なぜ勇者は地獄に落ちたのか?

Gaku

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第8話:善意がもたらした『停滞』

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 虚無。

 アレスの魂は、今やその一言でしか表現できない状態にあった。

 時の流れさえも凍てついたかのような、底なしの静寂が支配する冥府。そこは光も闇も意味をなさず、ただ永遠の灰色が無限に広がる空間だった。かつて彼の魂を燃え立たせた情熱の炎は、今はもう灰すら残さず消え失せている。足元には、砕け散った英雄という名の偶像の破片が、かつての輝きを失ったまま転がっていた。彼が命を賭して信じ、守り抜こうとした正義は、冥王ハデスの手によって、残酷なまでに精緻な虚構であったと暴かれた。

 魔王討伐の旅路で流した血は、無辜の民の血だった。救ったはずの村は、彼の介入によって内側から崩壊する運命を辿った。その一つ一つの所業が、彼の輝かしい武勲として世界に語り継がれていること自体が、もはや悪趣味な喜劇でしかなかった。彼は、神々の掌の上で踊らされた道化であり、自らの正義を疑うことすらなかった愚者であり、そして何よりも、おびただしい数の命を奪った加害者だった。

 その事実は、彼の精神を支える全ての柱――誇り、信念、仲間との絆、そして自己肯定という名の礎――を根こそぎ抜き去っていった。彼は今、自らの魂が変貌した広漠たる廃墟の中心に、ただ独り崩れ落ちている。瓦礫と化した記憶の中で、風の吹く音すらしない。完全な無。これ以上の絶望など、あり得るはずがなかった。冥王が次に何を告げようと、彼の心にはもはや響くまい。傷つくべき心そのものが、もう存在しないのだから。

 だが、冥府の王は、まだ裁きを終えてはいなかった。

 玉座からゆっくりと立ち上がったハデスは、その影だけで空間をさらに冷たく沈ませるかのような威圧感を放ちながら、床に崩れ落ちたままのアレスを静に見下ろしていた。その瞳は、裁く者の冷酷さとも、憐れむ者の慈悲とも違う、ただ真理を映す鏡のような深淵さを湛えている。やがて、裁きの終わりを告げるかのように、重々しく口を開いた。

「勇者アレス。お前の最後の、そして最大の罪を告げよう」

 その声は、これまで以上に低く、そして深く響いた。それは冥府の淀んだ空気を震わせるだけでなく、アレスの魂の最も奥深い、虚無に覆われたはずの核にまで直接届くような、抗いがたい響きを持っていた。

「お前の最大の罪は、お前の**『善意』**そのものだ」

 その言葉に、アレスの虚ろな瞳が、千年の時を経て初めて動くかのように、わずかに反応した。塵芥と化していたはずの意識の片隅で、理解不能な響きが反芻される。彼はゆっくりと、錆びついた機械のようにぎこちなく顔を上げた。首を動かすという単純な動作さえ、永遠の重労働のように感じられた。魂が抜け落ちた空洞から漏れるような声で、彼は呟いた。

「善意…が…罪…だと…?」

 善意。

 その言葉だけが、この瓦礫の山の中で、唯一汚されずに残っていたはずの宝石ではなかったか。たとえ彼の行いが全て過ちだったとしても、たとえ神々に利用されていただけだとしても、その根源にあったはずの想い。世界を覆う悲しみをなくしたい、虐げられる人々を救いたいという、一点の曇りもないと信じていた願い。それまでもが、罪だというのか。その最後の砦までもが、偽りだったとでもいうのか。

 ハデスは答えなかった。沈黙は、時にいかなる雄弁よりも残酷な肯定となる。王はただ、その白く長い指を虚空へとかざした。すると、アレスの前方の空間が水面のように揺らめき、最後の映像が、巨大な窓のようにして冥府の灰色の世界に映し出された。

「お前が『救った』世界の、その後の姿だ。お前の善意が、何をもたらしたのか。その目でよく見るがいい」

 映し出されたのは、アレスがかつて夢にまで見た、理想郷そのものの光景だった。

 季節は初夏だろうか。空は高く澄み渡り、柔らかな陽光が、どこまでも広がる豊かな田園風景を黄金色に照らし出している。かつて魔物の軍勢が蹂躙し、あるいは領主たちの戦乱で荒れ果てていた大地は、今や見事な緑の絨毯で覆われている。戦争も、魔物の脅威も、人々を苛む大きな災害もない。そよぐ風は穏やかで、花の甘い香りをかすかに運んでくるようにさえ見える。まさに、アレスが命を賭して築き上げようとした平和そのものの世界だった。

 しかし、その完璧な光景には、何かが決定的に欠けていた。

 活気がないのだ。生命の息吹が感じられない。

 緑豊かな田畑に、働く農民たちの姿はなかった。代わりに、アレスが魔術師たちと協力して作り上げた「半永久的に作物を実らせる自動農場」が、静かに稼働している。大地には幾何学的な文様が刻まれ、その溝を淡い魔力の光が川のように流れていく。光に照らされた作物は、定められた周期で、定められた大きさまで成長し、機械仕掛けのアームによって自動的に収穫され、集積所へと運ばれていく。そこには、天候を読み、土と語り、作物の顔色を窺う農夫の知恵も経験も必要ない。ただ、システムが生産する食料を、人々は享受するだけ。

