無敵だけど平穏希望！勘違いから始まる美女だらけドタバタ異世界無双

第十章：最終決戦、神を創りし者

第50話：始まりの終わり、そして終わらない旅

「見よ！ 見よ！ これが！ 私が到達した神の領域だ！」

　仲間たちの決死の攻撃で半壊したネオ・バハムートの残骸と、ヴェルギリウスを繋いでいた無数のケーブルが、眩い光を放ちながら彼自身の体へと収束していく。玉座の間に吹き荒れるのは、聖なる力と冒涜的な科学が混じり合ったエネルギーの嵐。光が晴れた時、そこに立っていたのは、もはや人間ではなかった。

　機械の体、脈打つ肉塊、そして天使の翼が歪に融合し、その頭上にはねじくれた光の輪が浮かんでいる。神々しいのに、パーツのバランスが悪すぎて、見ていると不安になってくる。狂気の科学者がたどり着いた神の姿は、醜悪ながらも神々しい「偽神（デミウルゴス）」だった。

「私は神となった！ この世界の不完全な法則は私が書き換える！ くだらない感情にすがる弱い生命は全て消し去り、私の計算によって統治される、完璧で理想の世界を創造するのだ！」

　高らかに演説する偽神を前に、アルスはちらりと背後を振り返った。
　床に倒れ伏し、満身創痍ながらも、どこか満足げな顔で眠る仲間たち。ジンの口からは安らかな寝息（というかいびき）が聞こえ、アリーシアは眉間に深いシワを寄せながらも「…白衣…燃やす…」と寝言を言っている。
　アルスは、そんな彼らに向かって、誰にも聞こえないくらい優しく微笑んだ。

「よく頑張ったな。あとは、俺に任せろ」

　彼は静かに自分の左腕を掲げる。そこには、彼の暴走しすぎる力を抑えるために、ギデオンが作った制御用の腕輪が嵌められていた。アルスはそれに指をかけ、なんの躊躇もなく、力を込めた。

　パキン。

　乾いた音が響いた瞬間、世界から法則が消えた。
　玉座の間の幻想的な光が色を失い、不気味な機械音も止み、全ての時間が凍り付いたかのような絶対的な静寂が訪れる。アルスの体から放たれる純粋なエネルギーは、もはや魔力でも聖力でもなかった。それは、この宇宙が生まれる前の、始まりも終わりもない、根源そのものに等しい力だった。

「ふぅ。やっぱこれ、外すと肩が軽くなるな」
　そんな世界の危機とは全く関係ない感想を漏らしながら、アルスは首をコキリと鳴らした。

「な、なんだその力は！？ 私の計算にない！ ありえん！ 消えろ、イレギュラー！」
　偽神ヴェルギリウスが、その醜悪な体の全砲門から、星をも砕くという触れ込みの極大消滅エネルギー波を放つ。
「星辰滅殺砲（デリート・アステロイド）ォォォ！！」

「うるさい」
　アルスは、迫りくる終末の光を、人差し指一本でピン、と弾いた。エネルギー波は蚊を叩き落とされたかのようにあっけなく軌道を逸れ、あらぬ方向の壁に着弾し、要塞に巨大な風穴を開けた。風穴の向こうには、静かに輝く満天の星と、青い地球が見えていた。

「神、か」
　アルスは心底面倒くさそうに、ため息をつく。
「お前のは、ただの出来損ないのオモチャだ。子供が粘土で作った神様もどきの方が、まだ夢があるぜ」

「だ、だまれえええええ！」
　ヴェルギリウスが狂ったように攻撃を繰り出すが、その全てがアルスに届く前に霧散していく。

　アルスは静かに右手を掲げた。その掌の上に、小さな光が生まれる。光は瞬く間に広がり、そこにはまるで、新しい銀河が誕生するかのような、無数の星々が渦巻く壮大な光景が出現した。
　彼はそれを、まるで道端の石ころでも蹴飛ばすかのように、ただ静かに、偽神に向かって放った。

　派手な爆発はない。轟音もない。
　光に包まれたヴェルギリウスは、自分が作り変えようとした世界の理も、目の前の男が振るう根源的な力の理も、全てが無意味であることを悟りながら、テレビの電源が切れるように、ノイズと共に静かに消滅していった。

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　### エピローグ

　それから数週間後。
　戦いは終わり、「天空の揺り籠」は連合軍の手によって解体され、世界は少しずつ復興に向けて歩み出していた。

　王都の一角にある、活気あふれる食堂。
　窓から差し込む初夏の柔らかな日差しが、テーブルの上の湯気の立つ料理をきらきらと照らしている。窓の外では、風にそよぐ若葉が心地よい音を立てていた。そんな平和な光景の中で、一卓だけ、凄まじいカオスが渦巻いていた。

「いいこと！？ 次の旅のリーダーは、このわたくしに決まってますわ！ カリスマ性、判断力、そして美貌！ どれをとっても完璧でしょう！？」
「はぁ？ あんたに任せたら三日で食費が尽きるわよ！ 堅実な経済観念を持つこの私が適任に決まってるじゃない！」
　アリーシアとルーナが、快気祝いの席だというのに、早くも次の旅の主導権を巡って火花を散らしている。

「まあまあ、二人とも落ち着けって。そんなことより、そこの可愛い看板娘さん。この後、俺と一緒に新しい伝説、始めないかい？」
　ジンは全く聞く耳を持たず、エールを運んできた店員を口説くのに夢中だ。

　その横では、ソフィアが黙ってアルスの隣に座り、スプーンですくった熱々のシチューを「ふー、ふー」と冷ましてから、アルスの口元に差し出していた。
「アルス様、あーん…」
「いや、自分で食えるから！」

「ふふふ」「相変わらず、賑やかですね」
　そんな光景を、セレスとティアナが、まるで聖母と賢者のように微笑ましく見守っている。

　アルスは目の前で繰り広げられるカオスな光景に、心底うんざりしたように、しかし、その口元は確かに笑みを浮かべて、盛大にため息をついた。
　彼は飲み干したジョッキをドン、とテーブルに置くと、独り言のように呟いた。

「さて、」

「次の街の飯は、美味いかな？」

　その言葉に、瞬間、食堂の喧騒が嘘のように静まり返る。
　リーダー争いをしていたアリーシアとルーナが、ナンパをしていたジンが、シチューを差し出していたソフィアが、微笑んでいたセレスとティアナが、全員の視線を一斉にアルスへと向けた。

　そして、次の瞬間。
「「「「「ええええええええっ！？」」」」」

　彼らの、終わらない旅が、また始まる。
　そんな予感をさせたまま、物語は、仲間たちの賑やかな笑顔の中で、そっと幕を閉じるのだった。