちの無力さを、心の傷として抱えていた。
特に、セレスの落ち込みは深刻だった。
彼女は、いつも膝を抱え、光を失った瞳で、ただ虚空を見つめている。俺たちが声をかけても、力なく首を振るだけ。彼女が作ったはずのスープも、誰の手もつけられないまま、焚き火の横で冷めていっていた。その姿は、見ているだけで、胸が痛んだ。
「ま、まあ、なんだ!元気出そうぜ!」
沈黙に耐えきれなくなったのか、ジンが無理に明るい声を出した。
「あの天使ってのが、たまたま規格外だっただけだ!あんなバケモン、そうそういるもんじゃねえよ!次会ったら、俺の新しい技で…!」
しかし、彼の空元気な声は、誰の心にも届かず、静かな夜の森に虚しく響くだけだった。気まずい沈黙が、より一層、深く、重く、その場にのしかかる。
◇
数日後。俺たちは、情報収集のために、とある商業都市に立ち寄っていた。
街は、それなりに活気に満ちている。だが、その喧騒の裏で、人々が何かを恐れ、ひそひそと噂話をしているのが分かった。
俺たちは、冒険者ギルドの扉を開ける。
そこは、いつものような陽気な雰囲気はなく、冒険者たちの間にも、緊張と不安が入り混じった空気が漂っていた。
「おい、また隊商がやられたらしいぜ」
「今度はどんな怪物だったんだ…?」
「討伐に行ったAランクパーティも、まだ戻らないそうだ…」
壁の依頼ボードには、「正体不明の怪物討伐」の依頼書が、破格の懸賞金と共に、何枚も、何枚も貼られていた。
「詳しく、話を聞かせてもらえませんか」
アリーシアが、ギルドの受付で、生き残ったという商人から話を聞き出す。
「…化け物でした。犬のような体に、蛇の尻尾…鳥の翼を持ち…そして、人間の子供のような顔で、泣き叫びながら…」
その証言に、俺たちは息をのんだ。
「複数の生物を、無理やり一つに繋ぎ合わせたような姿…。間違いないわ。三つ目の種族の遺跡にいたキメラと、特徴が酷似している」
アリーシアの分析に、ティアナが静かに頷く。
彼女は、ギルドに証拠品として持ち込まれていた、怪物の体の一部だという、黒く変色した肉片に、そっと指を触れた。
彼女の第三の目が、かすかに光る。
そして、その表情が、静かだが、底知れない怒りに染まった。
『…この歪んだ生命の繋げ方。この、冒涜的な魔力の痕跡…。間違いない。我が同胞を弄んだ、あの痴れ者と同じ匂いがする』
マッドサイエンティスト。
天使という、あまりに巨大で理不尽な敵を前に、俺たちが見失いかけていた、もう一体の、明確な「悪意」。
仲間たちの顔に、怒りと、そして新たな目的を見出した決意の色が浮かぶ。
だが、その中で、セレスだけが、俯いたまま、か細い声で呟いた。
「また…救えない命が増えるだけ、です…」
その、絶望に満ちた言葉が、決意を固めようとしていた俺たちの胸に、重く、そして痛く、突き刺さった。
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