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スピンオフ「剣と精霊の章」
期末試験と真実1
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ストロード学院、長期休暇直前。
この数ヶ月の訓練と勉強の結果をテストするため、実技試験の時間を設けられていた。
今まで習ってきたもののおさらいでもあり、下手をすればこのテストで休暇後のクラス替えもあり得ると言われている。追試などという生ぬるいものはない。
今回は対人戦闘となり、教師が成績を配慮して戦う相手を決める。
もちろん、サポートや研究をメインにしているクラスは、それごとに試験が決められている。
リーベのクラスは全員が戦える前提でいるため、対人戦闘となるのだ。
今回のテストは屋内で行われる。魔術や戦闘に耐えうる資材で作ってある、学院特注の訓練場である。流石に英雄や勇者レベルの攻撃は受けきれないが、最優秀クラスであろうとも、生徒レベルであれば問題なく破壊されず、機能する。
(僕は二番手と戦うんだろうな。死なないように加減してやるか)
『なんじゃ、餓鬼共の観戦かぁ。暇じゃのう……』
(なら対戦リスト見てきてよ)
『おお、よいぞ。偵察じゃな』
エレメアはリーベの言う通りに、教師のいる場所までふわふわと浮遊していった。
ここ最近は、彼女は妙に素直である。最初の頃は「人間の世話など……」とぼやいていたものの、頼めば大抵のことはしてくれるようになった。
ただ懐いているのだと納得すれば良いのだが。
何にせよ、扱いやすくなっているのは有り難いことだ。
エレメアが去っていって一人になったリーベは、既に始まった実技テストを見つめていた。
数ヶ月かけてやっと把握したクラスメイトの実力を思い出し、今戦っている者達を観察する。どちらも、同じような実力を持っている者達だ。
リーベの予想通り、なるべく互角に近い戦闘力の二人で戦わせているのだろう。
そうなれば、リーベと戦うのは二番手になる。森での旅行の一件で、リーベの評価は格段に上がっていた。魔術が使えなくても、渡り合える天才だと。
相変わらず魔術の授業はボロボロだが、他の授業では一番を貫いている。スキルの〈剣聖〉も相まって、彼に勝てる人間はいない。
(二番手は誰だったか……。人間に興味が無いから、他人の評価を見てなかった)
『たっ、たたたた、大変じゃ!』
(うるさいよ、なに? 誰とだったの?)
『教師とじゃ!』
(はあ?)
森での戦闘で実力が露呈してしまったのは仕方ないとはいえ、学院側がそれを推奨しているわけではない。
教師と戦うとなれば、必然的に学生たちの注目が刺さる。あの森での出来事を全てのクラスメイトが知っているわけではないため、更にその認知度が上がってしまう。
学院側では「魔王については言わないように」「目立たないように」と釘を刺されているのに、どうしてそんな組み合わせにできるのだろうか。
リーベに杖を勧めた件と言い、教師には少々引っかかる部分が多かった。
(……エレメア、あいつの正体を見れる?)
『ん? まあ、いいが……〈上級・洞観〉』
エレメアが魔術〈上級・洞観〉を発動する。Bランク魔術であるため、習得できる人間は少ない。
大抵の幻惑魔術は、この程度で見通すことが可能――のはずだった。
エレメアが発動した魔術は、激しい音を立てて打ち消された。その音は、魔術が弾かれて阻止されたことを意味する。もしくは、魔術が失敗に終わったか、だ。
魔術の全く使えないリーベならばまだしも。大精霊たるエレメアが、魔術を失敗するはずがない。
となると残された理由としては、Bランクよりも上位の魔術で姿を変えているということだ。
『むん、変じゃのう。打ち消されおった』
(姿を変えてないなら、弾かれるのはおかしいよね?)
