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スピンオフ「剣と精霊の章」
計画
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数ヶ月前――パルドウィン内のカフェ、個室にて。
お洒落な内装には見合わない二人が、個室に詰めていた。片方は落ち着かない様子でソワソワとしており、もう片方は店に倣って紅茶を啜っている。
彼らは殺しの依頼主と、暗殺者。
この場所に来ていたのも、仕事の打ち合わせをするためだった。
暗殺者は、個室であることと、飲食代は出すと言われたこともあってやって来たが、やはり自身には似つかわしくない場所だった。
「こんな小洒落た場所で、殺しの打ち合わせをすんのは初めてだよ」
「そうか。貴重な体験だろう」
依頼者がスッとテーブルの上にあるティーセットを押した。テーブルには二人分の紅茶が用意されており、暗殺者である彼にも飲むように勧めている。
正直に言えば、暗殺者は紅茶などという小洒落た飲み物よりも、エールや蒸留酒の方が好みだ。仕事終わりの一杯なんて、格別なくらいに愛している。
故に紅茶をおすすめされて、あからさまに顔を歪めた。
「要らないね」
「私の奢りだが?」
「……はあ、イタダキマスよ」
このままでは引かないと思い、男は渋々ティーカップに口をつけた。自身に似合わない紅茶の上品な香りが鼻をくすぐり、不思議な気持ちに襲われる。
そのまま勢いで一口、口内へと流し込む。すると男の表情は一変した。想像していた紅茶の味と、全く違っていたのだ。
根底にある茶の味は残っているものの、花の味が漂ってくる。
ただでさえ紅茶を飲むことに抵抗があったというのに、予想外の味を押し付けられたのだ。
男は勢いよく、口の中の紅茶を吐き出した。
「ブッ!? んだこの味! 花の味がするじゃないか、ゲホッゲホッ! まっっずいな!」
「はあ……。風情がない上に、依頼書が台無しじゃないか」
「お前のせいだからな!」
依頼主は濡れてしまった依頼書を拾い上げると、ポケットからハンカチを取り出してトントンと拭き始めた。
幸いにも文字が滲むことなど無く、あとから読み返しても読める程度であった。
「にしても、もっと人目のない場所じゃなくていいのか? 確かに個室だけど、ここじゃあ表の人間だって大量にいやがる」
「だからこそ紛れやすいのだ」
「ふーん。まあいいけどよ。でも入口に「監視してます」ってあるぜ」
「庶民のカフェ程度、所詮は衛兵が見て回る程度だろう。探知の魔術でさえ習得が――」
「あー、もういい。わかった、わかった! 早く仕事の話をしてくれよ」
依頼主が面倒な男だというのは、この短い間でよく知っていた。これ以上は話が長くなると思った暗殺者は、さっさと切り上げて仕事の話へと促す。
無理矢理話を切られた男は不快な表情をしつつも、「ごほん」と咳払いをして話を止めた。
胸ポケットから一枚の紙を取り出すと、テーブルの汚れていない場所へと置いた。
「これだ」
「似顔絵か」
男が取り出したのは似顔絵だった。その絵は誰がどう見ても幼い子供で、暗殺というよりも護衛という言葉が合いそうな対象だ。
似顔絵だけでは素性は把握できないが、顔立ちからしていいところの少年なのだと分かるほどだ。
年齢にそぐわぬ知性を持ち合わせたような、大人びた表情であった。
「おい、どう見てもガキなんだが」
「ああ、子供だ。お前は金さえ貰えれば、女子供構わず殺すと聞いたが」
「やるさ。聞いただけだ」
「今期のストロード学院の最優秀クラスに入学するはずだ。教師に成りすまし、少年を殺せ」
「で、報酬は?」
「これだ」
依頼主はまた別の紙を取り出す。今度取り出したのは、小切手であった。
男の手荷物が少ないことから、この場での現金のやり取りはないと思っていたが、その通りであった。
そこに記載されている金額を見て、暗殺者は目を丸くする。
あまりにも高額すぎるのだ。政治家や貴族、英雄レベルの人間を殺すときと近い額だった。
プロであり腕の立つ彼にとって、大物を相手することは少なくない。報酬金に国家レベルの大金を渡されるような大物も、相手にしたことだってある。
だが、相手は子供だ。この金額は過剰であり、異常だった。
「おいおい、桁が間違ってるんじゃねぇのか。ガキ一人殺すのに何だ、この大金は……」
「合っている。〝我々〟は何がなんでも、その子供に死んでもらわねばならないのだ」
「ふぅん。ま、やるけどよ」
「こちらは後処理もあるからな。事故に見せかけて殺せばさらに弾む」
「任せな」
条件はいくつか提示されたものの、相手は子供だ。彼にとっては朝飯前である。
子供を殺すだけで、大物レベルの金額を貰えるのならば、今回の仕事は楽だろう。
場所があの名門校であるストロード学院というだけあって、準備には苦労をするだろうが――その程度だ。
「おい、子供だからって油断をするなよ」
「なんだそれ」
「ラストルグエフの特訓を受けている子供だからな」
「へえ。ちょっとは楽しめそうじゃないか?」
依頼主の言葉でこの子供が、ただの子供ではないことはわかった。
今まで、ラストルグエフ関連での暗殺も受けたことがある。彼らを支持する派閥を、何人消したことか。
勇者自体が死んでからは、それに関連する仕事は激減したものの、魔王戦争直後は多く舞い込んだものだ。
とはいえ、ラストルグエフが直接師事している子供を相手にするのは、初めてのことであった。
