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結ばれた手と手
掲げられたもの・1
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「よっしゃー!完、全、復、活っ!」
朝。諸々の支度を済ませて宿屋の玄関前に降り立った勇者は両手を挙げて叫んだ。
朝は弱い方なのか、普段にも増してダルそうなセラは眩しいほどに元気なユウの様子に眉を顰めた。
「……それだけ元気なら後遺症の心配はなさそうね」
魔力欠乏症は魔力さえ回復すればすぐに回復する病だが、発症している最中は身体の防衛機構が弱まるために後に風邪などの病気を発症することが少なくない。が、今回はその心配はなさそうである。持前の若さとセラの魔力供給によって迅速に欠乏症から脱し、十分な睡眠で体力を回復したことが功を奏したようだ。
「今日はどないすんの?」
片側に控える騎士にユウが尋ねる。
「出発のための準備だ。といっても、保存食を買うぐらいか」
食料以外の消耗品は王都から持ってきたものがまだまだ余裕がある。だが食料は保存期間の問題もあってあまり多くは持ってきていないのだ。荷物としての容積も馬鹿にならないので旅先でその都度揃えていった方が都合がいい。
ただ、農村であるデマリには大きな商店といったものは存在しないので、基本的には村人に交渉したりたまたま訪れていた商人と取引するなどして揃える必要がある。十分な量を揃えるにはそれなりに時間がかかると思った方がよいだろう。
「分かった。ほな行こか」
そう言ってユウは足元の塊を抱え上げる。
塊、もとい薄桃色のスライムはされるがままという状態で大人しいものだ。例え抱えなくてもユウが歩けばその後ろを付いてくる。
「――連れてくつもりか」
レイが呆れた様子で尋ねるが、ユウは何を当たり前のことを言うのかといった態度だ。
「部屋でお留守番は寂しいやんか。なぁ、さくらもち」
「……さくらもち?」
聞き慣れない単語にレイが訊き返すと、こくんとユウが頷く。
「これからずっと一緒におるんやから名前いるやろ?」
レイとしてはなし崩し的に連れていくことになってしまったので、そんなこと考えもしなかった。
「それは……まぁ、そうかもしれんが……もっと呼びやすい名前はなかったのか」
「いやだって……桜餅やん?」
「……さくらもちが何かは分からないけど、なんだかおいしそうな響きね」
「ほら、セッちゃんもええ名前やって」
セラがどう言ったかはともかく。ユウがその名前で満足しているならレイとしてもそれ以上口を挟む余地はない。
「まったく……魔物を連れてるやつに物は売れないとか言われないといいけどな。とりあえず行こう」
「なんか甘いもん買っとこ。甘いもん」
「焼き菓子とか譲ってもらえないかしら」
「日持ちするものにしてくれよ」
「日持ちしないなら今食べればいいじゃない」
「セッちゃん頭ええなぁ」
ころころと表情を変えるユウと終始不愛想なセラ。対照的であるようだが、こう見ると姉妹のように見えなくもないなとレイは思った。
ともかく、三人が食料品の調達のためにデマリ村の中を散策し始めてしばし。途中昼食を挟みつつ太陽が頂点を過ぎ、西日が近くなってきた頃。村内が俄かに騒がしくなったのに気づいた。
「なんだ?」
レイが怪訝に思うのとほぼ同じタイミングで、その姿を見とがめた村人が声をかけてきた。
「おお、あんたぁ、確か騎士様だろ!ちょっと話聞いてやってくれねぇか!」
農夫の男にそう言われて、騎士は隣の魔法師と目を見合わせた。
それは疑問から来る動作というよりは、確認のための目配せだった。騎士が必要とされることなど、たいてい決まっているのだ。
「……昨日の今日だからな。さすがに何か運命のようなものを感じないでもない」
「多分あるんじゃない?そういうの。だって勇者召喚は世界の運命を変える魔法、界律魔法だもの」
