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第八章:マッドサイエンティストの狂気
第39話:狂気の科学者、ドクター・ヴェルギリウス
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地獄のような広間を、俺たちは固い決意を胸に、駆け抜けた。
魂の叫びを背に受けながら、その元凶がいるであろう、施設の最深部へと。
そして、巨大な鋼鉄の扉を開けた先で、俺たちは、再び言葉を失った。
そこは、これまでの薄暗く汚れた空間とはまるで違う、壁も、床も、天井も、すべてが継ぎ目のない純白の素材でできた、眩しいほどの研究室だった。
部屋の隅には、巨大な脳が培養液に浮かぶ装置や、見たこともない複雑な機械が、静かに駆動音を響かせている。消毒液よりもさらに刺激的な、オゾンのような匂いが、非自然的なまでの清潔さを物語っていた。
その、純白の部屋の中央に、一人の男が立っていた。
塵一つない真っ白な白衣。綺麗に整えられた髪。穏やかな笑みを浮かべて、彼は、まるで歓迎するかのように、パチ、パチ、とゆっくり拍手をした。
「ようこそ、諸君。私の『創造の庭(ガーデン)』へ」
ドクター・ヴェルギリウス。
その知的な風貌とは裏腹に、彼の瞳の奥は、氷のように冷たく、一切の感情を映していなかった。
「君たちのような、規格外の能力を持つイレギュラーなサンプルが、自らここまで足を運んでくれるとは。実に効率的だ。研究の手間が省ける」
彼は、嬉々として語りかける。その言葉に、ジンが怒りを露わにした。
「てめえ…!外の惨状を見やがったのか!あれがてめえのやったことか!」
「ああ、私の『作品』たちのことかね?」
ヴェルギリウスは、壁の巨大なモニターを起動させ、そこに複雑な遺伝子配列のような図形を映し出した。そして、まるで子供が自分の作ったおもちゃを自慢するように、誇らしげにプレゼンテーションを始めた。
「種族間の壁、個体差、寿命、そして感情…。これらは全て、生命が進化の過程で捨てきれなかった、実に非効率的な『バグ』に過ぎない。私は、そのバグを修正し、あらゆる優れた遺伝子を統合し、完璧な生命体…すなわち、『神』を創造しているのだよ」
モニターには、キメラの設計図や、天使の細胞の解析データらしきものが、次々と映し出されていく。
「これは冒涜よ!命を、命をなんだと思っているの!」
アリーシアが、耐えきれずに叫んだ。
その、あまりに真っ当な怒りの声に、ヴェルギリウスは、心底不思議そうに、小首を傾げた。
「おもちゃ?違うね。これは、崇高な科学の探求であり、芸術の創造だ」
彼は、穏やかな口調のまま、常軌を逸した言葉を続けた。
「君たちが、小麦粉をこねて、パンという別の形に変えるのと、私が、生命を分解し、キメラという別の形に組み替えることに、一体、何の違いがあるというのかね?」
その言葉を聞いた瞬間、俺たちは悟った。
ダメだ。こいつには、通じない。
俺たちの倫理観も、常識も、命の尊厳も、この男の前では、何の意味も持たない。彼と俺たちは、全く違う世界の、全く違う法則で生きているのだ。
仲間たちが、その底知れない狂気に、戦慄する。
その、絶望的な沈黙の中だった。
うずくまっていたセレスが、震える体で、ゆっくりと顔を上げた。
その瞳は、もう、虚ろではなかった。
聖職者としての慈愛でも、絶望の涙でもない。
彼女の瞳に宿っていたのは、目の前の「悪」に対する、明確な、そして燃え盛るような「敵意」の光だった。
神に祈ることをやめた聖女は、今、自らの手で悪を討つ、一人の戦士として、静かに立ち上がろうとしていた。
魂の叫びを背に受けながら、その元凶がいるであろう、施設の最深部へと。
そして、巨大な鋼鉄の扉を開けた先で、俺たちは、再び言葉を失った。
そこは、これまでの薄暗く汚れた空間とはまるで違う、壁も、床も、天井も、すべてが継ぎ目のない純白の素材でできた、眩しいほどの研究室だった。
部屋の隅には、巨大な脳が培養液に浮かぶ装置や、見たこともない複雑な機械が、静かに駆動音を響かせている。消毒液よりもさらに刺激的な、オゾンのような匂いが、非自然的なまでの清潔さを物語っていた。
その、純白の部屋の中央に、一人の男が立っていた。
塵一つない真っ白な白衣。綺麗に整えられた髪。穏やかな笑みを浮かべて、彼は、まるで歓迎するかのように、パチ、パチ、とゆっくり拍手をした。
「ようこそ、諸君。私の『創造の庭(ガーデン)』へ」
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その知的な風貌とは裏腹に、彼の瞳の奥は、氷のように冷たく、一切の感情を映していなかった。
「君たちのような、規格外の能力を持つイレギュラーなサンプルが、自らここまで足を運んでくれるとは。実に効率的だ。研究の手間が省ける」
彼は、嬉々として語りかける。その言葉に、ジンが怒りを露わにした。
「てめえ…!外の惨状を見やがったのか!あれがてめえのやったことか!」
「ああ、私の『作品』たちのことかね?」
ヴェルギリウスは、壁の巨大なモニターを起動させ、そこに複雑な遺伝子配列のような図形を映し出した。そして、まるで子供が自分の作ったおもちゃを自慢するように、誇らしげにプレゼンテーションを始めた。
「種族間の壁、個体差、寿命、そして感情…。これらは全て、生命が進化の過程で捨てきれなかった、実に非効率的な『バグ』に過ぎない。私は、そのバグを修正し、あらゆる優れた遺伝子を統合し、完璧な生命体…すなわち、『神』を創造しているのだよ」
モニターには、キメラの設計図や、天使の細胞の解析データらしきものが、次々と映し出されていく。
「これは冒涜よ!命を、命をなんだと思っているの!」
アリーシアが、耐えきれずに叫んだ。
その、あまりに真っ当な怒りの声に、ヴェルギリウスは、心底不思議そうに、小首を傾げた。
「おもちゃ?違うね。これは、崇高な科学の探求であり、芸術の創造だ」
彼は、穏やかな口調のまま、常軌を逸した言葉を続けた。
「君たちが、小麦粉をこねて、パンという別の形に変えるのと、私が、生命を分解し、キメラという別の形に組み替えることに、一体、何の違いがあるというのかね?」
その言葉を聞いた瞬間、俺たちは悟った。
ダメだ。こいつには、通じない。
俺たちの倫理観も、常識も、命の尊厳も、この男の前では、何の意味も持たない。彼と俺たちは、全く違う世界の、全く違う法則で生きているのだ。
仲間たちが、その底知れない狂気に、戦慄する。
その、絶望的な沈黙の中だった。
うずくまっていたセレスが、震える体で、ゆっくりと顔を上げた。
その瞳は、もう、虚ろではなかった。
聖職者としての慈愛でも、絶望の涙でもない。
彼女の瞳に宿っていたのは、目の前の「悪」に対する、明確な、そして燃え盛るような「敵意」の光だった。
神に祈ることをやめた聖女は、今、自らの手で悪を討つ、一人の戦士として、静かに立ち上がろうとしていた。
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