魔王アリスは、正義の味方を殺したい。

ボヌ無音

文字の大きさ
295 / 339
スピンオフ「剣と精霊の章」

期末試験と真実1

しおりを挟む
 ストロード学院、長期休暇直前。
 この数ヶ月の訓練と勉強の結果をテストするため、実技試験の時間を設けられていた。
 今まで習ってきたもののおさらいでもあり、下手をすればこのテストで休暇後のクラス替えもあり得ると言われている。追試などという生ぬるいものはない。
 今回は対人戦闘となり、教師が成績を配慮して戦う相手を決める。
 もちろん、サポートや研究をメインにしているクラスは、それごとに試験が決められている。
 リーベのクラスは全員が戦える前提でいるため、対人戦闘となるのだ。
 今回のテストは屋内で行われる。魔術や戦闘に耐えうる資材で作ってある、学院特注の訓練場である。流石に英雄や勇者レベルの攻撃は受けきれないが、最優秀クラスであろうとも、生徒レベルであれば問題なく破壊されず、機能する。

(僕は二番手と戦うんだろうな。死なないように加減してやるか)
『なんじゃ、餓鬼共の観戦かぁ。暇じゃのう……』
(なら対戦リスト見てきてよ)
『おお、よいぞ。偵察じゃな』

 エレメアはリーベの言う通りに、教師のいる場所までふわふわと浮遊していった。
 ここ最近は、彼女は妙に素直である。最初の頃は「人間の世話など……」とぼやいていたものの、頼めば大抵のことはしてくれるようになった。
 ただ懐いているのだと納得すれば良いのだが。
 何にせよ、扱いやすくなっているのは有り難いことだ。

 エレメアが去っていって一人になったリーベは、既に始まった実技テストを見つめていた。
 数ヶ月かけてやっと把握したクラスメイトの実力を思い出し、今戦っている者達を観察する。どちらも、同じような実力を持っている者達だ。
 リーベの予想通り、なるべく互角に近い戦闘力の二人で戦わせているのだろう。
 そうなれば、リーベと戦うのは二番手になる。森での旅行の一件で、リーベの評価は格段に上がっていた。魔術が使えなくても、渡り合える天才だと。
 相変わらず魔術の授業はボロボロだが、他の授業では一番を貫いている。スキルの〈剣聖〉も相まって、彼に勝てる人間はいない。

(二番手は誰だったか……。人間に興味が無いから、他人の評価を見てなかった)
『たっ、たたたた、大変じゃ!』
(うるさいよ、なに? 誰とだったの?)
『教師とじゃ!』
(はあ?)

 森での戦闘で実力が露呈してしまったのは仕方ないとはいえ、学院側がそれを推奨しているわけではない。
 教師と戦うとなれば、必然的に学生たちの注目が刺さる。あの森での出来事を全てのクラスメイトが知っているわけではないため、更にその認知度が上がってしまう。
 学院側では「魔王については言わないように」「目立たないように」と釘を刺されているのに、どうしてそんな組み合わせにできるのだろうか。
 リーベに杖を勧めた件と言い、教師には少々引っかかる部分が多かった。

(……エレメア、あいつの正体を見れる?)
『ん? まあ、いいが……〈上級・洞観ハイ・ディテクト〉』

 エレメアが魔術〈上級・洞観ハイ・ディテクト〉を発動する。Bランク魔術であるため、習得できる人間は少ない。
 大抵の幻惑魔術は、この程度で見通すことが可能――のはずだった。
 エレメアが発動した魔術は、激しい音を立てて打ち消された。その音は、魔術が弾かれて阻止されたことを意味する。もしくは、魔術が失敗に終わったか、だ。
 魔術の全く使えないリーベならばまだしも。大精霊たるエレメアが、魔術を失敗するはずがない。
 となると残された理由としては、Bランクよりも上位の魔術で姿を変えているということだ。

『むん、変じゃのう。打ち消されおった』
(姿を変えてないなら、弾かれるのはおかしいよね?)
『なるほどのう! しかし……人間の分際で。わしの魔術を弾くとは、クククッ……』
(なんか変なスイッチが……)
『フハハハッ! これならば見破れよう――〈真誠の鏡〉!』