「……はあ、くれぐれも慎重にな……」
「分かってる分かってる」
お洒落な内装には見合わない二人が、個室に詰めていた。片方は落ち着かない様子でソワソワとしており、もう片方は店に倣って紅茶を啜っている。
彼らは殺しの依頼主と、暗殺者。
この場所に来ていたのも、仕事の打ち合わせをするためだった。
暗殺者は、個室であることと、飲食代は出すと言われたこともあってやって来たが、やはり自身には似つかわしくない場所だった。
「こんな小洒落た場所で、殺しの打ち合わせをすんのは初めてだよ」
「そうか。貴重な体験だろう」
依頼者がスッとテーブルの上にあるティーセットを押した。テーブルには二人分の紅茶が用意されており、暗殺者である彼にも飲むように勧めている。
正直に言えば、暗殺者は紅茶などという小洒落た飲み物よりも、エールや蒸留酒の方が好みだ。仕事終わりの一杯なんて、格別なくらいに愛している。
故に紅茶をおすすめされて、あからさまに顔を歪めた。
「要らないね」
「私の奢りだが?」
「……はあ、イタダキマスよ」
このままでは引かないと思い、男は渋々ティーカップに口をつけた。自身に似合わない紅茶の上品な香りが鼻をくすぐり、不思議な気持ちに襲われる。
そのまま勢いで一口、口内へと流し込む。すると男の表情は一変した。想像していた紅茶の味と、全く違っていたのだ。
根底にある茶の味は残っているものの、花の味が漂ってくる。
ただでさえ紅茶を飲むことに抵抗があったというのに、予想外の味を押し付けられたのだ。
男は勢いよく、口の中の紅茶を吐き出した。
「ブッ!? んだこの味! 花の味がするじゃないか、ゲホッゲホッ! まっっずいな!」
「はあ……。風情がない上に、依頼書が台無しじゃないか」
「お前のせいだからな!」
依頼主は濡れてしまった依頼書を拾い上げると、ポケットからハンカチを取り出してトントンと拭き始めた。
幸いにも文字が滲むことなど無く、あとから読み返しても読める程度であった。
「にしても、もっと人目のない場所じゃなくていいのか? 確かに個室だけど、ここじゃあ表の人間だって大量にいやがる」
「だからこそ紛れやすいのだ」
「ふーん。まあいいけどよ。でも入口に「監視してます」ってあるぜ」
「庶民のカフェ程度、所詮は衛兵が見て回る程度だろう。探知の魔術でさえ習得が――」
「あー、もういい。わかった、わかった! 早く仕事の話をしてくれよ」
依頼主が面倒な男だというのは、この短い間でよく知っていた。これ以上は話が長くなると思った暗殺者は、さっさと切り上げて仕事の話へと促す。
無理矢理話を切られた男は不快な表情をしつつも、「ごほん」と咳払いをして話を止めた。
胸ポケットから一枚の紙を取り出すと、テーブルの汚れていない場所へと置いた。
「これだ」
「似顔絵か」
男が取り出したのは似顔絵だった。その絵は誰がどう見ても幼い子供で、暗殺というよりも護衛という言葉が合いそうな対象だ。
似顔絵だけでは素性は把握できないが、顔立ちからしていいところの少年なのだと分かるほどだ。
年齢にそぐわぬ知性を持ち合わせたような、大人びた表情であった。
「おい、どう見てもガキなんだが」
「ああ、子供だ。お前は金さえ貰えれば、女子供構わず殺すと聞いたが」
「やるさ。聞いただけだ」
「今期のストロード学院の最優秀クラスに入学するはずだ。教師に成りすまし、少年を殺せ」
「で、報酬は?」
「これだ」
依頼主はまた別の紙を取り出す。今度取り出したのは、小切手であった。
男の手荷物が少ないことから、この場での現金のやり取りはないと思っていたが、その通りであった。
そこに記載されている金額を見て、暗殺者は目を丸くする。
あまりにも高額すぎるのだ。政治家や貴族、英雄レベルの人間を殺すときと近い額だった。
プロであり腕の立つ彼にとって、大物を相手することは少なくない。報酬金に国家レベルの大金を渡されるような大物も、相手にしたことだってある。
だが、相手は子供だ。この金額は過剰であり、異常だった。
「おいおい、桁が間違ってるんじゃねぇのか。ガキ一人殺すのに何だ、この大金は……」
「合っている。〝我々〟は何がなんでも、その子供に死んでもらわねばならないのだ」
「ふぅん。ま、やるけどよ」
「こちらは後処理もあるからな。事故に見せかけて殺せばさらに弾む」
「任せな」
条件はいくつか提示されたものの、相手は子供だ。彼にとっては朝飯前である。
子供を殺すだけで、大物レベルの金額を貰えるのならば、今回の仕事は楽だろう。
場所があの名門校であるストロード学院というだけあって、準備には苦労をするだろうが――その程度だ。
「おい、子供だからって油断をするなよ」
「なんだそれ」
「ラストルグエフの特訓を受けている子供だからな」
「へえ。ちょっとは楽しめそうじゃないか?」
依頼主の言葉でこの子供が、ただの子供ではないことはわかった。
今まで、ラストルグエフ関連での暗殺も受けたことがある。彼らを支持する派閥を、何人消したことか。
勇者自体が死んでからは、それに関連する仕事は激減したものの、魔王戦争直後は多く舞い込んだものだ。
とはいえ、ラストルグエフが直接師事している子供を相手にするのは、初めてのことであった。
「……はあ、くれぐれも慎重にな……」
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