ミステリー研究会は、謎を解かない

Gaku

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第二部:深まる謎とメンバーの過去

第8話「開かずのタイムカプセルと過去からの眼差し」

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八月。夏は、その絶頂にあった。
空は、乳白色の薄い霞(かすみ)がかかり、青色でさえも、熱を帯びて、白っぽく褪せて見える。太陽は、もはや一点の光源ではなく、空全体から、じわり、じわりと、世界を焙り出す、巨大な熱源と化していた。
風は死に、空気は、まるで蜂蜜のように、とろりと、重く、肌にまとわりつく。ミンミンゼミとアブラゼミの鳴き声が、互いに音量を競い合うように、空間の隙間をすべて埋め尽くし、その単調なドローンは、思考そのものを、ゆっくりと麻痺させていくようだった。時間が、溶けて、引き延ばされた、そんな、気怠い午後。
ミステリー研究会の事務所も、その例外ではなかった。旧式のエアコンは、とうに戦うことを放棄し、ただ、ぬるい空気をかき回しているだけ。俺たちは、夏の暑さという、抗いようのない絶対的な力の前で、それぞれ、無力な姿を晒していた。
麗華さんは、床に寝そべり、「ああ、干からびてしまう…麗しの花も、水がなければ、ただの枯れ草…」と、悲劇の台詞を呟いている。権田さんは、巨大な体を持て余し、椅子の上で、まるで冬眠中の熊のように、じっと動かない。
『体感温度、40度を突破。全メンバーの活動レベルが、著しく低下しています』
電脳のスピーカーから、どこか諦観を帯びた、合成音声が流れた。画面のAAは、溶けてしまったような顔『(¦3[___]』をしていた。
俺も、ソファに深く体を沈め、ただ、窓の外の、陽炎で揺らめく景色を、ぼんやりと眺めていた。こんな日は、何かを考えることさえ、億劫になる。
だが、この事務所の主、影山さんだけは、違った。
彼は一人、涼しげな顔で、デスクに置かれた、年代物の地球儀を、指先で、ゆっくりと、回していた。まるで、この、停滞した時間の流れの外に、一人だけ、存在しているかのように。
その、気怠い均衡を破ったのは、カラン、と鳴った、ドアベルの音だった。
現れたのは、落ち着いた雰囲気の、二十代後半の女性だった。白いブラウスに、涼しげな麻のスカート。その手には、一枚の、色褪せた写真が、大切そうに握られていた。
「あの…ご相談が、ありまして」
女性は、橋本と名乗った。彼女の声は、夏の気怠さに、よく似合う、穏やかで、少しだけ、物悲しい響きを持っていた。
彼女の依頼は、その一枚の写真に関するものだった。
差し出された写真には、緑豊かな公園のベンチに座る、一人の男性が写っていた。彼女の、亡くなった父親だという。写真の中の父親は、柔和な笑みを浮かべているが、その瞳の奥には、どこか、深い悲しみのようなものが、湛えられているように見えた。
「この写真…父が亡くなった後、遺品の中から見つけたんです。でも、いつ、どこで撮られたものなのか、家族の誰も、覚えていなくて…。ただ…」
彼女は、言葉を選んだ。
「この写真を見ていると、胸のあたりが、きゅっ、となるんです。何か、とても大切なものが、ここにあるはずなのに、それが何なのか、思い出せない…。そんな、歯がゆいような、切ないような気持ちになるんです」
失われた、記憶の断片。写真に込められた、謎。
影山さんは、ルーペを取り出し、その写真を、食い入るように見つめた。
「ふむ…。過去の一瞬を切り取った、静的な記録媒体。しかし、それが、現在を生きる者の感情を、動的に揺さぶっている…。これは、時空のパラドックスだ!『記憶に憑りつく写真(ホーンテッド・メモリー)』事件と名付けよう!」
その、大げさな命名に、橋本さんは、少し、戸惑ったような顔をした。
だが、その瞳の奥には、藁にもすがるような、切実な思いが、浮かんでいるのが、俺には分かった。