 次にエレメアが発動したのは、Sランク魔術の〈真誠の鏡〉であった。
 魔術を展開すると、楕円形の鏡がふわりと現れる。鏡にはエレメアもリーベも写らず、代わりに鏡の向こう側に立っている人間が映し出されている。
 さながらマジックミラーだ。
 鏡を教師に向けると、そこに写ったのは教師ではない人物だった。
 リーベもアリスに連れられて、犯罪者を何十人も見てきたから分かる。彼は裏社会の人間だろう。染み付いたどす黒い汚さが、その顔にはっきりと表れているようだ。
 しかしながら、リーベには見覚えがない。

(……知らないな)
『大方、子に恨みがある誰かの差し金じゃろう。暗殺者までは記憶しておるまい。子の親族と義母は恨み辛みを、大量に買っていそうじゃしのう』
(ふうん。じゃああの男が戦いたがってるのは、事故に見せて殺すつもりなわけか)
『恐らくそうじゃろう。ただ、大精霊たるわしを見れぬとなれば、大したことの無い男じゃ』

 Bランクを弾けるほどのある程度ランクが高い魔術も、複数人で行えば実行可能だ。長く面倒な儀式はあるものの、不可能ではない。
 エレメアが最初に展開した魔術がキャンセルされたところで、別段驚くことでもないのだ。
 エレメアの存在に気付けていれば、もっと警戒するべき相手だっただろう。

(でも元の先生は? いつからあいつだったんだろう?)
『ふむ。後で探してみるかの』
(そうだね。母上の名を汚すのは避けたいし)
『ラストルグエフならよいのか?』
(寧ろ僕が滅ぼしてやりたいね)
『……』

 リーベとしては目の前の暗殺者も、出来れば捕縛したかった。この場で殺してしまえば簡単なことだが、人の目もある。
 学校で殺人を犯したとなれば、進級どころか在学すら危うくなってしまう。出来ることならば上手くねじ伏せ気絶させ、医務室に運び込むふりをして尋問にかけたかった。
 今ここで正体を明かしてしまえば、逃げるのも目に見えている。ここまで巧妙に忍び込んだのならば、逃げ道も確保しているはずだ。
 戦闘中に気付かれて逃げられるのも面倒である。リーレイならば追いつけるだろうが、生徒の前で本気を出すわけにもいかない。

(リーレイかベルを呼んで)
『あいわかった』
「次! リーベ・ラストルグエフ!」
「はい」

 話題の中の人物、リーベが呼ばれる。すると教室中は、一気にざわめき出した。
 女子生徒はリーベの戦う姿を見れると興奮していた。敵意を剥き出しだった男子生徒も、鋭い視線が好奇の目へと変わっている。
 そして誰もが思っていたのは、そんな学年一とも取れるリーベ・ラストルグエフの対戦相手のことだった。

「対戦相手は誰だろうな」
「あの魔獣を倒したやつだぜ?」
「ちょっと楽しみ……」
「期待しているところ悪いが、対戦相手は私が務める」

 教師がそう言うと、周囲は余計に騒がしくなった。
 ストロード学院の教師のレベルはよく知られている。優秀な生徒を排出するためには、優秀な教師を付ける必要がある。
 だからこそ世界一とも言える教師が揃っており、そんな教師と戦うなんてあり得ないことだ。卒業間近の生徒ならまだしも、リーベは入学してから数ヶ月しか経過していないのだ。
 この試験は、前代未聞の事態とも言えるだろう。

「構わないかな?」
「もちろんです」

 リーベはニコリと微笑んだ。愛想のいい作り笑いだった。
 こちらが全てを見透かしているとも知らず、教師のふりをしている男を嘲笑うのを隠しながら微笑んでいる。
 果たしてどう出てくるのか――という期待の微笑みも含んでいた。

「では誰か合図を――」
「わっ、わたしが!」

 声を上げたのは、ミライアだった。フンフンと鼻息を荒くして、必死に手を上げている。
 他の生徒も手を上げていたが、その声量と勢いは一番であった。
 普段はおとなしいミライアであったため、誰もが驚いている。

「じゃあよろしく」
「はい! よーい、はじめ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜

みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。 …しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた! 「元気に育ってねぇクロウ」 (…クロウ…ってまさか!?) そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム 「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが 「クロウ•チューリア」だ ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う 運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる "バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う 「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と! その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ 剣ぺろと言う「バグ技」は "剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ この物語は 剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語 (自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!) しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...