「あなたに毒林檎」

C.B

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 そんな私の雰囲気を察知したのか,玲子は鞠ちゃん気分でも悪いの?と、顔を覗き込んでいる。
私は生理が近いのかもとうそぶきお花摘みに行って来ると心配顔の玲子に告げ席を立った。
 トイレに入った時、立ち並ぶ個室を見て少し鳥肌が立ったが洗面所の前で鏡を覗き口紅の乱れをそっと拭い自分の顔をじっと見つめた。
 私は一体これからどうなるのだろう?漠然とした思いだけが私の小さな心に重くのしかかりまたブルーになって行く……。
赤い林檎も混ざり込んできて少し紫がかった色に染まる私……。
「はぁー」また溜息が出てきた……。

 数日が過ぎ、2個目の林檎は生まれて来ることも無く、彼とのSEXは愛し合うという深い見解の一致で、より深い快楽を追求する方向に流れていた。
彼の股に跨り勃起したおちんちんを手にし、なんのためらいもなく自身の性器にあてがい深々と腰を落とす……。
 彼の言う通りに腰を振ると最初はぎこちなかったが以前に比べるとかなり気持ちがいい。
 私は自然と彼のおちんちんの形に添い膣内の構造も把握し腰を振ることを覚えていった。
自分の腰を相手の腰に密着させ少しのけぞり気味に片手を後に付き腰を8の字に回し前後に揺らす……。
 膣内の肉壁を余す所なく肉の棒にこそげ落とさせるように擦り合わせる、もうたまらなかった……。
私の腰はクネクネと動き出し彼のおちんちんを求めさ迷った……。
 彼は腰を真上に強く上下する動きで、のけぞった私のあまり大きくない形の良い乳房を揉みしだいたり乳首を転がし摘んだりしている。
 愛撫される私の体の全ては日々感じやすくなっており、吐息を漏らすたび彼に”えっちな子”だと言われますます膣内から体液を溢れさせていった。
 その時、彼と私は一言も会話を交わさなかった。
ベッドの軋みと荒い息遣い、体液がかき回されるえっちな音と幾度となく漏れ出す私の吐息……。頭の中は人でありたいと願いながら、一方でそれを拒否している私。
 人ではない肉の塊に変身しているように思えた。
ぐにゃりぐにゃりと混ざり合い一つに溶けて流れる汗の雫を外に漏らさぬよう一心不乱にかき集めている……。

あそこの中で彼のおちんちんが動く……。

 私の腰の動きは彼のリズミカルな腰の動きにも合わせ相互に干渉しあい私の快楽はますます深くなっていく……。
 時折何故だか彼は私の尻あたりを叩いた……。叩かれるたび私は大きな声を漏らし、また腰を振った。
 私は果てた。そして、彼も果てた。
私は彼に絶頂と言うSEXの果てにある頂まで連れて来られていたのだった。

 今までは怖くて逃げていた頂点……。
始めはクリトリスが一番気持ち良かったが、今は膣内の奥になにやら快楽の壺があってそこをおちんちんで刺激される事を至上の喜びに変えているようだ。
私はぐったりとしてしまっていて彼の身体の上にうなだれ身動きが取れない……。
私の中でおちんちんはまだ勃起していて私はその肉棒に身体を支えられ貫かれ動けない肉塊……。
魂はここには無く脳みその皺の一本一本全てが快楽の肉塊だった。
彼は目を開き朦朧とした意識の中でへたりこんでいる私の顔を上げさせ唇を探し舌を入れ込む。
「凄い良かった……鞠」と、彼。
 私もとろんとした目つきで離れがたい彼のおちんちんからあそこを引き抜きそのままキスを丹念に交わし、彼の体の下半身へキスを繰り返していった。
 彼の両手を握り占め指を絡め再び無言のふたり……。
彼の強度の落ちたおちんちんに到達するのに時間はかからず私はあの時玲子の教えてくれたフェラをしてあげた。
 気持ち良くしてくれた彼へのお礼と彼の喜ぶ顔が見たいからだった。
彼はだんだんと私の顔がそこへ近づくにつれ頭を枕に落とし込み、これから起る行為をじっと待っているようだ。
 私は彼のおちんちんに被さっているコンドームをなんとか外しこっそりと中の白濁した液体を見つめティッシュに包みゴミ箱に捨てた。
 元気のなくなって来ているおちんんちんに私は軽く舌を絡めキスをした。
彼の表情は見えなかったがキスしたとたん彼の腰がピクリと動くのを感じた……。
そして、深々と口の中に納めると舌をくるくる回しおちんちんの肉茎を刺激する……。
 唾と舌を使い……鞠の口の中はじゅるじゅるとした唾液で溢れ、今、口を開こうものならだらだらとこぼれ出すだろう……。
 いとおしい彼のおちんちん……さっきまで私のあそこの中で動いていたおちんちん……。
 私をただの肉の塊にしてくれるおちんちん……。
音を立てぬよう咥え歯を立てぬよう注意しながら子供の頃好きだったアイスキャンデーを頬張るように舐め上げた。