頭上を飛び交う意味深なやりとりに、ただ一人事態を把握していないユウは首を傾げた。
朝。諸々の支度を済ませて宿屋の玄関前に降り立った勇者は両手を挙げて叫んだ。
朝は弱い方なのか、普段にも増してダルそうなセラは眩しいほどに元気なユウの様子に眉を顰めた。
「……それだけ元気なら後遺症の心配はなさそうね」
魔力欠乏症は魔力さえ回復すればすぐに回復する病だが、発症している最中は身体の防衛機構が弱まるために後に風邪などの病気を発症することが少なくない。が、今回はその心配はなさそうである。持前の若さとセラの魔力供給によって迅速に欠乏症から脱し、十分な睡眠で体力を回復したことが功を奏したようだ。
「今日はどないすんの?」
片側に控える騎士にユウが尋ねる。
「出発のための準備だ。といっても、保存食を買うぐらいか」
食料以外の消耗品は王都から持ってきたものがまだまだ余裕がある。だが食料は保存期間の問題もあってあまり多くは持ってきていないのだ。荷物としての容積も馬鹿にならないので旅先でその都度揃えていった方が都合がいい。
ただ、農村であるデマリには大きな商店といったものは存在しないので、基本的には村人に交渉したりたまたま訪れていた商人と取引するなどして揃える必要がある。十分な量を揃えるにはそれなりに時間がかかると思った方がよいだろう。
「分かった。ほな行こか」
そう言ってユウは足元の塊を抱え上げる。
塊、もとい薄桃色のスライムはされるがままという状態で大人しいものだ。例え抱えなくてもユウが歩けばその後ろを付いてくる。
「――連れてくつもりか」
レイが呆れた様子で尋ねるが、ユウは何を当たり前のことを言うのかといった態度だ。
「部屋でお留守番は寂しいやんか。なぁ、さくらもち」
「……さくらもち?」
聞き慣れない単語にレイが訊き返すと、こくんとユウが頷く。
「これからずっと一緒におるんやから名前いるやろ?」
レイとしてはなし崩し的に連れていくことになってしまったので、そんなこと考えもしなかった。
「それは……まぁ、そうかもしれんが……もっと呼びやすい名前はなかったのか」
「いやだって……桜餅やん?」
「……さくらもちが何かは分からないけど、なんだかおいしそうな響きね」
「ほら、セッちゃんもええ名前やって」
セラがどう言ったかはともかく。ユウがその名前で満足しているならレイとしてもそれ以上口を挟む余地はない。
「まったく……魔物を連れてるやつに物は売れないとか言われないといいけどな。とりあえず行こう」
「なんか甘いもん買っとこ。甘いもん」
「焼き菓子とか譲ってもらえないかしら」
「日持ちするものにしてくれよ」
「日持ちしないなら今食べればいいじゃない」
「セッちゃん頭ええなぁ」
ころころと表情を変えるユウと終始不愛想なセラ。対照的であるようだが、こう見ると姉妹のように見えなくもないなとレイは思った。
ともかく、三人が食料品の調達のためにデマリ村の中を散策し始めてしばし。途中昼食を挟みつつ太陽が頂点を過ぎ、西日が近くなってきた頃。村内が俄かに騒がしくなったのに気づいた。
「なんだ?」
レイが怪訝に思うのとほぼ同じタイミングで、その姿を見とがめた村人が声をかけてきた。
「おお、あんたぁ、確か騎士様だろ!ちょっと話聞いてやってくれねぇか!」
農夫の男にそう言われて、騎士は隣の魔法師と目を見合わせた。
それは疑問から来る動作というよりは、確認のための目配せだった。騎士が必要とされることなど、たいてい決まっているのだ。
「……昨日の今日だからな。さすがに何か運命のようなものを感じないでもない」
「多分あるんじゃない?そういうの。だって勇者召喚は世界の運命を変える魔法、界律魔法だもの」
頭上を飛び交う意味深なやりとりに、ただ一人事態を把握していないユウは首を傾げた。
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