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第八章:マッドサイエンティストの狂気
第38話:創造主の庭、地獄の工房
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巨大な排気ダクトの中は、熱風と、あらゆる汚物が混じり合った悪臭に満ちていた。
俺たちは、そんな劣悪な環境を、ギデオンの案内で黙々と進んでいく。やがて、分厚い鉄の扉にたどり着いた。ギデオンが手慣れた様子でそれを開くと、これまでの悪臭が嘘のように、空気が一変した。
ツン、と鼻を刺す、消毒液と薬品の匂い。
どこまでも続く、継ぎ目のない金属の廊下。天井の照明が、手術室のように、青白い、冷たい光を投げかけている。響くのは、俺たちの足音と、遠くから聞こえる、低く単調な機械の駆動音だけ。
そこは、生命の温かみが、一切感じられない場所だった。
「ここが、ヤツの研究施設…『創造主の庭(ガーデン)』の入り口じゃ」
ギデオンが、苦々しく呟く。
俺たちは、息を殺して、その不気味な施設の奥深くへと、足を踏み入れた。
そして、巨大な鋼鉄の扉の先に広がっていた光景に、俺たちは、言葉を失った。
そこは、体育館ほどもある、広大な空間だった。
そして、その壁一面に、巨大なガラス張りの部屋が、まるで商品ディスプレイのように、ずらりと並んでいたのだ。
部屋の中は、緑色の培養液の不気味な光に照らされ、その一つ一つに、「作品」が収められていた。
ある部屋では、エルフの美しい体に、獣の腕や、昆虫の羽が、醜く、そして無理やりに移植されていた。
ある部屋では、屈強なドワーフの肉体が、生きたまま機械の部品として解体され、都市の動力の一部である歯車を、涙を流しながら、永遠に回し続けていた。
ある部屋では、培養液の中に、まだピクピクと痙攣している手足や、開閉を繰り返す眼球が、無数に浮かんでいた。
地獄。
もし、この世に地獄があるとするならば、それは、間違いなくこの光景だろう。
生命の尊厳など、ここには一片たりとも存在しない。ただ、狂気的な知的好奇心によって、弄ばれ、破壊され、作り変えられた、命だったものの残骸が、そこにあるだけだった。
そして、何より恐ろしいのは、彼らの多くに、まだ「意識」が残っていることだった。
ガラス越しに俺たちの姿を認めると、彼らの瞳が、一斉にこちらを向く。
声なき声が、魂の叫びが、俺たちの脳に直接響き渡ってくる。
『助けて』
『痛い』
『殺して』
『お母さん』
『なぜ』
「ああ…!あああああああっ!」
その、魂の断末魔の奔流に、セレスが耐えきれるはずもなかった。
彼女は、耳を強く塞ぎ、その場にうずくまると、子供のように泣き叫んだ。
「やめて…!聞きたくない…!やめてください…!」
その小さな背中が、絶望に打ち震えている。ソフィアが、そんな彼女のそばに、静かに寄り添い、その肩を支えていた。
「……………」
ジンが、黙って、拳を握りしめる。その指の関節が、白くなるほどに。
アリーシアも、ルーナも、あまりの光景に顔を青ざめさせ、吐き気をこらえるように、口元を押さえている。
俺は、その、地獄の全てを、無言で見つめていた。
悲しみでも、同情でもない。
俺の心を支配したのは、ただ、静かで、冷たくて、そして、底なしの、絶対的な「怒り」だった。
俺の周りの空気が、物理的に温度を失っていく。
仲間たちが、はっとしたように、俺を見た。
「…許せねえ」
ジンが、歯を食いしばりながら、低い声で言った。
「絶対に許せねえぜ、こいつは」
その言葉に、俺は、ただ静かに頷いた。
俺の瞳には、もう、何の感情も映っていなかった。
ただ、この狂った庭園の創造主を、この世から消し去るという、氷のような決意だけが、静かに燃えていた。
俺たちは、そんな劣悪な環境を、ギデオンの案内で黙々と進んでいく。やがて、分厚い鉄の扉にたどり着いた。ギデオンが手慣れた様子でそれを開くと、これまでの悪臭が嘘のように、空気が一変した。
ツン、と鼻を刺す、消毒液と薬品の匂い。
どこまでも続く、継ぎ目のない金属の廊下。天井の照明が、手術室のように、青白い、冷たい光を投げかけている。響くのは、俺たちの足音と、遠くから聞こえる、低く単調な機械の駆動音だけ。
そこは、生命の温かみが、一切感じられない場所だった。
「ここが、ヤツの研究施設…『創造主の庭(ガーデン)』の入り口じゃ」
ギデオンが、苦々しく呟く。
俺たちは、息を殺して、その不気味な施設の奥深くへと、足を踏み入れた。
そして、巨大な鋼鉄の扉の先に広がっていた光景に、俺たちは、言葉を失った。
そこは、体育館ほどもある、広大な空間だった。
そして、その壁一面に、巨大なガラス張りの部屋が、まるで商品ディスプレイのように、ずらりと並んでいたのだ。
部屋の中は、緑色の培養液の不気味な光に照らされ、その一つ一つに、「作品」が収められていた。
ある部屋では、エルフの美しい体に、獣の腕や、昆虫の羽が、醜く、そして無理やりに移植されていた。
ある部屋では、屈強なドワーフの肉体が、生きたまま機械の部品として解体され、都市の動力の一部である歯車を、涙を流しながら、永遠に回し続けていた。
ある部屋では、培養液の中に、まだピクピクと痙攣している手足や、開閉を繰り返す眼球が、無数に浮かんでいた。
地獄。
もし、この世に地獄があるとするならば、それは、間違いなくこの光景だろう。
生命の尊厳など、ここには一片たりとも存在しない。ただ、狂気的な知的好奇心によって、弄ばれ、破壊され、作り変えられた、命だったものの残骸が、そこにあるだけだった。
そして、何より恐ろしいのは、彼らの多くに、まだ「意識」が残っていることだった。
ガラス越しに俺たちの姿を認めると、彼らの瞳が、一斉にこちらを向く。
声なき声が、魂の叫びが、俺たちの脳に直接響き渡ってくる。
『助けて』
『痛い』
『殺して』
『お母さん』
『なぜ』
「ああ…!あああああああっ!」
その、魂の断末魔の奔流に、セレスが耐えきれるはずもなかった。
彼女は、耳を強く塞ぎ、その場にうずくまると、子供のように泣き叫んだ。
「やめて…!聞きたくない…!やめてください…!」
その小さな背中が、絶望に打ち震えている。ソフィアが、そんな彼女のそばに、静かに寄り添い、その肩を支えていた。
「……………」
ジンが、黙って、拳を握りしめる。その指の関節が、白くなるほどに。
アリーシアも、ルーナも、あまりの光景に顔を青ざめさせ、吐き気をこらえるように、口元を押さえている。
俺は、その、地獄の全てを、無言で見つめていた。
悲しみでも、同情でもない。
俺の心を支配したのは、ただ、静かで、冷たくて、そして、底なしの、絶対的な「怒り」だった。
俺の周りの空気が、物理的に温度を失っていく。
仲間たちが、はっとしたように、俺を見た。
「…許せねえ」
ジンが、歯を食いしばりながら、低い声で言った。
「絶対に許せねえぜ、こいつは」
その言葉に、俺は、ただ静かに頷いた。
俺の瞳には、もう、何の感情も映っていなかった。
ただ、この狂った庭園の創造主を、この世から消し去るという、氷のような決意だけが、静かに燃えていた。
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