『僕と彼女と、時々、世界の終わり(でも基本、彼女のことで頭がいっぱい!)』

Gaku

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第11話:最終決戦前夜と、それぞれの想い

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凍えるような冬の夜空が、一面に広がっていた。秘密基地の窓からは、漆黒の闇に、満月が皓々(こうこう)と輝いているのが見える。その月明かりは、雪を抱いた街路樹のシルエットを浮かび上がらせ、どこか厳粛な雰囲気を醸し出していた。星々は、まるで明日への不安を映し出すかのように、瞬きを繰り返している。風は完全に止み、しんとした静寂が世界を包み込んでいる。空気は澄み渡り、遠くの街の匂い、アスファルトの冷たい匂い、そして草木の枯れた香りが、微かに鼻をくすぐった。
秘密基地の作戦会議室は、厳粛な空気に包まれていた。白石が立案した、ディスパイアラー本拠地攻略のための最終作戦の確認が行われている。プロジェクターには、複雑な経路と、危険なディスパイアラーの配置図が映し出されている。
「…以上が、今回の作戦の最終確認だ。各員の役割、ルート、そして撤退経路。全て頭に叩き込んでおけ」
白石の声は、いつも通り冷静だったが、その奥に、極度の緊張が隠されているのが分かった。
凛さんは、テーブルに置かれた地図をじっと見つめている。剛田さんは、拳を握りしめ、静さんは顔色一つ変えず、リリは唇を強く噛みしめている。皆が、明日訪れるであろう、死と隣り合わせの戦いを覚悟していた。その場の空気は、張り詰めて、息をするのも苦しいほどだった。
会議が終わり、皆がそれぞれ自室に戻っていく。麗華様は、その場に座ったまま、深いため息をついた。俺は、そんな麗華様の隣にそっと寄り添った。彼女の手が、微かに震えているのが伝わってくる。
「…麗華様」
俺が声をかけると、麗華様はゆっくりと顔を上げた。その瞳は、深い不安と恐怖に揺らいでいる。
「…明日の作戦…全員の命がかかっているわ。もし、田中君に何かあったら…」
麗華様の声は、震えていた。彼女が、かつてないほどの不安と恐怖を感じているのが、痛いほど分かった。命を共有する俺にも、その感情が伝播してくる。
(麗華様が、俺のことを心配してくれてる!? ヤバい、尊い…!)
俺の脳内お花畑は、麗華様の心配する気持ちを、瞬時に「愛」に変換して処理していた。麗華様が、俺のために泣いてくれるかもしれない。そんな妄想が、俺の心を温かくする。
「麗華様…大丈夫です。俺がいますから」
俺は、震える麗華様の手を、そっと握りしめた。俺の体から、微かな温かさが、彼女の手に伝わるように。
「俺、麗華様と出会えて、本当によかったです」
俺は、心からの言葉を紡いだ。麗華様と出会えて、俺の人生は180度変わった。平凡で、何の取り柄もない俺が、麗華様と同じ命を共有し、共に世界の危機に立ち向かっている。こんな素晴らしいことがあるだろうか。
(もう死んでも悔いなし!!)
俺の脳内では、最高のBGMが鳴り響き、お花畑は宇宙の果てまで広がっていた。これまでの俺の人生は、麗華様と出会うための壮大なプロローグだったのかもしれない。
麗華様は、俺の言葉に、大きく目を見開いた。彼女の瞳に、みるみるうちに涙が溜まっていく。
「…田中君…」
麗華様は、しゃくりあげるように、声を詰まらせた。
俺の言葉は、麗華様にとって、自分の命を顧みない「自己犠牲的な愛の告白」と解釈されたのだ。絶望的な状況の中で、たった一人、何の迷いもなく、自分を支え、守ろうとしてくれる太郎の存在。その言葉が、彼女の心に、深く深く響いた。
「…私も…あなたと出会えて…」
麗華様は、それ以上、言葉を続けることができなかった。ただ、溢れ出る涙を、必死でこらえている。
(田中君…)
彼女の中で、太郎への尊敬と感謝、そして、これまでにない新たな感情が、深く根付いていく。それは、恋の激情とは異なる、穏やかで、しかし確かな「愛」の萌芽だった。彼は、自分の弱さを包み込み、光を与えてくれる存在だ。
麗華様は、太郎のためにも、この戦いを終わらせると、心の中で決意を新たにした。彼の真っ直ぐな言葉が、彼女の心を奮い立たせたのだ。
その夜、メンバーたちは、それぞれの想いを胸に、静かに過ごしていた。
凛さんは、自室で、古い写真立てを手に取っていた。そこには、彼女と、笑顔の少女が写っている。ディスパイアラーに奪われた、大切な妹。彼女の瞳には、怒りと悲しみ、そして、その両方が混じり合った複雑な感情が揺らいでいた。
「…待ってろよ、あいつら…」
彼女の呟きは、凍える夜空に吸い込まれて消えた。
静さんは、ベッドの上で膝を抱え、小さな声で歌を口ずさんでいた。それは、幼い頃、母親がよく歌ってくれた子守唄だった。彼女の瞳からは、大粒の涙がとめどなく溢れている。
「…ごめんなさい…ごめんなさい…」
愛する家族を、自らの手で葬らなければならなかった過去。その罪悪感と悲しみが、彼女の心を深く縛り付けていた。
剛田さんは、秘密基地のトレーニングルームで、黙々とバーベルを上げていた。彼の体からは、湯気のように汗が立ち上っている。
「…もっと…強くならねぇと…」
彼の瞳には、仲間を守りたいという、ただそれだけの純粋な願いが宿っていた。大切な仲間を、二度と失いたくない。その一心で、彼はひたすら己の肉体を鍛え続けてきたのだ。
リリは、自室のベッドで、スマホの画面をじっと見つめていた。画面には、かつての友人と撮った、楽しそうな写真が映っている。彼女は、恐怖を隠すために、いつも明るく振る舞ってきた。だが、その内側には、いつ自分が、あるいは仲間が、消えてしまうかもしれないという、深い不安が渦巻いていた。
「…マジ無理なんだけど…」
彼女の呟きは、誰にも届かない。
俺は、自分の部屋で、麗華様との、今日の出来事を脳内で繰り返し再生していた。
(麗華様…俺のこと、好きになってくれたのかな…?)
俺の脳内お花畑は、幸福感で満たされている。麗華様の潤んだ瞳。震える声。俺の手を握ってくれた温かさ。
「麗華様のためなら…俺、どこへだって行けます!」
俺は、満月の光が差し込む窓辺で、強くそう誓った。
凍えるような冬の夜空には、満月が皓々と輝いていた。
星は瞬き、明日への不安を映し出す。
だが、その不安を打ち消すかのように、俺の心は麗華様への想いで満たされていた。
明日の最終決戦。俺は、麗華様を守るためなら、どんな地獄へだって行こう。
なぜなら、麗華様がいる場所は、俺にとって、常に天国だから。
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