無詠唱の俺、詠唱を知らなかった~転生SE(元25歳)、予測不能な仲間たちと『世界の理』を最適化する~

Gaku

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第19話:最終決戦・『八つの道』の調和

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その咆哮は、この世の「仕組み」そのものが引き裂かれる音だった。
学園の象徴であった時計塔が、雷に打たれたのではない、内側からの「歪み」によって、まるで乾いた粘土のように崩れ落ちていく。
激しい嵐の夜、王都アーリア魔法学園は、阿鼻叫喚の地獄と化した。
「な、なんだアレは!?」
「化け物だ! ドラゴ様が……ドラゴ様が化け物に!」
「結界が……学園の『守り』が消えてる!」
生徒たちが、絶望的な悲鳴を上げて逃げ惑う。
ドラゴ・ヴァイスの肉体を「器」として現世に「受肉」した高位の存在は、もはやドラゴの原型を留めていなかった。
引き裂かれた背中から生えた「異界の爪」は、天に向かって瘴気を吐き出し、その瘴気が大地に落ちるたび、地面が黒く腐り、そこから「歪み」の「欠片」たちが生まれ出た。
それは「生物」ではなかった。
この世界の「決まり事」を無視した、「あり得ない形」の影。
「守り」を失った学園に、その「歪みの欠片」たちが、最も弱い「存在」を目掛けて、一斉に殺到した。
「――総員、戦闘態勢! 生徒の避難を最優先! アレを王都に行かせるな!」
学園の教師陣が、決死の覚悟で「本体」――ドラゴの姿をした「それ」――の前に立ちはだかる。
その中心に、アーキバルド先生と、銀髪の転入生ルーンがいた。
「ルーン君! アレはもはや『召喚』ではない! あの肉体そのものが『門』と『本体』だ! 私が『流れ』を縛る! 君は、その『構造』を分解しろ!」
アーキバルドが、これまでにないほどの莫大な魔力を解放し、ドラゴの動きを封じ込める「光の鎖」を放つ。
「……分析中。危険。こちらの『仕組み』が通用しない」
ルーンは、感情のない灰色の目で「それ」を見据え、両手をかざす。
ルーンの周囲で、ドラゴから溢れ出す「歪み」が、まるで精密な手術で切り取られるかのように「分解」され、消えていく。
二人の教師が、「本体」を抑え込んでいる。
だが、その間に、防波堤を失った津波のように、「歪みの欠片」たちが学生寮へと向かっていく。
「――行かせない!」
そこに、ユウキ、リリア、カイト、ゴードン、シノが駆けつけた。
そして、彼らの後方、雨に打たれて立ち尽くす一人の少女がいた。
「……ありえ、ない。計算式が、成り立たない。私の『理論』が、意味をなさない……」
セレスティア・クラウンが、ルーンに「完璧」を分解されたあの日以来、初めて目にする「本物の混沌」を前に、恐怖で震えていた。
「ユウキ! みんな! あの『欠片』を止めるぞ!」
リリアが炎を構えるが、アーキバルドの怒声が、嵐を貫いて彼らに突き刺さった。
「馬鹿者どもッ!!」
先生は、巨大な「本体」を抑え込みながら、血を吐くような声で叫んだ。
「お前たちに、あの『本体』は抑えられん! そして『欠片』も殺せない! あれは『苦しみ』そのものだ! 殺せば、その『苦しみ』が飛び散り、新たな『欠片』を生むだけだぞ!」
「じゃあ、どうしろって言うんだよ!」
カイトが叫び返す。
「道は『八つ』あるッ! お前たちが『今、ここ』で為すべき『正しい道』を選べ!」
アーキバルドは、生徒たち一人一人に、その「道」を叩きつけた。
「セレスティアーーッ!」
「ひっ!?」
恐怖で竦み上がっていたセレスティアの背筋が、名指しされて伸びる。
「『正しい見方』をしろッ! お前のその『完璧な理論』を捨てろ! お前が今見るべきは『教科書』じゃない! 『今、そこ』で起きている『現象』そのものだ! あれは『敵』ではない! 『法則』の『乱れ』だ! 乱れなら、どうする!?」
セレスティアは、涙目で「欠片」を見た。
それは不規則に動いているように見えて、ある「周期」で歪んでいる。
「……乱れ、なら……『逆の波』を……ぶつければ……『中和』できる……?」
「カイト! ゴードン!」
「「応!」」
「『正しい行い』をしろ! 貴様らの『行い』は『破壊』か!? 違うだろ! 貴様らは『仲間』を守る『壁』となれ! シノを守れッ! 彼女が貴様らの『中心』だ!」