「過去の記憶が、分からないのなら、答えは一つだ」
影山さんは、ホワイトボードの前に立ち、自信満々に言った。
「過去へ、行けばいい」
「「「ええっ!?」」」
俺と橋本さんの、驚きの声が、重なった。
「ボス、まさか…!」
麗華さんの目が、期待に輝く。
「そうだ。これより、我々は、人類の長年の夢、『時間遡行(タイムトラベル)』を、敢行する!」
無茶苦茶だ。この人は、何を言っているんだ。
だが、権田さんは、「タイムトラベル!?すげえ!恐竜に会えるのか!?」と、目を輝かせている。この人は、話が、飛躍しすぎだ。
「しかし、どうやって…」
俺が、至極まっとうな疑問を口にすると、電脳が、待ってましたとばかりに、スピーカーから答えた。
『理論上は、可能です。この写真に残留する、微弱な『時間粒子(クロニトン)』を解析し、その座標を特定。そして、局所的な時空を、強力なエネルギーで、歪めることができれば…』
「よし!ならば、早速、『時間移動装置(タイムマシン)』を、建造するぞ!」
影山さんの号令で、ミステリー研究会史上、最も、馬鹿馬鹿しく、そして、壮大なプロジェクトが、幕を開けた。
俺たちは、事務所の備品や、近所のホームセンターで買ってきた、ガラクタを、部屋の中央に集めた。
まず、本体となるのは、権田さんが、どこからか、もらってきた、巨大な冷蔵庫の段ボール箱だ。その表面に、麗華さんが、アルミホイルを、丹念に貼り付けていく。
「いいこと?時間旅行には、宇宙線の影響を、遮断しなければならないわ。この、特殊な金属膜が、我々の身を守ってくれるはずよ」
それは、ただの、キッチン用のアルミホイルだ。
次に、電脳が、事務所の隅で、埃をかぶっていた、古い電子レンジを、段ボール箱の正面に、ガムテープで固定した。
「この、マグネトロンから放射される、マイクロ波が、時空の構造に、干渉するはずです。理論上は」
その、最後の、「理論上は」という一言が、ひどく、不安を煽る。
麗華さんは、その周りを、クリスマス用の、点滅するLEDライトで飾り付け、マジックで、古代ルーン文字のような、意味不明な記号を書きなぐっていく。
「これは、時間と空間の、調和を祈る、古の呪文よ!」
そして、権田さんが、どこからか、引っ張り出してきた、エアロバイクを、タイムマシンの横に設置した。無数のケーブルが、バイクと、段ボール箱を、繋いでいる。
「こいつが、動力源だ!俺が、光の速さで、ペダルを漕げば、凄まじいエネルギーが生まれるはずだ!」
物理法則を、完全に、無視した理論。
かくして、数時間後。
事務所の中央には、アルミホイルと、電子レンジと、電飾で飾られた、巨大な段ボール箱が、鎮座していた。それは、小学生の夏休みの工作にしか、見えなかった。
依頼人の橋本さんは、その、あまりにも、前衛的なオブジェを、ただ、唖然として、見つめている。
「さて、準備は整った」
影山さんは、満足げに、その「タイムマシン」を見渡した。
「だが、その前に、だ。電脳、まずは、この『遺物(アーティファクト)』を、解析したまえ。時間座標の、特定が、先決だ」
そう言って、影山さんは、橋本さんの父親の写真を、電脳に手渡した。
『了解。高解像度スキャナーで、画像をデジタル化。クロニトン粒子の残留濃度を、分析します』
電脳は、写真をスキャンし、そのデータを、メインモニターに表示した。色褪せた写真が、鮮やかな、デジタルの光として、蘇る。
『…ふむ。画像の劣化が激しいですね。フレーム補間アルゴリズムを実行し、撮影前後の状況を、推測してみます』
電脳が、キーを叩いた。
その、瞬間だった。
モニターに映し出されていた、静止画が、ぐにゃり、と歪んだ。
そして、ほんの、一秒にも満たない、ごく、ごく、短い時間。
その、静止画が、動いたのだ。
写真の中の、木々の葉が、夏の風に、そよいだ。
父親の、髪が、微かに、揺れた。
そして、背景。誰もいなかったはずの、公園の、そのブランコが、ゆっくりと、揺れていた。
そこには、一人の、小さな女の子が、座っていた。
白い、シンプルなワンピースを着た、少女。
その少女は、楽しそうに、ブランコを漕ぐと、ベンチに座る、橋本さんの父親の方を、振り返った。
そして、次の瞬間。
少女は、ゆっくりと、こちら側を…モニターの、こちら側を、見つめて、そして、寂しそうに、ふわり、と、微笑んだ。
それは、俺が、この事務所で、初めて、見た、あの、影。
間違いなく、あの、少女だった。
次の瞬間、画像は、また、元の、静止画に、戻っていた。
「…あれ?」
電脳が、首を傾げるようなAA『(。´・ω・)?』を表示した。
『アルゴリズムに、バグがあったようです。背景データから、存在しないはずの、ゴースト画像を、生成してしまいました。これでは、使えませんね。失敗です』
電脳は、そう、あっさりと、結論付けた。
だが、俺たちは、見てしまった。
「今のは…」麗華さんが、息を呑む。
「なんだよ、今の、ガキ…」権田さんが、低い声で、呟く。
橋本さんも、信じられない、という顔で、モニターを、見つめていた。
俺は、影山さんを見た。
彼の顔は、能面のように、無表情だった。
だが、机の上に置かれた、彼の手は、指の関節が、白くなるほど、強く、強く、握りしめられていた。
彼は、見ていた。
彼の、探している、過去の、その幻を。
ソラの、姿を。

