剣が振れなくても世界を救えますか?~勇者として召喚されたのは非力な女の子でした~

noyuki

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結ばれた手と手

掲げられたもの・3

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「護衛は?」

 レイが問うと男は再び顔を伏せる。

「一人連れていました。ですが、馬車が横転した際に道に投げ出されて……体制を立て直す前に奴らに袋叩きにされているのが見えました。私にも襲い掛かってきて、私は、私はもう、怖くて……襲われながらも必死でここまで、ここまで走って……」

 レイは震える男の肩に手を置いてやる。戦う力を持たない者は逃げるしかない。護衛を見殺しにしたからといって責められることはあるまい。護衛もこういったことが起こりうると分かっていてその職業に就いているはずだ。

「馬車が横転したと言ったな?街道に何か罠でも仕掛けられていたのか?」

「そ、それが……」

 男は、怯えを振り払うように首を振った。生き残った者には、被害がさらに拡大しないように伝える義務がある。そう自分に言い聞かせるように記憶を手繰る。

「何か、大きな生き物が木々の間から飛び出してきて馬を押し倒したんです……」

「なんだと?」

 思わず聞き返したレイが詳しい話を求めて男を促す。だが、男は頭の傷が痛むように頭を抱えて呻く。

「よく、分かりませんでした……何かが目の前に飛び出してきたと思った瞬間に馬車ごと私は吹き飛ばされて……痛む身体を無理やり起こすと護衛が小鬼族ゴブリンに襲われているのが見えて、その後は……」

 それ以上の言葉が続かない。察するに自分に襲い掛かってくる小鬼族から逃げようと周囲が見えなくなってしまったのだろう。

「小鬼族以外にも何かいるのか……」

 小鬼族の身長は大人でもせいぜいユウより少し低い程度、馬を押し倒せるような体格ではない。

 何か別の、小鬼族よりも強力な魔族ないし魔物がいると考えるのが当然の流れだろう。

「騎士様……」

 隣で話に耳を傾けていた村長が口を開いた。

「我々デマリの自警団は、これより総力をあげて小鬼族の討伐を行います。ですが、ここは魔族領が遠く離れた地、知ってはいても魔族など見たこともないようなものがほとんどです。当然、自警団に魔族退治のノウハウなどありません……」

 その後に続く言葉は簡単に察せられる。それはレイとしても願ってもない機会だった。

 一瞬だけ振り返って、レイは黒髪の勇者を見た。きょとんとした黒瞳と視線が交錯する。彼女にこの世界を知ってもらうのが旅の目的、その絶好の機会がこうも早く、そして立て続けにやってくるとは。

(運命を変える魔法、それが勇者召喚、それが界律魔法か……)

 レイは魔法師の言った言葉を頭の中で反芻した。魔物に次いでユウに魔族を知ってもらう絶好の機会がやってきた。もとより多少の危険は承知の上、そのためにレイとセラがいる。

「分かった。小鬼族は俺達がなんとかしよう」

 周囲の村人達から安堵にも似た歓声が上がった。騎士が協力してくれるというのであれば、これ以上の助力はない。

 騎士とは、民達の平穏を護る崇高な精神を持ち、対魔族を想定した厳しい訓練を乗り越えた精鋭なのである。

「では今すぐ自警団を召集します!討伐隊の編成を……」

 勇むルッツをレイは制す。

「いや、まずは俺達だけで様子を見に行く。多くの人員を割いて行動するにはもう時間が遅すぎる。自警団は村の北側の守りを固めろ」

「しかし、それでは騎士様達が危険なのでは……?」

「身を案じてくれて悪いがな、小鬼族程度が数匹集まった程度じゃ準備運動にもならない」

 それは決して奢りや油断ではない。敢えて言うのならば誇り。時に魔族の最高位である魔神族デモリスとも交戦することのある一の騎士団ナイツ・オブ・ザ・ワンにとって小鬼族が数匹集まったところで物の数ではない。

 他に気がかりなこともある。ただでさえ一人護衛対象がいることが明白な状況で、これ以上護る必要があるものを増やしたくないということもある。自警団の面子の問題もあるのでそれをレイが口にすることはなかったが。

「これは……余計な気づかいをしてしまいました。では、ここで守備に専念しております」

 村長の言葉に一つ頷いて、レイは腰を上げた。

「よし、宿に戻って装備を整えたらすぐに現場の様子を見に行くぞ。いいな?」

「――うちも行く!」

 置いていかれると思ったのだろう、前のめりでそう訴えるユウの頭に騎士は手を置いた。

「もちろんだ。お前に魔族を見てもらうのは旅の目的の一つだからな」

 ユウは珍しく険しい表情を浮かべていた。さすがに人の命が関わっている事態に緊張しているのだろうとレイは思った。

「なら急ぎましょう。日が暮れたら様子を見ることもできないわ」

 セラの言葉に従って、一同は装備を整えるべく宿へと走った。

 さくらもちを抱えたまま走るユウは終始険しい顔のままだった。

 彼女が何を考えていたのか、ほどなくしてレイとセラは思い知ることになる。
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