 彼はよがっていた……。
これが玲子の言っていた男の吐息だ……。
それをきちんと耳にした時、私はますます彼が、SEXが好きになっていった。
 私は夢中で舐めた……。
そうしていると彼が身体を起こし私の頭に手を置いてきた。
「気持ちいいよ鞠」
「もっと音を立てて…… そう、えっちな音を立ててくれ。感じるんだその方が」
「もっときつく吸って……」
「いい子だ。いい子だ……気持ちいいぞ鞠」
 彼の声は遠くで聞こえてはいるが力強く私に指示を与える……。
その声は魔法だった……。言われるがままに私は彼の指示に従った。
ふと気がつくと私の頭は強く握られ上下に激しく揺さぶられていた……。
 びっくりして頭を離そうとするともっと強い力で私の頭を押さえつけてきた。
喉の奥までおちんちんを入れ込もうと腰も振れていた……。
 彼はかなり興奮していた。私の力では抵抗する事が出来なかった……。
髪の毛をきつく掴まれもうこれ以上限界と思ったとき、彼はまた激しく小さな声を漏らすと私の口の中でもう一度果ててしまった。
そして、私の口からおちんちんを抜くとそのまま飲みなさいと囁いた。
私が口をつぐんだまま目を丸くしていると、目を覗き込みもう一度囁いてきた。
「俺の言うことを聞きなさい、鞠」
 私はとまどったがそのまま口に溢れる唾と一緒に彼の放った精子を飲み込んでいた。
彼のおちんちんから出された白いであろう液体は喉を通り私の中に消えていった。
味は良く判らなかった。そして、私と彼はシャワーを浴びSEXあとの余韻を楽しんだ。

 私は彼に素直な質問をぶつけてみた。
「あーいうふうにするのが好きだったの?」
「え? なんのこと?」
「……」
「意地悪……」
 私の顔はシャワーの熱気と自分の火照りで顔がますます赤くなって行くのが判った。
彼は私の顔をまじまじと見つめている……私が口を開くのを待っているのだ。
「フェラチオ……」
「……ごめんね。きつかった?」
「ずっとずっと私にあーいうふうにしたかったの? 命令口調とか……」
「うん……」と、彼が言う。
「時期が来るの待ってたの?」
「うん……」
「まだ色々したいことがあるの?」
 彼はそれっきり答えてくれず。私の身体にボディーシャンプーを染み込ませたスポンジで丁寧に洗い出していった……。