「よし!気を取り直して、タイムトラベルを、決行するぞ!」
影.山さんは、自らの動揺を、隠すかのように、ことさらに、明るい声で、言った。
俺たちは、まだ、先程の幻影の、ショックから、立ち直れないまま、その、馬鹿げた儀式に、参加することになった。
橋本さんの父親の写真が、タイムマシンの中核である、電子レンジの中に、そっと、置かれた。
「権田!エネルギー充填、開始!」
「おう!」
権田さんが、エアロバイクにまたがり、凄まじい勢いで、ペダルを漕ぎ始めた。
「麗華!時空安定の、祈りを!」
「ええ!オーム・マニ・パドメ・フーム…!」麗華さんが、謎の呪文を、唱え始める。
「電脳!時空座標、セット!」
『目標、クロニトン座標、35.7、139.8!理論上は、この公園のはずです!』
「タイムマシン、起動!!」
影山さんが、叫ぶと同時に、俺は、電子レンジの、スタートボタンを、押した。
ブーーーーーン…。
電子レンジが、低い、唸り声を上げる。
段ボール箱に取り付けられた、LEDライトが、激しく、点滅する。
権田さんの漕ぐ、ペダルが、火を噴きそうだ。
そして、数十秒後。
チーーーン!
間の抜けた、軽やかな音が、事務所に、響き渡った。
電子レンジの扉を開けると、中から、もわり、と、煙が立ち上る。
写真が、熱で、少しだけ、丸まっていた。
…もちろん、何も、起こらなかった。
事務所は、相変わらず、気怠い、夏の午後のままだった。

「…やっぱり、無理、でしたね」
橋本さんが、残念そうに、でも、どこか、おかしそうに、笑った。
この、あまりにも、馬鹿げた、大騒動。その、ひたむきさが、彼女の心を、少しだけ、軽くしたのかもしれない。
「…いえ」俺は、言った。「一つだけ、方法が、残ってます」
「え?」
「この、写真に写ってる、公園に、行ってみませんか」
俺たちは、結局、最も、原始的で、確実な、方法を、選んだ。
写真の公園は、電車を乗り継いだ、隣の市に、実在した。
そこは、まるで、時間の流れから、取り残されたかのような、古い、静かな公園だった。鬱蒼と茂った、楠(くすのき)の巨木が、濃い、涼しげな影を、地面に落としている。蝉の声だけが、この場所にも、夏が、訪れていることを、告げていた。
俺たちは、写真と同じ、ベンチを見つけ、そこに、腰を下ろした。
橋本さんは、自分の父親が、かつて、ここに座っていたのかと、感慨深げに、ベンチを、そっと、撫でた。
その時だった。
「…あんたがた、その写真のことで、何か、用かね?」
しわがれた声に、振り返ると、そこには、一人の、老人が立っていた。この公園の、清掃員らしい。
老人は、橋本さんが持つ写真を見ると、懐かしそうに、目を細めた。
「…ああ、この人、覚えとるよ。奥さんを、亡くされてから、毎年、同じ日に、ここへ、一人で、来ておられた」
「え…」
「わしが、一度、訳を尋ねたらな、教えてくれたんだ。この公園は、その人が、奥さんと、初めて、会った、思い出の場所なんだと。それで、奥さんの命日…いや、違うな、結婚記念日か。その日に、毎年、ここで、一人、奥さんのことを、偲んでおられたんだよ」
老人は、続けた。
「この写真も、わしが、撮ってやったんだ。あまりに、寂しそうな、でも、幸せそうな顔を、しておられたからな。一枚くらい、思い出を残しておいたらどうです、ってな」
橋本さんの瞳から、大粒の、涙が、こぼれ落ちた。
彼女が知らなかった、父親の、物語。
彼女が感じていた、写真からの、切なさの、正体。
それは、亡き妻を、深く、深く、愛し続けた、一人の男性の、静かで、そして、揺るぎない、愛情の、記憶だった。
彼女は、失われたピースを見つけ、ようやく、心の中の、父親の、パズルを、完成させることが、できたのだ。
その、涙は、夏の、気怠い午後の、空気に、静かに、溶けていった。
過去へ、行くことは、できなかった。
だが、俺たちは、確かに、写真に、封じ込められた、過去の、想いに、触れることが、できたのだ。
そして、あの、モニターに映った、少女。
彼女もまた、この、思い出の場所に、漂う、強い、強い、想いに、引き寄せられて、現れたのかもしれない。
会いたい。
あの、切実な、メッセージ。
それは、橋本さんの父親の、想いだったのか。
それとも、あの、少女自身の、叫びだったのか。
謎は、まだ、解けない。
だが、俺たちの、ミステリーは、確かに、その、核心へと、近づきつつあった。

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