剣が振れなくても世界を救えますか?~勇者として召喚されたのは非力な女の子でした~

noyuki

文字の大きさ
15 / 115
結ばれた手と手

掲げられたもの・3

しおりを挟む
「護衛は?」

 レイが問うと男は再び顔を伏せる。

「一人連れていました。ですが、馬車が横転した際に道に投げ出されて……体制を立て直す前に奴らに袋叩きにされているのが見えました。私にも襲い掛かってきて、私は、私はもう、怖くて……襲われながらも必死でここまで、ここまで走って……」

 レイは震える男の肩に手を置いてやる。戦う力を持たない者は逃げるしかない。護衛を見殺しにしたからといって責められることはあるまい。護衛もこういったことが起こりうると分かっていてその職業に就いているはずだ。

「馬車が横転したと言ったな?街道に何か罠でも仕掛けられていたのか?」

「そ、それが……」

 男は、怯えを振り払うように首を振った。生き残った者には、被害がさらに拡大しないように伝える義務がある。そう自分に言い聞かせるように記憶を手繰る。

「何か、大きな生き物が木々の間から飛び出してきて馬を押し倒したんです……」

「なんだと?」

 思わず聞き返したレイが詳しい話を求めて男を促す。だが、男は頭の傷が痛むように頭を抱えて呻く。

「よく、分かりませんでした……何かが目の前に飛び出してきたと思った瞬間に馬車ごと私は吹き飛ばされて……痛む身体を無理やり起こすと護衛が小鬼族ゴブリンに襲われているのが見えて、その後は……」

 それ以上の言葉が続かない。察するに自分に襲い掛かってくる小鬼族から逃げようと周囲が見えなくなってしまったのだろう。

「小鬼族以外にも何かいるのか……」

 小鬼族の身長は大人でもせいぜいユウより少し低い程度、馬を押し倒せるような体格ではない。

 何か別の、小鬼族よりも強力な魔族ないし魔物がいると考えるのが当然の流れだろう。

「騎士様……」

 隣で話に耳を傾けていた村長が口を開いた。

「我々デマリの自警団は、これより総力をあげて小鬼族の討伐を行います。ですが、ここは魔族領が遠く離れた地、知ってはいても魔族など見たこともないようなものがほとんどです。当然、自警団に魔族退治のノウハウなどありません……」

 その後に続く言葉は簡単に察せられる。それはレイとしても願ってもない機会だった。

 一瞬だけ振り返って、レイは黒髪の勇者を見た。きょとんとした黒瞳と視線が交錯する。彼女にこの世界を知ってもらうのが旅の目的、その絶好の機会がこうも早く、そして立て続けにやってくるとは。

(運命を変える魔法、それが勇者召喚、それが界律魔法か……)

 レイは魔法師の言った言葉を頭の中で反芻した。魔物に次いでユウに魔族を知ってもらう絶好の機会がやってきた。もとより多少の危険は承知の上、そのためにレイとセラがいる。

「分かった。小鬼族は俺達がなんとかしよう」

 周囲の村人達から安堵にも似た歓声が上がった。騎士が協力してくれるというのであれば、これ以上の助力はない。

 騎士とは、民達の平穏を護る崇高な精神を持ち、対魔族を想定した厳しい訓練を乗り越えた精鋭なのである。

「では今すぐ自警団を召集します!討伐隊の編成を……」

 勇むルッツをレイは制す。

「いや、まずは俺達だけで様子を見に行く。多くの人員を割いて行動するにはもう時間が遅すぎる。自警団は村の北側の守りを固めろ」

「しかし、それでは騎士様達が危険なのでは……?」

「身を案じてくれて悪いがな、小鬼族程度が数匹集まった程度じゃ準備運動にもならない」

 それは決して奢りや油断ではない。敢えて言うのならば誇り。時に魔族の最高位である魔神族デモリスとも交戦することのある一の騎士団ナイツ・オブ・ザ・ワンにとって小鬼族が数匹集まったところで物の数ではない。

 他に気がかりなこともある。ただでさえ一人護衛対象がいることが明白な状況で、これ以上護る必要があるものを増やしたくないということもある。自警団の面子の問題もあるのでそれをレイが口にすることはなかったが。

「これは……余計な気づかいをしてしまいました。では、ここで守備に専念しております」

 村長の言葉に一つ頷いて、レイは腰を上げた。

「よし、宿に戻って装備を整えたらすぐに現場の様子を見に行くぞ。いいな?」

「――うちも行く!」

 置いていかれると思ったのだろう、前のめりでそう訴えるユウの頭に騎士は手を置いた。

「もちろんだ。お前に魔族を見てもらうのは旅の目的の一つだからな」

 ユウは珍しく険しい表情を浮かべていた。さすがに人の命が関わっている事態に緊張しているのだろうとレイは思った。

「なら急ぎましょう。日が暮れたら様子を見ることもできないわ」

 セラの言葉に従って、一同は装備を整えるべく宿へと走った。

 さくらもちを抱えたまま走るユウは終始険しい顔のままだった。

 彼女が何を考えていたのか、ほどなくしてレイとセラは思い知ることになる。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...