 社会人の彼は次の日朝早く出て行った。取り残されたような私は昨晩のSEXを思い出しながらベッドでまどろんだ。
けだるい身体の疲れと下腹部にぽっかりとその形のまま空間ができてるような感覚だった。
 自分の顔をちらりとベッド脇の鏡で見るとなんだか少し大人になったような気がしたが、
昨日の行為をこの鏡は見ていたのかと思うと恥ずかしくなり布団をかぶり眠りこけてしまった。
 目が覚めたのはお昼過ぎで苦痛ではない身体のだるさを感じながら少しガニマタ気味でトイレに入った。そして、こともあろうに2個目の林檎を産み落とした。
今度は捨てずに取っておく事にした。
眺めていたいと言う好奇心も少しは沸いてきているからだったが、どこに捨てても大変なことになりそうだったからだ。
川に投げ入れた林檎の事を思うと少し胸が痛んだ……。
私はリビングの中央にある脚の低いテーブルにランチョンマットを敷いて林檎を置き強烈な眼を飛ばした。
どこをどう見ても林檎だ……私が産んだと言うことを忘れてしまえれば朝食にもってこいの林檎……夜食でもいい……。
しかし、食べたらどうなる、心の片隅にあるジレンマがまた湧いてきていて、玲子の言っていた言葉も思い出された。”誰かに食べさせる”でも一体誰に?
日本人はこれまでなんでも食して来た? だけどそれには何事においても先人ありきでその人の功労が次の世代に受け継がれ、積み重ねられた知識が現在の美食となっているはずだ……。
しかし、私がこの林檎を食べ死んでしまったら意味をなさないだろう。
次に一体だれがこんな林檎を産み落とすと言うのだ?
次から次へと湧き上がる思いは困惑に変わっていった。

Å.
彼に食べさす? 死んでしまったら殺人者だ……。
毒物が検出されなくても私は良心の呵責にさいなまれ一生を暮らすなんて嫌だ、

死なないまでも妙な病気にならないとも限らない、私はそんな彼を面倒見続けれるのだろうか?

B.
玲子に食べさす?これも基本的にNGだ……それとも、
可愛い親友に本当のことを話してしまおうか? 

彼女なら一緒に悩んでくれるかもしれない、だけど、やはり怖い……。

C.
私が食べる?やはりここは生みの親の私が食べないことには親としての責任を果たせないか?しかし、親は子供を食べないぞ? トホホ……。

D.
動物に食べさせてみよう♪
これはかなりまともなアイデアだった。
車で少し遠出した所に大きな森林公園がある。
あそこの公園にはかなりの数の鳩がいるはずだ。
しかーし……これまた、目の前で起り得る惨事になったら私は今日の夕刊に載ってしまうだろう……。

【妄想の果て鳩を殺す美人女子大生】
 新聞記事の内容まで想像でき、テレビのワイドショーレポーターがベンチのそばで死んだ鳩たちの場所を示しながら
神妙な顔と低い口調で視聴者に訴えかけている
「これは現代社会が産んだもう一つの悲しい事件です」
 とかなんとか……。
私は19年生きてきて自分がこんな妄想壁のある人間だとは思いもつかなかった。
うまく行けばこのりんごネタで有名小説家に成れるかもしれない。あーお馬鹿な私……馬鹿、馬鹿、馬鹿、こんなときに……。
私は頭をかきむしった。私はなんだかあの日の果物屋のじーさんのように背中が丸まり首を水平方向に伸ばしその林檎を見つめながら座り込んでいる。はたから見たらかなりあぶない人……。
髪はぼさぼさ血色も悪く蒼ざめこめかみ辺りの血管がどくどくと脈打ち、パジャマはよれて肩が半分出ている……。
私は、自分のそんな姿を鏡で見つめハッとし我に返った。そうだ、あの果物屋に行こう!
何かヒントがあるかも知れない、そう思い立った私はバタバタと髪を直しお気に入りの口紅を引き服を着替える。
ドアに手をかけたときチラリと産みたての林檎を持って出ようかどうか悩んだがやっぱり置いておく事はできず、紙袋に入れバッグに押し込んだ。

 果物屋は少し歩いた商店街の中にある。
だがこのあたりに住んで1年しかたっておらずまだまだ行っていない店も知らない道も路地もある。
たまたま迷い込んだ路地裏の果物屋だったが多分行けばなんとかなるかという安易な思いでドアを閉め鍵をかけた。
外に出ると秋口の良い天気で吹く風が心地良く肌の露出した部分に当たる。