二人は顔を見合わせ、武器を「攻撃」のためではなく、「防御」のために構え直し、シノの両脇を固めた。
「シノ・ミヅキーーッ!」
「は、はい!」
「『正しい努力』をしろ! お前の『恐怖』という『執着』で立てた『拒絶の壁』は、今度こそ『苦しみ』に食い破られるぞ! 奴らを『拒むな』! 『受け入れろ』! そして『流せ』! 『私』を『無』にして、奴らの『流れ』そのものを利用する『調和の壁』を立てろ!」
シノは、あのドラゴとの模擬戦を、そしてルーンの「無」を思い出す。
彼女は目を閉じ、震えながらも、両手を広げた。
彼女の前に展開された「壁」は、いつもの「硬い氷」ではなく、「しなやかな水流」のような、見たことのない「結界」だった。
「そして、リリア・サンシャインッ!」
「……っ!」
「『正しい言葉』を使え! お前の『怒り』は、奴の『燃料』にしかならん! あの『化け物』を攻撃するな! あの『中身』に呼びかけろ! お前のその『声』だけが、あの『化け物』の『鎧』を貫き、中にいる『本物』の『真の名前』を呼び起こせるんだ! 叫べ! お前の『本当の言葉』で!」
リリアは、振り上げた炎を、戸惑いながら、ゆっくりと下ろした。
アーキバルドは、すべての「道」を示した。
だが、その「道」は、バラバラだった。
ユウキ・アマネだけが、その「道」の「交差点」に立っていた。
彼は、先生からの「指示」を待っていたのではない。
彼は、先生が、自分に「何も言わなかった」意味を、正確に理解していた。
(セレスティアが『目』だ)
(カイトとゴードンが『腕』だ)
(シノが『盾』だ)
(リリアが『声』だ)
(全部、最高の『部品』だ)
(でも、バラバラだ。このままじゃ、何も起きない)
(先生が俺に言った。『お前の「無詠唱」は「仕組み」の「穴」だ』と)
(そうだ。俺の力は『普通』じゃない)
(だからこそ!)
(この『バラバラの道』を、俺の『普通じゃない力』で『繋ぎ合わせる』!)
ユウキは、詠唱を捨てた。
杖を構えるのをやめた。
彼は、オーケストラの「指揮者」のように、両手を静かに広げた。
彼の「無詠唱」が、初めて、他者のために「流れ」始めた。
ユウキは、セレスティアの「目」と、シノの「盾」を『接続』する。
ユウキは、カイトとゴードンの「腕」を、シノの「盾」に『接続』する。
奇跡が起きた。
いや、奇跡ではない。
「起きるべくして起きた」、新しい「仕組み」だった。
「欠片」がシノの「調和の壁」に殺到する。
セレスティアが叫ぶ。
「パターンA! 逆位相、三時方向へ!」
シノの「壁」が、セレスティアの「目」が捉えた「乱れ」を受け流し、「欠片」の「流れ」そのものを、あらぬ方向へと逸らしていく。
「欠片」の攻撃が逸らされた先で、カイトとゴードンが「壁」を殴りつけ、その衝撃で「壁」を補強する。
彼ら五人が、まるで、生まれながらにそうであったかのように、一つの「生き物」として機能し始めた。
「歪みの欠片」たちは、彼ら五人が生み出した「予測不能な『調和』」の中で、行き場を失い、次々と自滅していく。
「す、すごい……」
セレスティアが、自らの「理論」が「現実」と融合していく様に、戦慄していた。
「今だ!」ユウキが叫んだ。
「学生寮への道は、俺たちが守る! リリア! お前の『道』を!」
リリアは、仲間たちが作り出した「安全な場所」の中心で、固く目を閉じていた。
そして、目を開き、嵐の中心――いまだアーキバルドとルーンに押さえつけられている「それ」を、真っ直ぐに見据えた。
彼女は、炎を纏わない、ただの「声」を放った。
「ドラゴ!!」
「それ」が、リリアの「音」に反応し、動きを強める。
「ドラゴ! 聞こえてるんでしょ!」
リリアは泣いていた。
怒りでも、恐怖でもない。
ただ、悲しかった。
「ごめん! 私、何もわかってなかった! あんたが苦しんでたの、気づかなかった! でも、だからって! こんなの間違ってる!」
「それ」は、リリアを「異物」と認識し、アーキバルドの拘束を振り切り、リリアに向かって「瘴気の腕」を振り上げた。
「リリア! 避けろ!」ユウキが叫ぶ。
だが、リリアは動かなかった。
「ドラゴ! 帰ってきてッ!!」
その「言葉」が、嵐の音も、瘴気の咆哮も、すべてを貫いた、その瞬間。
ピタリ。
世界から、音が消えた。
ドラゴの姿をした「それ」の、振り上げられた「爪」が、リリアの鼻先で、
止まった。
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