 アレスは、かつて訪れた農村の情景を思い出した。初夏の強い日差しの中、汗を拭いながら鍬を振るう男たちの力強い背中。井戸端で洗濯をしながら、朗らかに笑い合う女たちの声。泥だらけになって走り回り、時折母親に叱られている子供たちの姿。収穫祭の夜には、誰もが手を取り合って踊り、素朴だが心のこもった料理と酒を分かち合った。不作の年には共に嘆き、知恵を出し合って乗り越え、豊作の年には共に笑い、神と大地に感謝を捧げた。そのすべてが、生きるという実感そのものだった。

 だが、映像の中の農民たちは、家の軒先の日陰で、ぼんやりと虚空を見つめているだけだ。より美味い作物を作ろうという探求心も、万が一の不作に備えようという工夫も、そこにはない。彼らの顔には喜びも悲しみもなく、ただ緩慢な退屈だけが張り付いている。風が吹き、木々の葉がさらさらと音を立てる。それは美しい音のはずなのに、人々の活気という伴奏を失ったその音は、ひどく空虚で、世界の孤独を際立たせるように響いていた。

 映像は、次に街の工房を映し出す。

 かつては、朝から晩まで活気ある槌音と、職人たちの威勢の良い掛け声が響き渡っていた場所だ。新しい剣の焼き入れをする火花が夜空を焦がし、革をなめす独特の匂いが路地に満ちていた。アレスは、そこで多くの職人たちと語り合った。より軽く、より強靭な鎧を。どんな過酷な状況でも決して折れない剣を。彼らの探求心とアレスの経験が融合し、数々の名品が生まれた。技術は日々進歩し、街は創造の熱気に満ち溢れていた。

 しかし、今の工房は静まり返っていた。聞こえるのは、窓の外で鳴く鳥の声と、時折響く、怠惰なため息だけ。職人たちは、アレスが普及させた「決して壊れることのない魔法の武具や道具」を、たまに埃を払う布で磨くだけの毎日を送っている。彼らの目は、かつての輝きを失い、ただ目の前にある完璧な道具を、美術館の管理人のように眺めているだけだ。技術革新は、アレスの死と共に、完全に止まっていた。いや、アレスが残した「完璧」によって、未来永劫、その必要性が奪われてしまったのだ。新しいものを創造する苦しみも、傑作を生み出す喜びも、もはやそこには存在しない。工房の隅では、蜘蛛が芸術的な巣を張っている。その精緻な巣だけが、この停滞した空間で唯一の「創造物」だった。

 次に、午後の日差しが傾き始めた広場が映し出される。人々が集い、語らう憩いの場のはずが、そこは醜い感情の吹き溜まりと化していた。

「おい、見たぞ!お前の家の木が、私の敷地に葉を一枚落とした!これは明白な権利の侵害だ!賠償しろ!」

 身なりの良い中年の男が、隣家の主に指を突きつけて叫んでいる。その声は甲高く、ヒステリックだ。

「何を言うか!その葉一枚で、お前に何の損害があるというのだ!それより、お前の子供の立てる物音が、私の安らかな昼寝を妨げた!精神的苦痛に対する慰謝料を払え!」

 隣家の主も負けじと怒鳴り返す。

 彼らの周りには人だかりができているが、誰も仲裁しようとはしない。ある者は面白そうに眺め、ある者は「自分には関係ない」とばかりにそっぽを向いている。かつて、人々は共通の脅威――魔物や戦争、飢饉といった、抗いがたい困難――に立ち向かうために、手を取り合い、助け合ってきた。些細な過ちは笑って許し、他人の痛みを自分のことのように感じ、分かち合う寛容さがあった。

 しかし、大きな困難や共通の敵がなくなった世界で、人々は守るべき共同体を失い、攻撃の矛先を内に、隣人に、最も身近な他者へと向け始めた。彼らの世界は、自分の家の敷地の中だけで完結し、その小さな権利を守るためだけに牙を剥き合う、卑近で矮小な存在に成り下がっていた。夕暮れのオレンジ色の光が、彼らの歪んだ顔を不気味に照らし出し、その影を長く地面に伸ばしている。それはまるで、彼らの魂の醜さを描き出しているかのようだった。

 映像は、静かに学校の教室へと移り変わる。

 窓から差し込む西日が、埃をキラキラと光らせている。清潔で、整然とした教室。子供たちは、アレスの時代では考えられないほど栄養状態が良く、上質な服を着ている。教師が、優しい声で「英雄アレスの物語」を語っていた。ちょうど、アレスが仲間たちと共に幾多の苦難を乗り越え、魔王城の玉座で魔王を討ち滅ぼした、物語のクライマックスだった。感動的な場面のはずだ。

 だが、一人の少年が、退屈そうに手を挙げて言った。その目は、物語への感動ではなく、冷めた分析の色を浮かべていた。

「先生、よく分かりません。そのアレスって人は、なんでわざわざ魔王と直接戦うなんて、非効率なことをしたんですか?魔王城に潜入して、食事に遅効性の毒を盛るとか、もっとスマートな方法はいくらでもあったはずですよね?正面から戦うなんて、リスク管理が全くなっていない。ただの無計画ですよ」