 長い髪がさらさらと揺れ彼の愛撫を思い出していた。
髪を撫でてくれる彼。
髪を指に絡め弄ぶ彼。
髪を口に挟みするすると滑らせる彼。
私の顔が良く見えるように両脇に寄せてくれる彼。
髪にキスをしてくれる彼。
そして、きつく髪を掴み揺さぶる彼……。
私は顔を赤らめた。
「俺の言うことを聞きなさい!鞠」
 その言葉はかなり衝撃的で身体はいつでも反応してしまい膣の奥からドロリとした熱い塊を吐き出しそうだったが、
今は忌々しいりんごのことを最優先にしないといけない……。
それはそれは悲しい私の物語……。一生この症状が続くのだろうか? 
私はこのままずーっとこの秘密を抱えたまま生きて行くのだろうか?
溜息は後を絶たず私を混沌とした赤と青の混ざる紫の世界に引きずり込んでいく……。
全ての始まりがあのじーさまだとしたらあの人は一体何者?
姿を変えこの世で一番美しい女を抹殺するために過去からやってきた悪い女王?
すると私は玲子よりも美しい白雪姫か?
悪くはなかったがまた妄想壁だと、どよんとした気分になってしまった。
頭を垂れれぼとぼと歩いていると商店街の大きなアーチ型看板の前に辿り着いていて、
はるか先まで伸びひしめき合う商店街を眺めた。
さしずめ映画ならクレーン操作のカメラが私の顔のアップから
アーチ型看板をなめ一直線に伸びる商店街の空撮を撮っているかもしれなかった。
私はおかしな宿命を持つ悲劇のヒロインで林檎を産み落とす女、鞠絵(まりえ)。
監督は鈴木林太郎でシュールなコメディになるかな?……。

 商店街に挟まれた道路をきょろきょろしながら横に伸びた路地を探したがどうも良く判らなかった。
なんとここの商店街は近県でも類を見ない長さを誇っていて、
駅で例えると3個分くらいの距離を平気で歩く覚悟が必要なのだ。
しかも左右に伸びている路地はそのまま区画整理されていない住宅地へ続いているらしかった。
 偶然立ち寄ったあの店を探すのは至難の技で下手な考えだった。判ろうはずが無かった。
店の名前なんて覚えていなかったし記憶の糸をたぐり寄せても何も出てこない、
出てくるのはいやらしい顔したじーさまのほくそえむ顔ばかり……。
その顔が目の前にちらついては消えてゆく。果物屋は2、3件見かけたがどこにも注意書きのある林檎など置いてはいなかった。
危険な林檎を売ることなどありえないのだ。
あの時のことはただの白昼夢?私が林檎を産み落とすのは定めで、
この秘密を守り通せという神の啓示なのだろうか?
「神様って言うより悪魔かな?」
 生まれたてのDNAにちっちゃなナイフを付き立て小さな毒林檎を仕込む悪魔……。
いつかその日が来たら生まれてくる仕掛けになっていて
これから何万個の林檎を産み落とそうとも私は文句を言えないのだろうか?

 お腹がぐうと鳴った。
朝から食べずに動き周ったからで携帯の時計を見ると12時近い。
揚げ物の匂い、お漬物の匂い、香ばしいパンの香り、大好きな佃煮の匂い、爽やかな果物の香り……。
良い匂いのする商店街は私の食欲を増した。バッグの中には林檎が1個。
どこか落ち着ける場所で食べてしまおうかと思ったが、
大きく頭をかぶり振り、怖いよ?ブルブルブル、と呻いた。
私はこの先の商店街をぼーぜんと眺め、たまに入る洋食屋を思い出し来た道を戻った。
 数分歩くと通路の右の方にアイボリーホワイトと淡いブルーのストライプで塗装を施された外見が見え始めた。
どこにでもありそうな町の洋食屋に私は滑り込んだ。