『なるほどのう! しかし……人間の分際で。わしの魔術を弾くとは、クククッ……』
(なんか変なスイッチが……)
『フハハハッ! これならば見破れよう――〈真誠の鏡〉!』
次にエレメアが発動したのは、Sランク魔術の〈真誠の鏡〉であった。
魔術を展開すると、楕円形の鏡がふわりと現れる。鏡にはエレメアもリーベも写らず、代わりに鏡の向こう側に立っている人間が映し出されている。
さながらマジックミラーだ。
鏡を教師に向けると、そこに写ったのは教師ではない人物だった。
リーベもアリスに連れられて、犯罪者を何十人も見てきたから分かる。彼は裏社会の人間だろう。染み付いたどす黒い汚さが、その顔にはっきりと表れているようだ。
しかしながら、リーベには見覚えがない。
(……知らないな)
『大方、子に恨みがある誰かの差し金じゃろう。暗殺者までは記憶しておるまい。子の親族と義母は恨み辛みを、大量に買っていそうじゃしのう』
(ふうん。じゃああの男が戦いたがってるのは、事故に見せて殺すつもりなわけか)
『恐らくそうじゃろう。ただ、大精霊たるわしを見れぬとなれば、大したことの無い男じゃ』
Bランクを弾けるほどのある程度ランクが高い魔術も、複数人で行えば実行可能だ。長く面倒な儀式はあるものの、不可能ではない。
エレメアが最初に展開した魔術がキャンセルされたところで、別段驚くことでもないのだ。
エレメアの存在に気付けていれば、もっと警戒するべき相手だっただろう。
(でも元の先生は? いつからあいつだったんだろう?)
『ふむ。後で探してみるかの』
(そうだね。母上の名を汚すのは避けたいし)
『ラストルグエフならよいのか?』
(寧ろ僕が滅ぼしてやりたいね)
『……』
リーベとしては目の前の暗殺者も、出来れば捕縛したかった。この場で殺してしまえば簡単なことだが、人の目もある。
学校で殺人を犯したとなれば、進級どころか在学すら危うくなってしまう。出来ることならば上手くねじ伏せ気絶させ、医務室に運び込むふりをして尋問にかけたかった。
今ここで正体を明かしてしまえば、逃げるのも目に見えている。ここまで巧妙に忍び込んだのならば、逃げ道も確保しているはずだ。
戦闘中に気付かれて逃げられるのも面倒である。リーレイならば追いつけるだろうが、生徒の前で本気を出すわけにもいかない。
(リーレイかベルを呼んで)
『あいわかった』
「次! リーベ・ラストルグエフ!」
「はい」
話題の中の人物、リーベが呼ばれる。すると教室中は、一気にざわめき出した。
女子生徒はリーベの戦う姿を見れると興奮していた。敵意を剥き出しだった男子生徒も、鋭い視線が好奇の目へと変わっている。
そして誰もが思っていたのは、そんな学年一とも取れるリーベ・ラストルグエフの対戦相手のことだった。
「対戦相手は誰だろうな」
「あの魔獣を倒したやつだぜ?」
「ちょっと楽しみ……」
「期待しているところ悪いが、対戦相手は私が務める」
教師がそう言うと、周囲は余計に騒がしくなった。
ストロード学院の教師のレベルはよく知られている。優秀な生徒を排出するためには、優秀な教師を付ける必要がある。
だからこそ世界一とも言える教師が揃っており、そんな教師と戦うなんてあり得ないことだ。卒業間近の生徒ならまだしも、リーベは入学してから数ヶ月しか経過していないのだ。
この試験は、前代未聞の事態とも言えるだろう。
「構わないかな?」
「もちろんです」
リーベはニコリと微笑んだ。愛想のいい作り笑いだった。
こちらが全てを見透かしているとも知らず、教師のふりをしている男を嘲笑うのを隠しながら微笑んでいる。
果たしてどう出てくるのか――という期待の微笑みも含んでいた。
「では誰か合図を――」
「わっ、わたしが!」