 その言葉に、別の少女も同意する。

「そうだよ。それに、仲間が傷つくとか、自分が死ぬかもしれないとか、そういうのって全部無駄なコストでしょ?苦労とか、根性とか、そういう精神論って馬鹿らしいと思う。結果が同じなら、最も安全で、最も楽な方法を選ぶのが合理的じゃない?」

 子供たちの言葉に、教室は「確かに」「その通りだ」という囁き声に包まれる。教師は困ったように微笑むだけで、それを否定できなかった。否定する言葉を、この世界では誰も持っていなかったからだ。

 勇気。自己犠牲。不屈の精神。困難への挑戦。

 そうした、かつて人間を人間たらしめていたはずの崇高な価値観は、アレスが作り上げた、どこまでも安全で効率化された平和な世界では、もはや「非合理的」で「理解不能」なものとして、物語の中だけで顧みられる、化石のような概念と化していた。子供たちの瞳は知性で輝いているが、そこには情熱の炎も、誰かを思いやる温かさも宿ってはいなかった。

 そして、最後に映し出されたのは、とある街の薄汚れた酒場だった。

 夜の帳が下り、安酒と煙草の煙、そして人々の不平不満が澱のように溜まった空間。そのカウンターで、一人の男が酔って管を巻いていた。彼は、かつてアレスと共に幾多の死線を戦い抜き、最後までアレスを信じ続けた無二の親友、戦士ゴードンの曾孫だった。

 男は、先祖が遺した名誉と財産を食いつぶすだけの、怠惰で傲慢な男に成り下がっていた。高価だがシミだらけの服を身につけ、贅肉のついた指で酒杯を弄びながら、周りの客に絡んでいる。

「俺のひい爺さんはな、あの勇者アレス様の、たった一人の親友だったんだぞ!分かるか、この血筋の価値が!お前ら下々とは違うんだよ!俺は生まれながらにして英雄の血を引いてるんだ!だから、お前らが俺に敬意を払って、この酒代を払うのは当然なんだよ!」

 彼の周りには、誰一人として尊敬の目を向ける者はいなかった。ただ、侮蔑と嘲笑が入り混じった冷ややかな視線が、彼の背中に突き刺さるだけだ。ゴードンは、富や名声のためではなく、ただ友と、世界の人々の平和のために戦った。その高潔な魂は、子孫には一片たりとも受け継がれなかった。アレスが残した「英雄の仲間」という肩書は、彼の怠惰な生活を保障するだけの、空っぽな特権に成り下がっていた。

 映像が、静かに消える。

 冥府の永遠の静寂と灰色が、再びアレスを包み込んだ。

 アレスは、その全てを、瞬き一つせずに見つめていた。息をすることさえ忘れて。

 自分が良かれと思って遺した、全てのものが。

 人々を苦しみから救うために作り上げた、全てのシステムが。

 結果として、人々の魂を内側からゆっくりと、しかし確実に腐らせ、世界の活力そのものを根こそぎ奪い去る、甘美な「毒」となっていた。

 安全と引き換えに、挑戦を。
 安定と引き換えに、成長を。
 安楽と引き換えに、喜びを。
 平和と引き換えに、寛容さを。
 そして、完璧なシステムの提供と引き換えに、人々から「生きる」という意味そのものを、奪ってしまったのだ。

 これまでの罪は、まだ言い訳の余地があったかもしれない。
 知らなかった。神々に利用されていた。騙されていたのだ、と。
 自分の無知や愚かさを呪うことはできても、その根源にある動機までを否定する必要はなかった。

 だが、これは違う。

 この結末は、誰かに強制されたものではない。
 誰かに騙されたわけでもない。
 百パーセント、純粋な、彼自身の「善意」がもたらした、最悪の、そして最も救いのない結末だった。

 世界を救いたい。その純粋な願いこそが、世界を最も緩やかに、そして残酷に殺す毒薬だったのだ。

 その瞬間。

 ゴトン、と乾いた音が、アレスの内なる世界で響いた。
 それは、彼の魂を支えていた最後の、そして最も純粋な柱が、ついに砕け散った音だった。彼の内面世界で、最後の光を放っていた灯台が、音もなく崩れ落ち、無限の闇に呑まれていく。

 絶望が、ついに彼の魂の最後のひとかけらまでをも、完全に呑み込んでいく。
 それは激しい感情の奔流ではない。ただ静かに、冷たい水が満ちるように、彼の存在の全てを虚無で満たしていく。後悔も、悲しみも、怒りさえも、もはや形を結ぶことはない。それらの感情が生まれるべき土壌そのものが、塩で清められたように、完全に死に絶えたのだ。

 もはや、彼の瞳には、何の光も残ってはいなかった。
 それは、死よりも深い、完全な虚無の色だった。
 生命の対極にある無。存在そのものの否定。
 勇者アレスの魂は、その瞬間、真に、そして永遠に消滅した。
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