 扉を作り付けのベルがとカランカランと鳴り、いらっしゃーいという元気の良いウェイトレスの声が響いた。
ここの料理は何を食べても外れが無く案外美味しい。
いつ来ても老若男女で溢れていてランチタイムも賑わっていた。
店内に入ると一つだけぽっかり開いているテーブルに座り込み、
ウェイトレスが水を持ってくるのを待ち特製オムライスを注文した。
テーブルの上に置かれたレモン入りの氷水はグラスからしずくが垂れワンポイントの黄色が爽やかで、見た目にも美しいひと時の幸せだった。
グラスを手に取り冷たい水を喉に流し込むと身体中にビタミンが染みわたり
大きな”ほっ”という文字が飛び出しほわほわと宙を舞いあたりをさ迷った……。
”ほっ”が消えかけようとしていた時その文字は”ゲ!”という厚みのある大きな縁取りの文字に変わり
テーブルを挟み2個はす向かいに座る老人男性の背中に突き刺さった!
ゲゲゲ!!!そして、もっとドスドス突き刺さっていった。
私が放った妄想文字攻撃の被害にあったのは、背は高そうだだ猫背のじーさま……。そう、あいつだった!
私が捜し求めていた御仁は目の先数メートルの所に居て何かを食していらっしゃる。
もそもそと背中や肩が上下し奇妙な動きは、
まさか皿に直接舌を立て舐めているのではと思われたが、私は焦りだしていた。
「どうする? どうしよう?」
 隣の空席においたバッグの中の林檎がこの上なく憎らしくそいつにぶつけてやりたい気持ちでいっぱいになったが、
そんなことは出来なかった。何事にも確認という事は大事なのだ。
あいつが一体何者で私になんで毒林檎? を食べさせたのか?なぜあの林檎が私の物なのか、訳を知るまでは……。
 そうこうしているうちに特製オムライスが届いたがどこが特製なのか味も香りも見た目も、
さっぱり判らず手だけをせかせか動かしスプーンを口に運んだ。
目はゴウゴウに燃え、彼の動きだけを追った。

 近くに立っていたウエイトレスはなんだか冷ややかな目で私を見ていたように思えたが、
じーさまの食事はいつ終わるかわからない……。
こちらとしても早急に事を進めねばならない……。
思いのほか背の高いご老人はゆっくりと弧を描くよう身体をゆっくりと起こし水をお飲みになっておられる。
どうやら食事を終えたらしく、その満腹感がこっちにも伝わってきて私も口に運びかけたスプーンをパタリと皿の上に戻した。
彼はきっと運ばれてきた料理を綺麗に丁寧に丹念に、米粒一つ残さず食べ尽くしているに違いなかった。
老人は振り向き手招きした。私はドキリとして目を逸らそうとしたが逸らす事はできずにその老人と目が合ってしまった……。
ひと時の永い沈黙が生まれたが、彼の目は私にではなく後にいる元気の良いウェイトレスに向けられていた。
「お嬢さんお水のお替わり」
 ウェイトレスはそそくさとトレイにグラスを乗せると老人の元に水のお替りを届けた。
「おじーちゃん、今日も元気そうだね、いつも綺麗に食べるねー」と、ウェイトレス。
「私は毎日林檎を食べているから元気なのです。お嬢さんのもあるけど食べる?」と、老人。
「いいの、それはおじーちゃんが食べていいのよ」と、にっこり微笑むウェイトレス。
「御代は幾らだい?」
「1280円になりまーす」
「じゃ、ご馳走様ーまた来ます」
 老人は財布を取り出すのかと思いきやお替わりの水をグイと飲み干すと、そのまま席を立ち店の外へ出ようとしている……。
そして私を見ながら満面の笑みでこちらに向かい歩いてくるのだ。
私はドギマギしながら息を飲み胃の中の特製オムライスが口から出てくるのを必死で押さえた。
老人は私のテーブルの前で立ち止まり話しかけて来た。
「お嬢さんもべる? あなたの分もある、まだまだいっぱいあるよ……」と、囁いた……。
 自分の顔が見る見るうちに蒼ざめていくのが判った。
そのやり取りに気付いたウェイトレスや店長はすかさず飛んできて老人の背中を押しつつ。
「おじーちゃん!また何かした? すいませんねこの人私の父でして……少し、ですね……スイマセン、スイマセン」
 店長やウェイトレスは頭を何度も上下させ老人のやった非礼を詫びに詫び、
店内は一瞬騒然となってしまい、特製オムライスは無料となったが、
私はそのおじーさんがやっぱりただの人で痴呆なのか頭のいかれた人なのか正確には判らなかったが、
こちらの猛烈な思いにピリオドを打つには充分でその店を後にした。 

 アパートに戻る道すがら異常体質になってしまった私の原因を紐解く手だてはこれで断ち切られたが、
毒林檎から放出される赤くて細い糸は切れることなく私に絡まり続け
薄暗いじめじめした部屋の隅っこに転がされ、芋虫のように這いつくばっている自分を想像した。
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