剣が振れなくても世界を救えますか?~勇者として召喚されたのは非力な女の子でした~

noyuki

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結ばれた手と手

掲げられたもの・2

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 人だかりが出来ていたのは村の北部。街道へと至る村の北出入り口だった。

 交易で立ち寄る商人達の荷馬車を停めておくために広場となっているそこにデマリ村の住人達が深刻な面持ちで集まっていたのだ。

「おうい!騎士様を連れてきたぞ!」

 レイ達を連れてきた男がそう声を上げると、人並みが左右に割れた。その中をレイ達が行く。

 村人達は皆不安を顔面に張り付かせていたが、レイが現れたことで少しばかりそこに安堵が混ざったように見受けられる。騎士という存在は身を守る術のない民達にとって心の拠り所なのだ。とりわけこのデマリ村のような村には王都のような城壁もない。もし自警団で対応できないような何かが襲ってきた場合、頼れるのは王国の騎士や兵士だけなのである。

「おお、来ていただけましたか!」

 昨日も見た白が混ざった頭髪。デマリ村の村長ルッツが人垣の中心にいた。

 その姿を見つけたユウはふと思い出して話しかけた。 

「村長さん!ちゃんと言えてへんかったけど、さくらもち村に入れてくれてありがとうなぁ」

「さくらもち……?あ、ああ、スライムのことですか。いや、まぁ、湖から他のスライムはいなくなりましたし、それぐらいなら……」

 ユウとその胸のさくらもちを交互に見やって、困惑とも苦笑ともつかない微妙な表情を浮かべた村長だが、すぐにそれどころではないと表情を引き締めた。

「何かあったようだな」

 レイが尋ねるとルッツは神妙な顔で頷いた。その態度から、起きている事態が昨日までのスライムの比ではないことが伺える。

「詳しくは彼から直接聞いていただい方がよいでしょう」

 そういってルッツは身体の向きを変えて視線を下げた。

 そこにいたのは土埃にまみれた旅装束に身を包んだ男だった。年齢は三十の前半ほどか、人好きのしそうな丸顔を今は蒼白にして、村の出入り口にかけられているアーチに背を預けて座り込んでいる。

 着ている衣服は地面を転げまわったように砂まみれ、その上擦り切れている部分もある。軽く転んだ、ではこうはなるまい。

 男を観察していたレイが目を細める。男の左側頭部に血が滲んでいる。あまり大きな出血ではないが、腫れてもいるようだ。転んだだけではよほど打ち所が悪くない限りそうはなるまい。

「何があった。話してみろ」

 レイが座り込んで男に視線の高さを合わせると、男は地面から視線を上げた。

 口を開いて言葉を発しようとするが、唾液が乾ききってしまっていて上手く声が出ない。レイは男が落ち着いて話せるようになるまでジッと待った。やがて落ち着いてきて声が出せるようになると、男は恐怖と、憤りを込めて言った。

「――小鬼族ゴブリンに、襲われました」

 事前に聞いていたからこそのこの騒ぎだろうに、改めてその名を聞いた村人達がざわついた。

 その名は下級とはいえ人間の敵、紛れもなく魔族を示す名称であったからだ。

「ゴブリン?なんや聞いたことあるな」

 ユウが説明を求めてセラを見やった。

「奴らのカーストでは最下位に位置する小柄な魔族よ。あまり賢い種族じゃないけど、言語を理解する程度の知能はあるし悪知恵も働く」

「魔族……でも魔族領ってまだまだ遠くなんとちゃうの?こんなところまで来んの?」

「たまに、カーストが低い魔族が人間領に逃げてくることがあるのよ。なまじ知能があるばかりに他の魔族に虐げられるを嫌がってね。もちろん領堺は厳重な警備が敷かれているけど、少数のそういった逃亡者まで完全に発見するのは難しい状況よ」

 ふむふむと頷いていたユウははっとしたように目を見開く。

「魔族領が嫌で逃げてきたなら、人間うちらと仲よぉできるんちゃうか?」

 ユウならばそう言うかもしれない。分かってはいたが、そのあまりにも世界を知らない発言にセラは、その発言が他の村人に聞かれてはいないか周囲を伺う必要があった。

 だが、村人はレイと男のやりとりに注視していてこちらに意識が向いている様子はなかった。聞かれないように、ユウの耳元に顔を近づけてセラが答える。

「……魔族ってのはね、人間のことを対等な存在とは思っていないのよ。私達がそうであるように。そんな奴らが人間領に来てどうやって生きていくか、答えは一つよ」

 ユウとセラが話している間にも、レイは男から詳しい状況を聞き出していた。

「――私は、主に村間での物資配送を生業にしています。今回は、リユからデマリまでの配送の途中でした。あと僅かで村に着く、というところで奴らに襲われました……」

 リユ、というのはここデマリからしばし北上したところにある村の名前だ。
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