声を上げたのは、ミライアだった。フンフンと鼻息を荒くして、必死に手を上げている。
他の生徒も手を上げていたが、その声量と勢いは一番であった。
普段はおとなしいミライアであったため、誰もが驚いている。
「じゃあよろしく」
「はい! よーい、はじめ!」
この数ヶ月の訓練と勉強の結果をテストするため、実技試験の時間を設けられていた。
今まで習ってきたもののおさらいでもあり、下手をすればこのテストで休暇後のクラス替えもあり得ると言われている。追試などという生ぬるいものはない。
今回は対人戦闘となり、教師が成績を配慮して戦う相手を決める。
もちろん、サポートや研究をメインにしているクラスは、それごとに試験が決められている。
リーベのクラスは全員が戦える前提でいるため、対人戦闘となるのだ。
今回のテストは屋内で行われる。魔術や戦闘に耐えうる資材で作ってある、学院特注の訓練場である。流石に英雄や勇者レベルの攻撃は受けきれないが、最優秀クラスであろうとも、生徒レベルであれば問題なく破壊されず、機能する。
(僕は二番手と戦うんだろうな。死なないように加減してやるか)
『なんじゃ、餓鬼共の観戦かぁ。暇じゃのう……』
(なら対戦リスト見てきてよ)
『おお、よいぞ。偵察じゃな』
エレメアはリーベの言う通りに、教師のいる場所までふわふわと浮遊していった。
ここ最近は、彼女は妙に素直である。最初の頃は「人間の世話など……」とぼやいていたものの、頼めば大抵のことはしてくれるようになった。
ただ懐いているのだと納得すれば良いのだが。
何にせよ、扱いやすくなっているのは有り難いことだ。
エレメアが去っていって一人になったリーベは、既に始まった実技テストを見つめていた。
数ヶ月かけてやっと把握したクラスメイトの実力を思い出し、今戦っている者達を観察する。どちらも、同じような実力を持っている者達だ。
リーベの予想通り、なるべく互角に近い戦闘力の二人で戦わせているのだろう。
そうなれば、リーベと戦うのは二番手になる。森での旅行の一件で、リーベの評価は格段に上がっていた。魔術が使えなくても、渡り合える天才だと。
相変わらず魔術の授業はボロボロだが、他の授業では一番を貫いている。スキルの〈剣聖〉も相まって、彼に勝てる人間はいない。
(二番手は誰だったか……。人間に興味が無いから、他人の評価を見てなかった)
『たっ、たたたた、大変じゃ!』
(うるさいよ、なに? 誰とだったの?)
『教師とじゃ!』
(はあ?)
森での戦闘で実力が露呈してしまったのは仕方ないとはいえ、学院側がそれを推奨しているわけではない。
教師と戦うとなれば、必然的に学生たちの注目が刺さる。あの森での出来事を全てのクラスメイトが知っているわけではないため、更にその認知度が上がってしまう。
学院側では「魔王については言わないように」「目立たないように」と釘を刺されているのに、どうしてそんな組み合わせにできるのだろうか。
リーベに杖を勧めた件と言い、教師には少々引っかかる部分が多かった。
(……エレメア、あいつの正体を見れる?)
『ん? まあ、いいが……〈上級・洞観〉』
エレメアが魔術〈上級・洞観〉を発動する。Bランク魔術であるため、習得できる人間は少ない。
大抵の幻惑魔術は、この程度で見通すことが可能――のはずだった。
エレメアが発動した魔術は、激しい音を立てて打ち消された。その音は、魔術が弾かれて阻止されたことを意味する。もしくは、魔術が失敗に終わったか、だ。
魔術の全く使えないリーベならばまだしも。大精霊たるエレメアが、魔術を失敗するはずがない。
となると残された理由としては、Bランクよりも上位の魔術で姿を変えているということだ。
『むん、変じゃのう。打ち消されおった』
(姿を変えてないなら、弾かれるのはおかしいよね?)
『なるほどのう! しかし……人間の分際で。わしの魔術を弾くとは、クククッ……』
(なんか変なスイッチが……)
『フハハハッ! これならば見破れよう――〈真誠の鏡〉!』
次にエレメアが発動したのは、Sランク魔術の〈真誠の鏡〉であった。
魔術を展開すると、楕円形の鏡がふわりと現れる。鏡にはエレメアもリーベも写らず、代わりに鏡の向こう側に立っている人間が映し出されている。
さながらマジックミラーだ。
鏡を教師に向けると、そこに写ったのは教師ではない人物だった。
リーベもアリスに連れられて、犯罪者を何十人も見てきたから分かる。彼は裏社会の人間だろう。染み付いたどす黒い汚さが、その顔にはっきりと表れているようだ。
しかしながら、リーベには見覚えがない。
(……知らないな)
『大方、子に恨みがある誰かの差し金じゃろう。暗殺者までは記憶しておるまい。子の親族と義母は恨み辛みを、大量に買っていそうじゃしのう』
(ふうん。じゃああの男が戦いたがってるのは、事故に見せて殺すつもりなわけか)
『恐らくそうじゃろう。ただ、大精霊たるわしを見れぬとなれば、大したことの無い男じゃ』
Bランクを弾けるほどのある程度ランクが高い魔術も、複数人で行えば実行可能だ。長く面倒な儀式はあるものの、不可能ではない。
エレメアが最初に展開した魔術がキャンセルされたところで、別段驚くことでもないのだ。
エレメアの存在に気付けていれば、もっと警戒するべき相手だっただろう。
(でも元の先生は? いつからあいつだったんだろう?)
『ふむ。後で探してみるかの』
(そうだね。母上の名を汚すのは避けたいし)
『ラストルグエフならよいのか?』
(寧ろ僕が滅ぼしてやりたいね)
『……』
リーベとしては目の前の暗殺者も、出来れば捕縛したかった。この場で殺してしまえば簡単なことだが、人の目もある。
学校で殺人を犯したとなれば、進級どころか在学すら危うくなってしまう。出来ることならば上手くねじ伏せ気絶させ、医務室に運び込むふりをして尋問にかけたかった。
今ここで正体を明かしてしまえば、逃げるのも目に見えている。ここまで巧妙に忍び込んだのならば、逃げ道も確保しているはずだ。
戦闘中に気付かれて逃げられるのも面倒である。リーレイならば追いつけるだろうが、生徒の前で本気を出すわけにもいかない。
(リーレイかベルを呼んで)
『あいわかった』
「次! リーベ・ラストルグエフ!」
「はい」
話題の中の人物、リーベが呼ばれる。すると教室中は、一気にざわめき出した。
女子生徒はリーベの戦う姿を見れると興奮していた。敵意を剥き出しだった男子生徒も、鋭い視線が好奇の目へと変わっている。
そして誰もが思っていたのは、そんな学年一とも取れるリーベ・ラストルグエフの対戦相手のことだった。
「対戦相手は誰だろうな」
「あの魔獣を倒したやつだぜ?」
「ちょっと楽しみ……」
「期待しているところ悪いが、対戦相手は私が務める」
教師がそう言うと、周囲は余計に騒がしくなった。
ストロード学院の教師のレベルはよく知られている。優秀な生徒を排出するためには、優秀な教師を付ける必要がある。
だからこそ世界一とも言える教師が揃っており、そんな教師と戦うなんてあり得ないことだ。卒業間近の生徒ならまだしも、リーベは入学してから数ヶ月しか経過していないのだ。
この試験は、前代未聞の事態とも言えるだろう。
「構わないかな?」
「もちろんです」
リーベはニコリと微笑んだ。愛想のいい作り笑いだった。
こちらが全てを見透かしているとも知らず、教師のふりをしている男を嘲笑うのを隠しながら微笑んでいる。
果たしてどう出てくるのか――という期待の微笑みも含んでいた。
「では誰か合図を――」
「わっ、わたしが!」
声を上げたのは、ミライアだった。フンフンと鼻息を荒くして、必死に手を上げている。
他の生徒も手を上げていたが、その声量と勢いは一番であった。
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